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④ 絶体絶命?

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 今宵も王族は船上パーティーだ。王太子の婚約者という肩書を失った私は参加資格もないので、船にはちゃっかり乗り込んだが、そのまま抜き足差し足で彼の寝室の方へ向かう。

 今夜のミッションは寝室への強行突破。そして手練手管的な何か。彼はいつもパーティーを早引けするので、そろそろね。

 私はそのドアノブに手を掛けた。
「部屋の鍵もかかってない……」
 船上で何が起こるということもないのだ、不用心というほどのことでもない。

 でも、私が今からそこで何か起こしちゃうんだから!


 入室した私はドレスを脱ぎ捨て、下に着こんでおいたシュミーズ一枚でベッドに寄っていった。

 ベッド上が膨らんでいる。これは手っ取り早い!

「アルフレッド様……もうお休みですか?」

 掛け物をぺろっとめくり、ごそごそとそこへ潜り込んだ。


 さて、何をどうすればいいのだろう。隣でぴとっとくっついて寝てればいいのかな。

「…………」
 体感3分ほど、ぴとっとしてみたが、何の反応もない。

 ははん、さては熟睡ね。じゃあ次の手は? ゾーエが言っていたとおりに、起きてもらうために乗っかってみようか。

 私は彼の膝をまたいで腰を落としてみた。そしてここからは? ああもう頭が真っ白でゾーエに教わってメモしたこと全部忘れてしまった。

 暗くて何も見えないけど、きっとそうだ、これはよく言われる「生まれたままの姿で」どうこうしなくてはいけないのだ。

 いやぁ……脱ぐのはさすがに恥ずかしいな。私の服はまぁおいおいということで、ちょっとだけ彼を脱がしてみよう。

「ちょっと失礼しますよ~~……」
 寝巻の襟元を開けてみた。なんというかもう、未知の世界である。ちょっと触っていいかしら。

「きゃ―」
 胸をつっついてみたら、固いっ。男の人の胸、固いっ。おお~~平らだ……。

 その時、彼の両腕が下から伸びて、
「……えっ?」
急に私を捕まえ、抱き寄せた。

「やっ……」
 私は一瞬、本気で焦ったが、そういえばそういうミッションでここに来たのだ。これは想定内のはずだ。

 が、胸がどくどくどくどくいって、身体が金縛りにあったよう。手が震えて力が入らない。

 どうしようっ……。

「う―ん……。ジョゼフィーヌ……?」

 ん? 今、ジョゼフィーヌって……。誰? あ、もしかして、あの金髪のの名前!?

 私はすぐそばの、彼の顔をちらりと見た。
「あれ……?」
 暗がりだけど、うっすら見える彼の顔は……王太子じゃない、ような。

 私は固まった。冷汗が噴き出る。今の声、王太子にしては低い、ような。

 誰!? 私は顔をちょっと離してみた。

────アルフレッド様と違う!!


 私は、私の背中まで腕を回すこの人物から逃げようとした。しかし寝ているはずなのに、けっこうな力だ。

 腕を外そうともがき、まず上半身を起こす。そしてこの人物にまたがった左足を持ち上げたら、膝が彼の身体に引っ掛かってバランスを崩してしまった。──すると。

「痛ぇっ!!」
 大きな声が上がり、私はびくっとした。

「んんんっ!?」
 私は何が起こったのか分からなかった。

「そこ! どけ!」
「えっ? えっ??」
「お前が踏んでるそれっ。早くっ」
「ふ、踏んでる……??」

 私は周りがろくに見えないので、とにかく急いで全身を横にずらしてみた。それから、私のひじがあったところを手探りしたら。

「髪の毛……」
 細いひと束の髪の毛がそこに。私はつい、それを手に取った。

 なぜ、髪が? これ、片手で軽く掴める程度の毛量。

 そういえばアルフレッド様に紹介された王族の男性で、短髪なのに、うなじの部分の髪だけがやたら長い方がいたような。背のすらっと高い、切れ長の目つきの、均整の取れた顔立ちの、群青ディープブルーの髪と瞳がキラキラした……。

 そこでベッドの人物が起き上がり、枕元の灯りを付けた。その瞬間、灯の下で色があらわになる。私の手元の髪の色が……。

「群青の、髪の毛……」
「なんだ、お前は? こんな夜更けに他人の寝室に忍び込んで、タダで帰れると思うなよ」

 彼のギロっとした、冷たい青の目で睨みつけられ、私はさっきとは比べ物にならないほどに硬直した……。

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