「姉のモノは私のモノ」なんていう妹がいますが、彼だけは奪えませんから!

松ノ木るな

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③ 手練手管って何ですの??

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 あの後すぐに、王太子と私が婚約解消したとの噂が出回った。そしてその3日遅れで、更なる噂が社交界を駆け巡る。

 それは「アリア・スカーレットが王太子を裏切って不貞を働き、そして婚約破棄を突き付けられた」、「にも関わらず図々しくも王宮に居座っている」というものだ。

 これでは聖女どころか完全に悪女。それからの私はやんごとなき方々の間で、軽蔑侮蔑のまなざしに晒される日々。王宮を歩いていればこれみよがしに悪口をささやかれ、障害物で転ばされ、所持品を盗まれ、あまつさえ脅迫状が届き……。

 一気に立場を失い、追い詰められた。

 私は元から上流階級にあたたかく迎え入れられた王太子の婚約者ではなかった。だって私の家は小さな子爵家だから。王太子の婚約者候補として、もっと位の高い家のお嬢様方が、列を作っていたところに飛び込んでしまったのだ。

 それでも王太子は守ってくれていた。私は命の恩人だから……。


「いたぁっ!!」
 思いきりすっ転んだ私。まぁ、ぼーっとしてたのもあるけど、これは絶対、他人のしわざ。

 誰がまた引っ掛け罠を? 顔を上げると、くすくすと笑って逃げていく令嬢が3人。あいつらか。もうこれ何度目だろう。私は痛む足首を庇いながら起き上がろうとした。

「お姉様! 大丈夫ですか!?」
 そんな私に手を差し出す人物が。思わず目の前の、令嬢の手を取った。
「ありがとう。ゾーエ」
「まったく、くだらないことをなさる方々もいるものですわね」

 憤慨した顔も突き抜けた可愛らしさ、このは私の妹、ゾーエ・スカーレット。

 私と同時期に社交界にデビューし、類まれなる美貌と社交術で多くの同年代貴族との間に独自の交流網を築き、子爵の娘だなんて決して侮られないほどの立場に昇り詰めている。姉の私なんかより彼女が王太子と婚約するべきだと囁く人間も多くいた。本人がどう思っているか知らないけど、親の世代にも一目置かれる才色兼備のだから、縁談のアテは多いのだと思う。

「ゾーエ、あまり私と関わらない方がいいわ。姉妹だからとあなたにも被害が及んでしまったら……」
「何をおっしゃるの。私たち、血を分けた姉妹ではないですか。私はどこまでもお姉様の味方ですからね」

 そう言ってもらえるの有難い。連れだと思われたくなくて、みんな私を避けてるのだから。きっとゾーエは、私の縁者という事実も障りにならないほどの実績があるのよね。

 ゾーエの金髪……。
 その綺麗なブロンドの髪を見て思い出す。王太子の“真実の愛”の相手もそんな髪色だった。暗がりだったから細かい色の違いは分からないけど。

 髪色で王太子の相手、割れないかしら? でも上流階級にはブロンドのご令嬢なんていっぱい。まぁ、相手が誰だか分かったところでね……。

 もうどうすればいいの。早く実家に戻ればいいの? 王宮から追放じゃなくて、自主的に帰った方が外聞も悪くないという、アルフレッド様の計らいだから?

 でもやっぱりこんなの納得がいかない。根も葉もない噂を流したのは誰? もしかして、アルフレッド様? 新しい彼女を守りたくて??

 そんなの酷すぎる。あのベッドにいた彼女はきっと魔女なのだ。魔女の魔法がとければ、彼はまた私を見てくれるはず。
 噂を流した張本人だと責めて彼の逆鱗に触れるより、お心を取り戻しさえすれば、きっと彼が否定してくれる。



***


「鏡よ鏡、彼の心を取り戻す方法を教えて!」
『時間が解決してくれるのを待つのは?』
 男女の仲は3ヶ月で最初の倦怠期がくるっていうものね? って、3ヶ月以内に結婚されちゃったら手も足も出せない──!

『こうなったら肉弾戦はいかがでしょう』
「に、にく……?」
『彼の寝室に潜り込んで、あなたの手練手管で骨抜きにしてしまうのです……』
「てっ、てれん……?」

『まだそれを試したことはないのでしょう?』
「そ、そうね」
『未開の作戦にこそ、勝機は眠っています』
「そうなんだ!? そうか、その手があったか! 相手は王太子と言えども多感なお年頃の男性なんだもの! ……でもそれ、ぶっつけ本番でどうにかなるものかしら?」

 私、そんなの未経験だし……。でも今、何も失うものはないのだし、この状況を打破するためならなんだってするわ。

「ありがとう鏡! 今夜決行よ!」

 その前に、準備として……。ゾーエにオシャレな寝巻を借りてこよう!

『ご自分は持ってないのですか?』
「ないわね。持っておく理由が今まで別になかったもの。ってどうして心の声もあなたに聞かれてるの──!?」

 私は妹ゾーエの部屋の扉をノックした。
「お姉様?」
「あの──……ちょっと相談したいことが」
 やっぱり恥ずかしいわね、こういうこと話すのって。でも姉妹なんだし、ホントは前から、仲良くこういう話をしてみたかったの。


**


「高級シルクのシュミーズ、これ借りていくわね!」
 小さなフリルがついていて可愛らしい。これならアルフレッド様もイチコロのはず!

「お姉様、本当に大丈夫ですの?」
「うーん、実はよく分かってないのだけど……。とりあえず寝室に入ったら男性にお任せ、って教育係に習ったからね」

 私は「そうよね!?」と確認したくてゾーエの目を見た。すると彼女はため息をつく。

「でも、男性は昼間のお仕事でお疲れの時もありますから……。女性こちらからその気にさせなくてはいけない場合も」
「えっ、ええ?」

「隣に寝ても何もしてこない、という場合は、こちらから男性にまたがるのですよ」
「ま、跨……??」
「ええ、騎乗するのです。そして胸元を開けてですね」

 ええええ……。

「ちょっと紙と羽ペンも貸してくれるかしらっ」
 手順をメモしておかなくては。

 それから私は妹から、手練手管を学んだ。あれ、どうしてこの子、こんなこと知ってるの?
 まぁ……いろいろあるわよね。

「いろいろとありがとうゾーエ! 王太子の心を取り戻すために頑張るわ!」

 さて、おいとまするわ。立ち上がり、私は廊下への扉を開いた。

「……やれるものならやってみなさいよ」
「ん? 何か言った?」
「いいえ。ご武運をお祈りしておりますわ」

 にっこり笑ったゾーラを目にして、ああやっぱり私が男でも彼女にめろめろになるなぁって、惚れ惚れした。


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