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プロローグ

③ みんなみんな生きているんだ! 私は霊だけど~。

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『私は山のふもとの村で暮らす娘、マリーヤ。普段は牛の乳しぼったり、ヤギの乳しぼったり、羊の乳しぼったりして生計を立てていまぁす』

 うわぁマリーヤ可愛いなぁ。可憐だなぁ。

『実はね、そろそろボーイフレンドのピータンとね、結婚することになっているの』
「はい、ちょっと待って――!」

 一時停止っと。

「何だピコ?」
「ピータンってなに?」
「ボーイフレンドだって言ってるピコ」
「いや、ペーターじゃなくて? 100歩譲ってピーターじゃなくて? ピータン??」

 巻き戻し&スロー再生。

「ぼぉぉいふれぇんどぉのぉぴぃぃぃぃたぁんとぉ……」
「満足したかピコ?」

 はい。

『でもね、彼とはまだキスもしてないの』
 あら、それでもう結婚なの? そういう時代?

『女の恋はキス2回目がいちばん楽しい時だからね……。引き延ばせるだけ引き延ばした方がいいのよ……』

 今マリーヤすっごいスレた顔した――!!

「ゲームのシナリオライターが中年だから、たまに年齢不詳な台詞吐く時あるピコ……」

『マリーヤ!』
『あら、ピータン!』
 ……ピータン!! うわぁぃ超イケメン~~!!! アッシュの艶髪に緑の瞳! 長身で細身、なのに逞しい! で、なんで名前がピータンなの?

『君に大事な話があって』

 ピータン、私のドストライクだわ。こんな結婚相手、毎日見つめて過ごせたら、乳絞りもはかどるってもんでしょ。

『なぁに?』
『俺、やっぱり君とは結婚できない』
 …………。

『え? どうして?』
『知ってしまったんだ。君は俺と近所のスチーブン、二股かけてるんだろう!?』
『そんな! 私は二股なんてしてないわ!』
【五股はしてるけど】
 えっ……。

「それはマリーヤの心の声。ボクたちには聞こえるけど、ゲームの登場人物にはもちろん聞こえないピコよ」

『信じたいけれど、君はただでさえこんなに可愛いんだ。大都会フランポフルトに出ていた時期もあり読み書きできるし』

 はいっ、一時停止――!! いやどこかは分かったけどもぉ。

「またピコ? でも今回はスルー推奨だピコ」
「……ピータン噛んだ?」
「シナリオライター、何度も確認して誤植ないピコ」
「はい、スルーします」

 再生。

『所作も美しい。そんな君は男たちの肉よk……憧れの的だ。俺は不安になってしまって、夜しか眠れない』
 昼寝、したいよね……。

【ちっ。二股とか、誰から聞いたんだろ。めんどくさいわね……】

「ちょっと! 舌打ちしたよ~~? マリーヤ、この顔で腹黒過ぎない?」

『俺は俺に一途な、ひたむきで損得勘定のない女性を探す≪心の旅≫に出たいと思う』

 心の旅強調した……。
 損得勘定のない女なんていやしないわ。まったく、永遠に心の旅してばいいんじゃない?

『君の幸せをそこそこ願っているよ』
 そこそこ付けるな。

『ピィィィタ――ン!!』

「彼も去ってしまったピコね……」
 なんだこの(ピーッ)ゲー!!
「これで選べって言うの!?」

「いや、だからね。このふたりをお試しプレイして、気に入った人生の方に転生させてあげるっていう、太っ腹シチュエーションだピコ」
「お試し?」
「ふたりのルートをほぼ同時に試させてあげるピコ。転生後にも、セーブデータが役立ったりするピコ」

 そうは言っても……。金持ちでも頭ゆるふわなせいで前途多難なお嬢様、美少女だけど腹黒なせいで波乱起きそうな村娘、どっちもどっちだよ。

「いや、どうせ転生するならもっと安定した人生がいい。金髪に生まれてくるのは捨てがたいけど、また日本でいいよ。ゲーム手に入りやすいし」

「お嬢ちゃん、甘いよ……」
 ピコピコの様相が変わった! シビアな感じに!

「地球上にこれだけの生物種があって、何で二度連続、人間に生まれてこれるって思うかなぁ……?」
「だ、だめなの?」
「あと何回死んだら人間に生まれてこられるかなぁキミは……。ちなみにここでこのふたりから選ばないのなら、キミの来世は“ミミズ”か“オケラ”か“アメンボ”だがよろしいか?」
「よりによってその3つ!?」
「それでも今生のキミより、彼らのが友達多いけどね……」

 さりげなく失礼なこと言われているけど、その3匹が友達同士なら私より友達多いってことよね。

「まぁ一応プレイしてみる……。片方をエンディングまでやったら残りの方をってこと?」
「そうじゃなくてぇ。更なる効率化を目指して! 途中でお試し先をスイッチできるアイテムがあるピコ! じゃじゃ――ん!」

 その手に取り出したのは、歯車?

「これは天道の歯車! これを使うともう片方のルートにワープできるピコ!」
「こっちのルート飽きた~~って時にログアウトしないでそっちに行く、みたいな?」
「まぁそんなとこピコ。6回使えるピコ。でも最後にいるルートに転生が決まるから、6回目は保険ピコよ。さて、どっちのルートから試すのかなぁ~~」
「じゃあ、まず令嬢の方に行こうか……」

こうして私の夏休みは始まった。人生は終わったが。

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