3 / 15
③ 手練手管って何ですの??
しおりを挟む
あの後すぐに、王太子と私が婚約解消したとの噂が出回った。そしてその3日遅れで、更なる噂が社交界を駆け巡る。
それは「アリア・スカーレットが王太子を裏切って不貞を働き、そして婚約破棄を突き付けられた」、「にも関わらず図々しくも王宮に居座っている」というものだ。
これでは聖女どころか完全に悪女。それからの私はやんごとなき方々の間で、軽蔑侮蔑のまなざしに晒される日々。王宮を歩いていればこれみよがしに悪口をささやかれ、障害物で転ばされ、所持品を盗まれ、あまつさえ脅迫状が届き……。
一気に立場を失い、追い詰められた。
私は元から上流階級にあたたかく迎え入れられた王太子の婚約者ではなかった。だって私の家は小さな子爵家だから。王太子の婚約者候補として、もっと位の高い家のお嬢様方が、列を作っていたところに飛び込んでしまったのだ。
それでも王太子は守ってくれていた。私は命の恩人だから……。
「いたぁっ!!」
思いきりすっ転んだ私。まぁ、ぼーっとしてたのもあるけど、これは絶対、他人のしわざ。
誰がまた引っ掛け罠を? 顔を上げると、くすくすと笑って逃げていく令嬢が3人。あいつらか。もうこれ何度目だろう。私は痛む足首を庇いながら起き上がろうとした。
「お姉様! 大丈夫ですか!?」
そんな私に手を差し出す人物が。思わず目の前の、令嬢の手を取った。
「ありがとう。ゾーエ」
「まったく、くだらないことをなさる方々もいるものですわね」
憤慨した顔も突き抜けた可愛らしさ、この娘は私の妹、ゾーエ・スカーレット。
私と同時期に社交界にデビューし、類まれなる美貌と社交術で多くの同年代貴族との間に独自の交流網を築き、子爵の娘だなんて決して侮られないほどの立場に昇り詰めている。姉の私なんかより彼女が王太子と婚約するべきだと囁く人間も多くいた。本人がどう思っているか知らないけど、親の世代にも一目置かれる才色兼備の娘だから、縁談のアテは多いのだと思う。
「ゾーエ、あまり私と関わらない方がいいわ。姉妹だからとあなたにも被害が及んでしまったら……」
「何をおっしゃるの。私たち、血を分けた姉妹ではないですか。私はどこまでもお姉様の味方ですからね」
そう言ってもらえるの有難い。連れだと思われたくなくて、みんな私を避けてるのだから。きっとゾーエは、私の縁者という事実も障りにならないほどの実績があるのよね。
ゾーエの金髪……。
その綺麗なブロンドの髪を見て思い出す。王太子の“真実の愛”の相手もそんな髪色だった。暗がりだったから細かい色の違いは分からないけど。
髪色で王太子の相手、割れないかしら? でも上流階級にはブロンドのご令嬢なんていっぱい。まぁ、相手が誰だか分かったところでね……。
もうどうすればいいの。早く実家に戻ればいいの? 王宮から追放じゃなくて、自主的に帰った方が外聞も悪くないという、アルフレッド様の計らいだから?
でもやっぱりこんなの納得がいかない。根も葉もない噂を流したのは誰? もしかして、アルフレッド様? 新しい彼女を守りたくて??
そんなの酷すぎる。あのベッドにいた彼女はきっと魔女なのだ。魔女の魔法がとければ、彼はまた私を見てくれるはず。
噂を流した張本人だと責めて彼の逆鱗に触れるより、お心を取り戻しさえすれば、きっと彼が否定してくれる。
***
「鏡よ鏡、彼の心を取り戻す方法を教えて!」
『時間が解決してくれるのを待つのは?』
男女の仲は3ヶ月で最初の倦怠期がくるっていうものね? って、3ヶ月以内に結婚されちゃったら手も足も出せない──!
『こうなったら肉弾戦はいかがでしょう』
「に、にく……?」
『彼の寝室に潜り込んで、あなたの手練手管で骨抜きにしてしまうのです……』
「てっ、てれん……?」
『まだそれを試したことはないのでしょう?』
「そ、そうね」
『未開の作戦にこそ、勝機は眠っています』
「そうなんだ!? そうか、その手があったか! 相手は王太子と言えども多感なお年頃の男性なんだもの! ……でもそれ、ぶっつけ本番でどうにかなるものかしら?」
私、そんなの未経験だし……。でも今、何も失うものはないのだし、この状況を打破するためならなんだってするわ。
「ありがとう鏡! 今夜決行よ!」
その前に、準備として……。ゾーエにオシャレな寝巻を借りてこよう!
『ご自分は持ってないのですか?』
「ないわね。持っておく理由が今まで別になかったもの。ってどうして心の声も鏡に聞かれてるの──!?」
私は妹ゾーエの部屋の扉をノックした。
「お姉様?」
「あの──……ちょっと相談したいことが」
やっぱり恥ずかしいわね、こういうこと話すのって。でも姉妹なんだし、ホントは前から、仲良くこういう話をしてみたかったの。
**
「高級シルクのシュミーズ、これ借りていくわね!」
小さなフリルがついていて可愛らしい。これならアルフレッド様もイチコロのはず!
「お姉様、本当に大丈夫ですの?」
「うーん、実はよく分かってないのだけど……。とりあえず寝室に入ったら男性にお任せ、って教育係に習ったからね」
私は「そうよね!?」と確認したくてゾーエの目を見た。すると彼女はため息をつく。
「でも、男性は昼間のお仕事でお疲れの時もありますから……。女性からその気にさせなくてはいけない場合も」
「えっ、ええ?」
「隣に寝ても何もしてこない、という場合は、こちらから男性にまたがるのですよ」
「ま、跨……??」
「ええ、騎乗するのです。そして胸元を開けてですね」
ええええ……。
「ちょっと紙と羽ペンも貸してくれるかしらっ」
手順をメモしておかなくては。
それから私は妹から、手練手管を学んだ。あれ、どうしてこの子、こんなこと知ってるの?
まぁ……いろいろあるわよね。
「いろいろとありがとうゾーエ! 王太子の心を取り戻すために頑張るわ!」
さて、おいとまするわ。立ち上がり、私は廊下への扉を開いた。
「……やれるものならやってみなさいよ」
「ん? 何か言った?」
「いいえ。ご武運をお祈りしておりますわ」
にっこり笑ったゾーラを目にして、ああやっぱり私が男でも彼女にめろめろになるなぁって、惚れ惚れした。
それは「アリア・スカーレットが王太子を裏切って不貞を働き、そして婚約破棄を突き付けられた」、「にも関わらず図々しくも王宮に居座っている」というものだ。
これでは聖女どころか完全に悪女。それからの私はやんごとなき方々の間で、軽蔑侮蔑のまなざしに晒される日々。王宮を歩いていればこれみよがしに悪口をささやかれ、障害物で転ばされ、所持品を盗まれ、あまつさえ脅迫状が届き……。
一気に立場を失い、追い詰められた。
私は元から上流階級にあたたかく迎え入れられた王太子の婚約者ではなかった。だって私の家は小さな子爵家だから。王太子の婚約者候補として、もっと位の高い家のお嬢様方が、列を作っていたところに飛び込んでしまったのだ。
それでも王太子は守ってくれていた。私は命の恩人だから……。
「いたぁっ!!」
思いきりすっ転んだ私。まぁ、ぼーっとしてたのもあるけど、これは絶対、他人のしわざ。
誰がまた引っ掛け罠を? 顔を上げると、くすくすと笑って逃げていく令嬢が3人。あいつらか。もうこれ何度目だろう。私は痛む足首を庇いながら起き上がろうとした。
「お姉様! 大丈夫ですか!?」
そんな私に手を差し出す人物が。思わず目の前の、令嬢の手を取った。
「ありがとう。ゾーエ」
「まったく、くだらないことをなさる方々もいるものですわね」
憤慨した顔も突き抜けた可愛らしさ、この娘は私の妹、ゾーエ・スカーレット。
私と同時期に社交界にデビューし、類まれなる美貌と社交術で多くの同年代貴族との間に独自の交流網を築き、子爵の娘だなんて決して侮られないほどの立場に昇り詰めている。姉の私なんかより彼女が王太子と婚約するべきだと囁く人間も多くいた。本人がどう思っているか知らないけど、親の世代にも一目置かれる才色兼備の娘だから、縁談のアテは多いのだと思う。
「ゾーエ、あまり私と関わらない方がいいわ。姉妹だからとあなたにも被害が及んでしまったら……」
「何をおっしゃるの。私たち、血を分けた姉妹ではないですか。私はどこまでもお姉様の味方ですからね」
そう言ってもらえるの有難い。連れだと思われたくなくて、みんな私を避けてるのだから。きっとゾーエは、私の縁者という事実も障りにならないほどの実績があるのよね。
ゾーエの金髪……。
その綺麗なブロンドの髪を見て思い出す。王太子の“真実の愛”の相手もそんな髪色だった。暗がりだったから細かい色の違いは分からないけど。
髪色で王太子の相手、割れないかしら? でも上流階級にはブロンドのご令嬢なんていっぱい。まぁ、相手が誰だか分かったところでね……。
もうどうすればいいの。早く実家に戻ればいいの? 王宮から追放じゃなくて、自主的に帰った方が外聞も悪くないという、アルフレッド様の計らいだから?
でもやっぱりこんなの納得がいかない。根も葉もない噂を流したのは誰? もしかして、アルフレッド様? 新しい彼女を守りたくて??
そんなの酷すぎる。あのベッドにいた彼女はきっと魔女なのだ。魔女の魔法がとければ、彼はまた私を見てくれるはず。
噂を流した張本人だと責めて彼の逆鱗に触れるより、お心を取り戻しさえすれば、きっと彼が否定してくれる。
***
「鏡よ鏡、彼の心を取り戻す方法を教えて!」
『時間が解決してくれるのを待つのは?』
男女の仲は3ヶ月で最初の倦怠期がくるっていうものね? って、3ヶ月以内に結婚されちゃったら手も足も出せない──!
『こうなったら肉弾戦はいかがでしょう』
「に、にく……?」
『彼の寝室に潜り込んで、あなたの手練手管で骨抜きにしてしまうのです……』
「てっ、てれん……?」
『まだそれを試したことはないのでしょう?』
「そ、そうね」
『未開の作戦にこそ、勝機は眠っています』
「そうなんだ!? そうか、その手があったか! 相手は王太子と言えども多感なお年頃の男性なんだもの! ……でもそれ、ぶっつけ本番でどうにかなるものかしら?」
私、そんなの未経験だし……。でも今、何も失うものはないのだし、この状況を打破するためならなんだってするわ。
「ありがとう鏡! 今夜決行よ!」
その前に、準備として……。ゾーエにオシャレな寝巻を借りてこよう!
『ご自分は持ってないのですか?』
「ないわね。持っておく理由が今まで別になかったもの。ってどうして心の声も鏡に聞かれてるの──!?」
私は妹ゾーエの部屋の扉をノックした。
「お姉様?」
「あの──……ちょっと相談したいことが」
やっぱり恥ずかしいわね、こういうこと話すのって。でも姉妹なんだし、ホントは前から、仲良くこういう話をしてみたかったの。
**
「高級シルクのシュミーズ、これ借りていくわね!」
小さなフリルがついていて可愛らしい。これならアルフレッド様もイチコロのはず!
「お姉様、本当に大丈夫ですの?」
「うーん、実はよく分かってないのだけど……。とりあえず寝室に入ったら男性にお任せ、って教育係に習ったからね」
私は「そうよね!?」と確認したくてゾーエの目を見た。すると彼女はため息をつく。
「でも、男性は昼間のお仕事でお疲れの時もありますから……。女性からその気にさせなくてはいけない場合も」
「えっ、ええ?」
「隣に寝ても何もしてこない、という場合は、こちらから男性にまたがるのですよ」
「ま、跨……??」
「ええ、騎乗するのです。そして胸元を開けてですね」
ええええ……。
「ちょっと紙と羽ペンも貸してくれるかしらっ」
手順をメモしておかなくては。
それから私は妹から、手練手管を学んだ。あれ、どうしてこの子、こんなこと知ってるの?
まぁ……いろいろあるわよね。
「いろいろとありがとうゾーエ! 王太子の心を取り戻すために頑張るわ!」
さて、おいとまするわ。立ち上がり、私は廊下への扉を開いた。
「……やれるものならやってみなさいよ」
「ん? 何か言った?」
「いいえ。ご武運をお祈りしておりますわ」
にっこり笑ったゾーラを目にして、ああやっぱり私が男でも彼女にめろめろになるなぁって、惚れ惚れした。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私が聖女ではない?嘘吐き?婚約者の思い込みが残念なので正してあげます。
逢瀬あいりす
恋愛
私を嘘吐きの聖女と非難する婚約者。えーと、薄々気づいていましたが,貴方は思い込みが激しいようですね。わかりました。この機会に,しっかりきっちり話し合いましょう?
婚約破棄なら,そのあとでお願いしますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる