10 / 35
√エリザベース act.2
① 踏んだり蹴っ……踏まれたり、ですわ
しおりを挟む
「本日も私のお部屋からスタートですわね。ピコピコ、ログインしたから早速プレゼントボックスを確認するとしますわ」
「空かもしれないピコよ? そこのクローゼットが便宜上プレボだピコ」
私は開ける手を一瞬止めました。だってまた何かなだれてきたら危ないですもの。
「そぉっと、そぉっと……え?」
驚いて取っ手を普通に引いてしまいましたわ。
「やっぱりなだれてきたぁぁ! なにこれ……木材?」
「ピータンからメッセージカードが届いているピコ」
「なになに?【君はよろしくのキスをくれたのに、俺は何もお返しできず君に逃げられてしまったので、こちらこそよろしくの木材を贈ります。】……って、木ぃ切り過ぎただけだろ!!」
「令嬢の言葉づかいじゃないピコ~~」
「こんなクローゼットいっぱいの木材、何に使えというのよ……」
「たまにはDIYでもするピコ……」
さて、オートプレイの間、エリザベースはどう過ごしていたのかしら。日記帳は、と。
【3月3日。おーほっほっほっほ。よくってよ、よくってよ。私は世界が認めた令嬢の中の令嬢、エリザベースでございます!】
個人の日記で自己紹介する人、初めて見た。こんなテンションになるくらい、いいことがあったのかな。
「どうやら知人の紹介でいいご縁があったようだピコ。相手の爵位は同じ子爵だけど、縁があるだけマシだって彼女は分かってるピコ」
まぁ上を目指して嫁ぎそびれるよりはね……。で、進展はあったの?
【6月3日。遠くへ行きたい……。知らない街を歩いてみたい……。】
その3ヶ月の間に何があった――!!?
「もう彼女の日記読むの怖いよ。くすん」
「どうやら……散歩中、犬に踏まれたり」
えっ、犬を踏みそうになって転んだ、じゃなくて、犬に踏まれたの?
「暴風雨の中を出かけたら傘がラッパ傘になって、それをそこらの悪ガキにからかわれたから泣きべそかいて逃げたり」
誰か暴風のなか出かける彼女を止めて!
「あげくの果てには……」
聞かなきゃダメ?
「その子爵家令息との初デートの日、美容院の前で待ち合わせだったのに、間違えて病院の前で待ってたピコ」
「まさか気付かずに丸1日待ってたの!?」
「待ってもお相手は来ないし、そのうち病院の中に引き込まれて、入院患者のお婆さんたちの話相手になってあげてたピコ。そして後日、相手の家から断りの連絡が……」
「ねぇもうほんとにエリザベース大丈夫?」
本気で心配です。オートに任せない方がいいかしら。
「一人っ子で箱入り娘だから仕方ないピコ」
ならずっと一人で箱に入ってるといいわ。
「実際、お婆さんたちに寄り添う、心の優しい娘だピコよ……」
しかも意外に聞き上手っていうんでしょ。
「で、その後も舞踏会に参加したけど、ずっと壁の花だったピコ」
落ちたテンションのままパーティー行っても、ねぇ。
「ってことは今、完全にフリー。選び放題ですわよ」
「イイ男は上から順に売却されていくから、下層で選び放題ピコ」
夢のないこと言うな……。
「次の社交パーティーはどんな雰囲気のところかしら」
ピコピコがご都合主義にスケジュール帳を取り出した。
「次はまだちょっと先だけど、晩餐会に出席するみたいだピコ」
「晩餐会、夕ご飯とおしゃべりを楽しむ親睦会ね。そこで目立つ作戦を立てましょう」
「目立つ~~?」
「だって、そういうのって主催者の決めた席順で決まってしまうじゃない。隣に座った人だけでなくて、さくっと目立ってたくさん釣れるの待ち作戦ですわよ」
「簡単に言うけど~~、どうやって目立つピコ?」
う――ん。
「やっぱり、持ち込み企画かな!」
「?」
「何何する人この指止まれ~~、って言い出した人は目立つでしょ」
「何かゲームを始めて、そこで勝って目立つってことピコ?」
「そう、ゲーム! ゲームは大人になってもみんな大好き! でも勝って目立つのは難しい。そういうのってね、勝ち星の下に生まれた人しか、勝てないようになってるの」
「勝ち星?」
「そういうので勝って目立てる人っていつも決まってるんだもん。この世のすべては運ゲーなのよ」
「実力ゲーで負け続けた人の詭弁だピコ……」
「だから、仕切る係で目立つ方に舵を取りますわ。企画持ち込んだ本人なら可能ですわ」
そういったわけで、考え事するためにお散歩に出ましたわ。
「エリザベースも歩けば棒に当たるピコ~~」
ん! かるたはどうかしら!!
「トランプはみんな好きピコ」
でも、10人以上が一緒に遊ぶのは無理ですわよね。
「ゥゥ~~」
その時、私に向かって唸る一匹の犬に遭遇しましたの。なによ何か文句ありまして?
「こら! ビンゴ!!」
この犬の飼い主かしら。走り寄ってくる男性……いっ、イケメン~~!!
「もう平民に手を出すなピコ」
「ビンゴ、ダメだぞ。はっ、あなたは!!」
あら、運命の出会いを感じてしまわれたのかしら? よくってよ。
「以前、このビンゴが踏んづけたお嬢様!」
こいつか……ガルルルル。
「お怪我はありませんでしたか? その節はうちのビンゴがとんでもないことを。申し訳なくて、あなたのお顔を忘れられませんでした」
はぁ、美しいって罪。
「大事ありませんでしたわ。私が油断したのがよろしくなかったのですし」
美しいのに謙虚。どう?
「そうですよね! どんだけ油断したら犬に踏まれるんだって話ですよね!」
……いくらイケメンでも、この方とはまっっったくソリが合わなさそうですわ。
「ふぅ。それにしても、ビンゴか。……よし、決めたわ! ゲームはビンゴで決まり!!」
「仇敵と同じ名を冠するゲームに運命を託すピコ?」
「私はあの犬にそこまで張り合っていません~~」
おとといこいですわ! ビンゴめ!
「だってビンゴはその場にいる全員が、お食事やおしゃべりの片手間に遊べるゲームですのよ。そして私は司会者をしていれば、そのあいだ顔を売ることができるのですわ」
「まぁ実際できるかどうかは別だピコ。この時代に現代のビンゴは存在しないピコ。その原型となるゲームがどこかで発祥して、変形して伝わっている過渡期だピコ」
「そんなに言うほど難しいことかしら? ルールなんて単純ですし」
「やるのは問題ないピコよ。ボクが言ってるのは準備の話だピコ」
「準備?」
「ビンゴやるには何が必要ピコ?」
「……ビンゴカード」
「現代みたいにワンコインショップ入ったらすぐ希望の商品出てくると思うなピコよ」
……ビンゴカード、作るしか!??
「空かもしれないピコよ? そこのクローゼットが便宜上プレボだピコ」
私は開ける手を一瞬止めました。だってまた何かなだれてきたら危ないですもの。
「そぉっと、そぉっと……え?」
驚いて取っ手を普通に引いてしまいましたわ。
「やっぱりなだれてきたぁぁ! なにこれ……木材?」
「ピータンからメッセージカードが届いているピコ」
「なになに?【君はよろしくのキスをくれたのに、俺は何もお返しできず君に逃げられてしまったので、こちらこそよろしくの木材を贈ります。】……って、木ぃ切り過ぎただけだろ!!」
「令嬢の言葉づかいじゃないピコ~~」
「こんなクローゼットいっぱいの木材、何に使えというのよ……」
「たまにはDIYでもするピコ……」
さて、オートプレイの間、エリザベースはどう過ごしていたのかしら。日記帳は、と。
【3月3日。おーほっほっほっほ。よくってよ、よくってよ。私は世界が認めた令嬢の中の令嬢、エリザベースでございます!】
個人の日記で自己紹介する人、初めて見た。こんなテンションになるくらい、いいことがあったのかな。
「どうやら知人の紹介でいいご縁があったようだピコ。相手の爵位は同じ子爵だけど、縁があるだけマシだって彼女は分かってるピコ」
まぁ上を目指して嫁ぎそびれるよりはね……。で、進展はあったの?
【6月3日。遠くへ行きたい……。知らない街を歩いてみたい……。】
その3ヶ月の間に何があった――!!?
「もう彼女の日記読むの怖いよ。くすん」
「どうやら……散歩中、犬に踏まれたり」
えっ、犬を踏みそうになって転んだ、じゃなくて、犬に踏まれたの?
「暴風雨の中を出かけたら傘がラッパ傘になって、それをそこらの悪ガキにからかわれたから泣きべそかいて逃げたり」
誰か暴風のなか出かける彼女を止めて!
「あげくの果てには……」
聞かなきゃダメ?
「その子爵家令息との初デートの日、美容院の前で待ち合わせだったのに、間違えて病院の前で待ってたピコ」
「まさか気付かずに丸1日待ってたの!?」
「待ってもお相手は来ないし、そのうち病院の中に引き込まれて、入院患者のお婆さんたちの話相手になってあげてたピコ。そして後日、相手の家から断りの連絡が……」
「ねぇもうほんとにエリザベース大丈夫?」
本気で心配です。オートに任せない方がいいかしら。
「一人っ子で箱入り娘だから仕方ないピコ」
ならずっと一人で箱に入ってるといいわ。
「実際、お婆さんたちに寄り添う、心の優しい娘だピコよ……」
しかも意外に聞き上手っていうんでしょ。
「で、その後も舞踏会に参加したけど、ずっと壁の花だったピコ」
落ちたテンションのままパーティー行っても、ねぇ。
「ってことは今、完全にフリー。選び放題ですわよ」
「イイ男は上から順に売却されていくから、下層で選び放題ピコ」
夢のないこと言うな……。
「次の社交パーティーはどんな雰囲気のところかしら」
ピコピコがご都合主義にスケジュール帳を取り出した。
「次はまだちょっと先だけど、晩餐会に出席するみたいだピコ」
「晩餐会、夕ご飯とおしゃべりを楽しむ親睦会ね。そこで目立つ作戦を立てましょう」
「目立つ~~?」
「だって、そういうのって主催者の決めた席順で決まってしまうじゃない。隣に座った人だけでなくて、さくっと目立ってたくさん釣れるの待ち作戦ですわよ」
「簡単に言うけど~~、どうやって目立つピコ?」
う――ん。
「やっぱり、持ち込み企画かな!」
「?」
「何何する人この指止まれ~~、って言い出した人は目立つでしょ」
「何かゲームを始めて、そこで勝って目立つってことピコ?」
「そう、ゲーム! ゲームは大人になってもみんな大好き! でも勝って目立つのは難しい。そういうのってね、勝ち星の下に生まれた人しか、勝てないようになってるの」
「勝ち星?」
「そういうので勝って目立てる人っていつも決まってるんだもん。この世のすべては運ゲーなのよ」
「実力ゲーで負け続けた人の詭弁だピコ……」
「だから、仕切る係で目立つ方に舵を取りますわ。企画持ち込んだ本人なら可能ですわ」
そういったわけで、考え事するためにお散歩に出ましたわ。
「エリザベースも歩けば棒に当たるピコ~~」
ん! かるたはどうかしら!!
「トランプはみんな好きピコ」
でも、10人以上が一緒に遊ぶのは無理ですわよね。
「ゥゥ~~」
その時、私に向かって唸る一匹の犬に遭遇しましたの。なによ何か文句ありまして?
「こら! ビンゴ!!」
この犬の飼い主かしら。走り寄ってくる男性……いっ、イケメン~~!!
「もう平民に手を出すなピコ」
「ビンゴ、ダメだぞ。はっ、あなたは!!」
あら、運命の出会いを感じてしまわれたのかしら? よくってよ。
「以前、このビンゴが踏んづけたお嬢様!」
こいつか……ガルルルル。
「お怪我はありませんでしたか? その節はうちのビンゴがとんでもないことを。申し訳なくて、あなたのお顔を忘れられませんでした」
はぁ、美しいって罪。
「大事ありませんでしたわ。私が油断したのがよろしくなかったのですし」
美しいのに謙虚。どう?
「そうですよね! どんだけ油断したら犬に踏まれるんだって話ですよね!」
……いくらイケメンでも、この方とはまっっったくソリが合わなさそうですわ。
「ふぅ。それにしても、ビンゴか。……よし、決めたわ! ゲームはビンゴで決まり!!」
「仇敵と同じ名を冠するゲームに運命を託すピコ?」
「私はあの犬にそこまで張り合っていません~~」
おとといこいですわ! ビンゴめ!
「だってビンゴはその場にいる全員が、お食事やおしゃべりの片手間に遊べるゲームですのよ。そして私は司会者をしていれば、そのあいだ顔を売ることができるのですわ」
「まぁ実際できるかどうかは別だピコ。この時代に現代のビンゴは存在しないピコ。その原型となるゲームがどこかで発祥して、変形して伝わっている過渡期だピコ」
「そんなに言うほど難しいことかしら? ルールなんて単純ですし」
「やるのは問題ないピコよ。ボクが言ってるのは準備の話だピコ」
「準備?」
「ビンゴやるには何が必要ピコ?」
「……ビンゴカード」
「現代みたいにワンコインショップ入ったらすぐ希望の商品出てくると思うなピコよ」
……ビンゴカード、作るしか!??
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる