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第7章 確執
第5話~連帯責任~
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ジャックの不機嫌な原因が正博に対して湧いた焼きもちだったのだと知り、なんだか嬉しくなってしまった。ブランドンとの一件で、彼はもう自分に対してそんな気持ちは消え失せてしまっているのではないかと、ずっと不安に思っていた。
今まで不安にさせられたお返しのもりで耳朶を食んだら、思ったとおりの反応を見せたジャックに叶子は笑いが止まらなかった。
「カ、カナ! どこでこんな事覚えたの!?」
「えー?? ……――」
裏返った声でそんな事を聞かれ、思わずジャックと間違えてブランドンにされたあの日の事が脳裏に浮かぶ。あの事を思い出すと恥ずかしいやら悔しいやらで一気に気分が削がれてしまったのか、叶子の顔からみるみる笑顔が消えていった。
「……」
気が付けば一人で悶々としてしまう。辺りはもうすっかり暗くなったとは言え、ジャックが今の自分の表情を見逃す様な人だとは思えない。問い詰められ、色々と面倒な事になるのではと思った叶子は、彼に背を向けると気持ちが落ち着くまでやり過ごそうとした。
――なのに、
「カーナー?」
「っ、」
背後からぎゅっと抱き締められ、一気に熱が込み上げてくる。叶子の頬に彼の頬が触れ、身動きが取れなくなってしまった。
「な、何?」
「その、……“アレ”だからって、何で僕の家に来れないとか言うの?」
「生理だって事?」
「ちっ、――生々しいって! ……でも、そう。その事」
と、まだ彼は恥ずかしそうな口調で叶子に尋ねた。触れている箇所が熱くなり、ジャックの頬が熱を帯びていくのがわかる。彼もきっと、顔を見られたくないからこんな体勢をとったのだなと思えた。
「んー、だって、貴方の家に行ってから“出来ない”って言われたら、……困るでしょ?」
「そんなこと気にしてたの?」
唖然としたような声で彼が言う。それがまるで“全然そんなつもりないのに”と言っている様に聞こえ、変な所で気を使ってしまった事にとても恥ずかしくなった。
「うん。だって、ね? 一年振り……だし?」
「んー確かに、全く期待してないって言ったら嘘になるけど」
「でしょ?」
「でもさ、僕って意外に我慢強いんだよ?」
「――え?」
聞き間違えたかと思える程の信じられないセリフに、今度は叶子が声を裏返らせた。
顔を合わせた途端、人目も気にせず抱きついてきたり、あわよくばキスをしようとしたりする。自分の感情をストレートに表現する、そんな人の何処が我慢強いのだろう。しかも、「恥ずかしいからやめて」と咎めると、ジャックは決まって拗ねるか更にエスカレートするかの二択だから本当に恐ろしい。
もし、彼に我慢強い所があるとすれば、ひとたび恋人同士の情事に発展した時位だろう。散々啼かされまくったあげく、『僕を欲しがるまでやめないからね?』などと意地悪を言い、叶子が折れるまでは何があっても己の欲望を満たそうとはしない。実にそれ以外は我慢と言う言葉とはかなり縁遠い人だなと、彼の放った一言によって再認識させられることとなった。
「今さ」
「?」
抱き締められている彼の長い腕が、まるで居心地の良い所を探すかのように一旦ほどかれると、もう一度優しく抱き締められる。その腕をそっと捕まえると、安心しきった様子で叶子はゆっくりとその目を閉じた。
「“我慢強い”って聞いて、一体何を想像したの?」
「……。――っ、何もっ!!」
やっと穏やかな気持ちになりかけていたと言うのに、その一言で閉じていた瞼が勢いよく開く。考えていたことが顔に出てしまっていたのかと狼狽えた。
「も、ちょ、はなし――」
「大丈夫。僕、ちゃんといい子にしてるから。ね? 家に来てよ。こうやって抱き締めるだけでも凄く安心出来るし、何より、――嬉しいんだ」
彼の腕から逃れようとジタバタしていると、まるで小さなこどもの様に優しい声音でそう言った。
「――う、ん」
嬉しい言葉と共にほっぺにチュッとキスを落とされ、思わず笑みが零れる。ぎゅっと更にキツク抱き締められると、背中一杯に彼の体温を感じた。……そして、腰あたりに触れた自分の物ではない異物の存在も感じたその時、まさか、と目を丸くした。
「……ちょ、……っとぉー……もぉ、やだー……」
その異物が何なのかがわかってしまい、叶子は困り果てて両手で顔を塞いだ。
「ん、まぁーこれは仕方ないよね、生理現象だから。そもそも、君がそんな事を言って僕にいらぬ妄想をかき立てさせたのが原因なんだからね」
「は、はぃい!?」
「はぁ、こんな状態で車に乗ったらビルに見限られてしまうよ。ちょっと落ち着くまで付き合ってよ?」
――連帯責任ね。
そう耳元で囁かれただけでも弱いのに、今度は彼が仕返しとばかりに不意打ちで耳をゾワリと舐め上げられた。勝手に漏れてしまった甘い吐息に、腰にあたるものが更に大きさを増したのがわかる。途端、ここは外であると言うことと彼のこの自由奔放な性格を思うと、自然と防衛本能が働き逃げようと身体を捩った。
「あ、こら、い、今動いちゃダメだよ! ……いつまで経っても離れられないじゃないか」
と、言い始めたジャックに対して「自分が先に仕掛けたくせに」と言うと、「そうだっけ?」と、とぼけた顔でしれっと言ってのけた。
今まで不安にさせられたお返しのもりで耳朶を食んだら、思ったとおりの反応を見せたジャックに叶子は笑いが止まらなかった。
「カ、カナ! どこでこんな事覚えたの!?」
「えー?? ……――」
裏返った声でそんな事を聞かれ、思わずジャックと間違えてブランドンにされたあの日の事が脳裏に浮かぶ。あの事を思い出すと恥ずかしいやら悔しいやらで一気に気分が削がれてしまったのか、叶子の顔からみるみる笑顔が消えていった。
「……」
気が付けば一人で悶々としてしまう。辺りはもうすっかり暗くなったとは言え、ジャックが今の自分の表情を見逃す様な人だとは思えない。問い詰められ、色々と面倒な事になるのではと思った叶子は、彼に背を向けると気持ちが落ち着くまでやり過ごそうとした。
――なのに、
「カーナー?」
「っ、」
背後からぎゅっと抱き締められ、一気に熱が込み上げてくる。叶子の頬に彼の頬が触れ、身動きが取れなくなってしまった。
「な、何?」
「その、……“アレ”だからって、何で僕の家に来れないとか言うの?」
「生理だって事?」
「ちっ、――生々しいって! ……でも、そう。その事」
と、まだ彼は恥ずかしそうな口調で叶子に尋ねた。触れている箇所が熱くなり、ジャックの頬が熱を帯びていくのがわかる。彼もきっと、顔を見られたくないからこんな体勢をとったのだなと思えた。
「んー、だって、貴方の家に行ってから“出来ない”って言われたら、……困るでしょ?」
「そんなこと気にしてたの?」
唖然としたような声で彼が言う。それがまるで“全然そんなつもりないのに”と言っている様に聞こえ、変な所で気を使ってしまった事にとても恥ずかしくなった。
「うん。だって、ね? 一年振り……だし?」
「んー確かに、全く期待してないって言ったら嘘になるけど」
「でしょ?」
「でもさ、僕って意外に我慢強いんだよ?」
「――え?」
聞き間違えたかと思える程の信じられないセリフに、今度は叶子が声を裏返らせた。
顔を合わせた途端、人目も気にせず抱きついてきたり、あわよくばキスをしようとしたりする。自分の感情をストレートに表現する、そんな人の何処が我慢強いのだろう。しかも、「恥ずかしいからやめて」と咎めると、ジャックは決まって拗ねるか更にエスカレートするかの二択だから本当に恐ろしい。
もし、彼に我慢強い所があるとすれば、ひとたび恋人同士の情事に発展した時位だろう。散々啼かされまくったあげく、『僕を欲しがるまでやめないからね?』などと意地悪を言い、叶子が折れるまでは何があっても己の欲望を満たそうとはしない。実にそれ以外は我慢と言う言葉とはかなり縁遠い人だなと、彼の放った一言によって再認識させられることとなった。
「今さ」
「?」
抱き締められている彼の長い腕が、まるで居心地の良い所を探すかのように一旦ほどかれると、もう一度優しく抱き締められる。その腕をそっと捕まえると、安心しきった様子で叶子はゆっくりとその目を閉じた。
「“我慢強い”って聞いて、一体何を想像したの?」
「……。――っ、何もっ!!」
やっと穏やかな気持ちになりかけていたと言うのに、その一言で閉じていた瞼が勢いよく開く。考えていたことが顔に出てしまっていたのかと狼狽えた。
「も、ちょ、はなし――」
「大丈夫。僕、ちゃんといい子にしてるから。ね? 家に来てよ。こうやって抱き締めるだけでも凄く安心出来るし、何より、――嬉しいんだ」
彼の腕から逃れようとジタバタしていると、まるで小さなこどもの様に優しい声音でそう言った。
「――う、ん」
嬉しい言葉と共にほっぺにチュッとキスを落とされ、思わず笑みが零れる。ぎゅっと更にキツク抱き締められると、背中一杯に彼の体温を感じた。……そして、腰あたりに触れた自分の物ではない異物の存在も感じたその時、まさか、と目を丸くした。
「……ちょ、……っとぉー……もぉ、やだー……」
その異物が何なのかがわかってしまい、叶子は困り果てて両手で顔を塞いだ。
「ん、まぁーこれは仕方ないよね、生理現象だから。そもそも、君がそんな事を言って僕にいらぬ妄想をかき立てさせたのが原因なんだからね」
「は、はぃい!?」
「はぁ、こんな状態で車に乗ったらビルに見限られてしまうよ。ちょっと落ち着くまで付き合ってよ?」
――連帯責任ね。
そう耳元で囁かれただけでも弱いのに、今度は彼が仕返しとばかりに不意打ちで耳をゾワリと舐め上げられた。勝手に漏れてしまった甘い吐息に、腰にあたるものが更に大きさを増したのがわかる。途端、ここは外であると言うことと彼のこの自由奔放な性格を思うと、自然と防衛本能が働き逃げようと身体を捩った。
「あ、こら、い、今動いちゃダメだよ! ……いつまで経っても離れられないじゃないか」
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