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第1章 導き
第10話~確かな想い~
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「…… …… です。以上で本日の業務は終了となります」
真っ暗なオフィスの扉を両手で開け放ち、ソファーに上着と書類を無造作に投げ捨てた。首に絞まるものを片手で緩めると、少し疲れた表情で秘書のジュディスに労いの言葉を述べた。
「はい、お疲れ様。遅くまで悪かったね」
そう言いながら振り返った瞬間、ジュディスは肩をすくめ両手に抱えた彼の鞄をきつく握り締めた。
「いえ! お、お疲れ様でした! ……お荷物こちらに置かせて頂きます」
心なしかジュディスの頬が朱に染まる。途端、それを悟られたくないとでも思ったのか、彼女は逃げるようにして扉へ向かった。
「あ、明日はお休みを頂きます」
「――となると明日はカレンかな?」
「はい、そうです」
「了解。ゆっくり休んでね」
ジュディスは深くお辞儀をすると、静かに扉を閉めた。
ソファーに腰を落としテーブルの上に両足を組んでのせる。デスクに置いてある時計に目をやると時は既に“今日”が終わりを告げ“明日”に変わっているのを知った。
仕事をして居る時は全く気にならないが、一段落ついた時に必ずと言っていいほど、デスクの上にある電話に自然と目が行ってしまう。
(あれから一週間かぁ)
シャツの胸ポケットから携帯を取り出し、着信履歴をチェックした。
「嫌われちゃったかなぁ」
パタンと片手で携帯電話を折りたたむと、そのままポンッと向かいのソファーに放り投げた。頭の下で両手を組みながら身体を横たえると、あの日の事が自然と頭の中を過ぎる。
辛いものが苦手な事。
笑い上戸で感情移入が凄まじく、まるで自分の事の様に一喜一憂してくれる事。
──そして、……彼女に触れた事。
触れた手を見つめると、彼女の笑顔が目の前に浮かんでは消えを繰り返す。幻想の彼女を捕まえたくなり手を軽く握りしめた。
「はぁー、失敗しちゃったなぁ。……待ってらんないよ」
あの日、電話番号を聞かなかった事をジャックは激しく後悔した。
「会いたいよ」
一言そう呟いてゆっくり目を閉じると、いつの間にか自分の頭の中が彼女で一杯になっている事に気付き自然と笑みが零れ落ちた。
◇◆◇
「はい、これで最後ね。コレ仕上げたらもう帰っていいから」
「えぇ!? これもですか??」
ドサッとデスクの上に書類が置かれ、たちまち視界が狭くなる。書類の山から顔をひょっこりと出し、叶子は不満気な声をあげた。
壁にかかっている時計を横目で確認し、針が指している時刻に大きな溜息を吐く。
(毎日毎日こんなに残業ばっかじゃ、電話しようと思っても出来ないじゃない!)
叶子もまた、彼と同じ気持ちではあったものの丁度仕事が立て込み、連絡することがままならないでいた。
「じゃあ、俺は今日息子君の誕生日だから帰らせてもらうぞ? お前達もデートの一つ位したらどうだ?」
空気が読めないのか、それともあえて皆を煽る為にそんな台詞を言ったのかどうかはわからない。大勢からのブーイングが飛び交う中、ボスは振り返りもせずそんな言葉を吐き捨てるとあっという間にドアの向こうへと消えていった。
一人、又一人と次々事務所を後にし、気付けば彼女一人だけが取り残されていた。
(デートの一つでもしろって……。誰のせいで毎日残業してると思ってんのよ! あぁーもうっ! 世間の人は週末を楽しんでるはずなのに、私ときたら何でこんなに働いてばっかり)
「はぁーっ」と特大のため息を吐き出した後、それを取り消すように頭を左右に振って頬を叩いた。
愚痴を言えばきりが無い。この仕事は先ほどの様な理不尽な現実を除けば、とてもやりがいがある楽しい仕事だ。手を抜こうと思えば抜く事は可能だが、そうすれば自ずとそれが結果となって返って来る。
(ちゃんとやんなきゃ!)
「ヨシッ!」っと叶子は意気込むと、スパートをかけた。
「お、終わった……」
もう動けないとばかりにデスクに突っ伏した。横目でチラリと時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしている。
(もう、寝ちゃってるよね)
今日も彼に電話が出来ないんだと言う事実を突きつけられたのと、仕事をやり切った感で一杯になり、一気に気が緩んで自然と瞼が閉じて行く。終いには自分の寝息が聞こえて来たのに気付き、慌てて立ち上がって帰り支度を始めた。
「しゅ、終電!!」
デスクの端でバックを広げると、机上にある荷物を片手で一気に流し込み、ポストイットやクリップと一緒にデスクの埃もバッグに仕舞い込んだ。
そのままの勢いでオフィスを飛び出し、駅へと向かう。夜の宴を楽しんだ後なのか陽気なおじさんに声を掛けられることもあったが、叶子は振り返りもせず一心不乱に駅へとひたすら走り続けた。
真っ暗なオフィスの扉を両手で開け放ち、ソファーに上着と書類を無造作に投げ捨てた。首に絞まるものを片手で緩めると、少し疲れた表情で秘書のジュディスに労いの言葉を述べた。
「はい、お疲れ様。遅くまで悪かったね」
そう言いながら振り返った瞬間、ジュディスは肩をすくめ両手に抱えた彼の鞄をきつく握り締めた。
「いえ! お、お疲れ様でした! ……お荷物こちらに置かせて頂きます」
心なしかジュディスの頬が朱に染まる。途端、それを悟られたくないとでも思ったのか、彼女は逃げるようにして扉へ向かった。
「あ、明日はお休みを頂きます」
「――となると明日はカレンかな?」
「はい、そうです」
「了解。ゆっくり休んでね」
ジュディスは深くお辞儀をすると、静かに扉を閉めた。
ソファーに腰を落としテーブルの上に両足を組んでのせる。デスクに置いてある時計に目をやると時は既に“今日”が終わりを告げ“明日”に変わっているのを知った。
仕事をして居る時は全く気にならないが、一段落ついた時に必ずと言っていいほど、デスクの上にある電話に自然と目が行ってしまう。
(あれから一週間かぁ)
シャツの胸ポケットから携帯を取り出し、着信履歴をチェックした。
「嫌われちゃったかなぁ」
パタンと片手で携帯電話を折りたたむと、そのままポンッと向かいのソファーに放り投げた。頭の下で両手を組みながら身体を横たえると、あの日の事が自然と頭の中を過ぎる。
辛いものが苦手な事。
笑い上戸で感情移入が凄まじく、まるで自分の事の様に一喜一憂してくれる事。
──そして、……彼女に触れた事。
触れた手を見つめると、彼女の笑顔が目の前に浮かんでは消えを繰り返す。幻想の彼女を捕まえたくなり手を軽く握りしめた。
「はぁー、失敗しちゃったなぁ。……待ってらんないよ」
あの日、電話番号を聞かなかった事をジャックは激しく後悔した。
「会いたいよ」
一言そう呟いてゆっくり目を閉じると、いつの間にか自分の頭の中が彼女で一杯になっている事に気付き自然と笑みが零れ落ちた。
◇◆◇
「はい、これで最後ね。コレ仕上げたらもう帰っていいから」
「えぇ!? これもですか??」
ドサッとデスクの上に書類が置かれ、たちまち視界が狭くなる。書類の山から顔をひょっこりと出し、叶子は不満気な声をあげた。
壁にかかっている時計を横目で確認し、針が指している時刻に大きな溜息を吐く。
(毎日毎日こんなに残業ばっかじゃ、電話しようと思っても出来ないじゃない!)
叶子もまた、彼と同じ気持ちではあったものの丁度仕事が立て込み、連絡することがままならないでいた。
「じゃあ、俺は今日息子君の誕生日だから帰らせてもらうぞ? お前達もデートの一つ位したらどうだ?」
空気が読めないのか、それともあえて皆を煽る為にそんな台詞を言ったのかどうかはわからない。大勢からのブーイングが飛び交う中、ボスは振り返りもせずそんな言葉を吐き捨てるとあっという間にドアの向こうへと消えていった。
一人、又一人と次々事務所を後にし、気付けば彼女一人だけが取り残されていた。
(デートの一つでもしろって……。誰のせいで毎日残業してると思ってんのよ! あぁーもうっ! 世間の人は週末を楽しんでるはずなのに、私ときたら何でこんなに働いてばっかり)
「はぁーっ」と特大のため息を吐き出した後、それを取り消すように頭を左右に振って頬を叩いた。
愚痴を言えばきりが無い。この仕事は先ほどの様な理不尽な現実を除けば、とてもやりがいがある楽しい仕事だ。手を抜こうと思えば抜く事は可能だが、そうすれば自ずとそれが結果となって返って来る。
(ちゃんとやんなきゃ!)
「ヨシッ!」っと叶子は意気込むと、スパートをかけた。
「お、終わった……」
もう動けないとばかりにデスクに突っ伏した。横目でチラリと時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしている。
(もう、寝ちゃってるよね)
今日も彼に電話が出来ないんだと言う事実を突きつけられたのと、仕事をやり切った感で一杯になり、一気に気が緩んで自然と瞼が閉じて行く。終いには自分の寝息が聞こえて来たのに気付き、慌てて立ち上がって帰り支度を始めた。
「しゅ、終電!!」
デスクの端でバックを広げると、机上にある荷物を片手で一気に流し込み、ポストイットやクリップと一緒にデスクの埃もバッグに仕舞い込んだ。
そのままの勢いでオフィスを飛び出し、駅へと向かう。夜の宴を楽しんだ後なのか陽気なおじさんに声を掛けられることもあったが、叶子は振り返りもせず一心不乱に駅へとひたすら走り続けた。
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