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プロローグ

② だって「よくってよ」と言ってしまいましたの

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『おーほっほっほっほ。よくってよ! よくってよ!! ワタクシ、世界が生んだ令嬢の中の令嬢、エリザベースでございます!』

 なんもよくない! 1行目から引いてしまうんですけど!

「気長になってピコ……」

『お家は子爵位でそこそこですわ』

 わりと謙虚……。

『わたくし、フリージ伯爵家のラインホルト様と婚約しておりまして、結婚秒読みですの~。ラインホルト様とは社交界のパーティーで出会ったのですけど、落としたハンカチーフを拾っていただいたところからご縁が…。お互い一目で恋に落ちたってことですの~~!』

 おのろけご馳走様です。

「のりえがそのラインホルト様と結婚できるピコよ。ラインホルト様は金髪碧眼の美形貴族だピコよ」
「そりゃイケメンは大好物だけど、私、帰国子女で金髪碧眼なんて見慣れてるから厳しいよ」
「あ、エリザベースのところにラインホルト様がやってきたピコ!」
「なにっ!?」

 私はゲーム画面にかじりつくため、身体を乗り出した。

「いやあああ超美形~~!!」
「乙女ゲームには乙女の夢が詰まってるピコ。彼女を選んで転生すれば、この彼の逞しき腕も逞しき胸も逞しきちょめちょめも、全部のりえのものだピコ!」
「ニクタイのことばかり言いなさんな……。それにしてもこのエリザベース、どの辺が悪役令嬢なの? 高飛車なだけだと思うけど」

『あら、ごきげんようラインホルト様。今日はどういったご用件でこちらへ?』

 これエリザベース冷静を装ってるけど、絶対「明日にでも結婚しよう! いや今すぐ結婚しよう!!」って彼に迫られるの期待してるよね。そわそわしてるもん。

『エリザベース、実は君との婚約を白紙に戻したいんだ』
『えっ? ……ええっ??』
『わけは聞かないでくれ』
『どうしてですの!? 私、何も落ち度はございませんわよね!?』

 聞かないでって言われてもそりゃ聞いちゃうよね。ていうか早速なに、この展開。

『君は今、社交界で噂になっているのだよ』
『私の美しさが、ですか?』
『いや。君の美しさは噂になってもおかしくないレベルだけど、49日は持たない程度だから』

 褒めてるの? 貶してるの?? あと75日って言って!

『はっ! まさか! 私の美しさを妬んで、ありもしない私の不義理を面白おかしく捏造して悪評を流した輩がいるのですね!? そうなんでしょう? そんなのはただの……』
『エリザベース。君、先日下々のためのバザーに出ただろう?』

 バザー? 慈善事業のための、市場みたいなのだよね。人が集まるから他のイベントとかもやってて――……。

『なななな、なぁんのことかしらららぁ?』

 エリザベース、隠し事できなさそう。

『そこで君は演劇に出演した! そう、君は素晴らしく演じて魅せたのさ! 地球の平和を乱すノットリホウダイ軍の総帥、悪役カビローンロンを!!』
『!!!』

 子どもたちに何かを啓蒙しそうな劇だねそりゃ……。

『もちろん、慈善事業に携わることは良いことだ。しかし嫁入り前の娘が、さすがにカビローンロンは……』

 うん、カビローンロンはないよねうん。劇見てなくても分かる。エリザベース、きっとノリノリでやったんだろな。

『両親もこの結婚には反対するようになってしまった。どうしてそんな劇になど出たりしたんだい?』
『もう隠し立てできませんわね……実は、通りすがりの老人がバザーの催しの担当者だったのですけど、カビローンロン役の役者が急に腹痛で劇が始められなくて困っていると……。通りすがりの私を頼ってきて断り切れず……』

 なんとも通りすがりと通りすがりによる運命の出会い!!

『当たり役に出会えて良かったな。まったく残念だよエリザベース。……しかし、それでなくても』
『?』
『もしかしたら、私の運命の相手は他にいるのではないかと、そう感じてしまったのだ』
『えええ~~??』

「ああ、ラインホルト様行っちゃったピコね……」
「ナニコレ――! 悪役令嬢じゃなくて、ただの頭が悪い令嬢ってだけじゃん!」
「頭悪いって言っちゃだめピコ! 頭弱いとかちょっと残念とか、他にマイルドな言い方あるピコ!」
「この子に生まれ変わったら、この地頭で生きていかなきゃいけないの?」

 これじゃいいとこのお嬢に生まれかわって左団扇で暮らす~なんて無理でしょ!

「じゃあ、村娘の序章を見てみるピコよ」

 こっちも頭ゆるふわだったらどうしよう……。
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