青空の下で君を想う時

まる。

文字の大きさ
25 / 29

第25話~交わり~

しおりを挟む
 この家に越してきてから、僕がこのベッドルームを使う日がとうとうやって来た。まさか、こんな形で初めてこのベッドで寝ることになるとは思っても見なかった。

 サイドボードに置いた、小さなライトだけが点る薄暗い部屋。僕はスージーの肩を支えながらそっとベッドに横たわると、二人の重みでベッドが沈んだ。

「本当に、大丈夫?」

 僕は不安で押しつぶされそうになりながらも、スージーの期待に応えようとした。いや、僕の心の奥底ではスージーと同じ気持ちだったのに、今の今まで、それをただ押さえ込んでいただけだった。
 やっぱり止めると言ってくれれば、少しは気が楽になるとは思うが、同時に落ち込む自分も居るはずで。
 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、スージーは僕を安心させようと平気な振りをして見せた。

「うん、大丈夫よ、先生。だって私もう二十三よ? 子供じゃないんだから」

 そんなどっちつかずの僕だから、彼女の返事を聞いても本当にそれが正しいものなのかすらわからない。
 スージーの顔が良く見えるように、顔の周りにまとわりついた髪を掌で撫で付けては僕はまだ行動に移せないでいた。

「スージー、年齢は関係ないんだよ? ……ただ、こういうことって軽はずみにするもんじゃ――」
「軽はずみにしてるように、見える、のかな」

 大きな目で僕を真っ直ぐ見つめるその瞳に、迷いは少しも感じられない。嘘偽りの無い純粋な子供の様な瞳で見つめられると、自分が汚いモノに思えてしまう。そんな風に考えてしまった途端、踏み留まる事をエランだ。

「やっぱり止めよう」

 僕は起き上がると床に足をつけてベッドに座りなおすと、膝の上で肘をつき、顔を塞いだ。直ぐにスージーも上体を起こす。

「止める、って?」

 今から自分がやろうとしている事は、本当に正しい事なのだろうか。少なからず彼女にリスクがのしかかると思うと、どうしてもこの先へ進めることが出来ない。
 弱虫、そう言われても仕方が無いが、己の欲求を満たすためにスージーを危険な目にあわせることなど出来やしない。

「私って、そんなに魅力無いのかな」

 僕の背後で、スージーのか細い声が聞こえる。
 違う。君には何の非も無いんだ。
 それを伝えようと彼女の方へ体を向けると、スージーの手を掬って甲に口付けた。

「そうじゃないんだ、スージー。僕が臆病なだけなんだよ。ずっと君を守ってきたのに、自らの手で君を傷つけてしまうのが……怖いんだ」

 スージーは何も言葉にする事も無く、ただ、何度も首を振っている。

「スージー、君はとても魅力的だよ。僕は、君を心から愛している」

 僕がそう言うと、どちらからともなく顔を寄せて行った。スージーのひんやりとした手が僕の頬に触れ、その手が次第に僕の首の後ろに巻き付くと、そのまま体重をかけて僕をベッドに引き寄せた。

「っ、スージー……!」

 首に巻きついた彼女の手首を剥ぎ取り、スージーの唇から必死で逃れる。ベッドに横たわる彼女は次第に悲しそうな表情を浮かべ、ついには溢れそうな涙がこぼれない様、瞬きをするのを我慢しているかの様に見えた。

「お願い先生。私に恥をかかせないで」

 僕に手首を拘束されながら、あのスージーが、まだ男を知らないスージーが、僕に抱いて欲しいと懇願する。

「――っ」

 僕の中で何かがはじけ飛ぶような感覚が湧いてきて、それが迷っていた僕に行動を起こさせた。

「覚悟は……出来てる?」

 スージーはゴクリと息を飲むと、静かに頷いた。
 ならば、と、再び彼女に口付けようと顔を寄せたとき、

「優しくしてくれる?」

 先程までは、一体、何処で覚えてきたのかと思うほど大胆な台詞を発していたのが嘘のように、急にしおらしくなる。少々当惑していたが、今の言葉を聞いた限りだとスージーにも少なからず戸惑いがあるのだろう。思わずホッとして口元が緩んだ。

「……うん」

 スージーの額にかかった前髪を掌で掻き揚げると、そこに唇を押し当てる。少しづつ位置を変え、両方の頬にも口づけの雨を降らせた。
 触れる唇の感触を味わっているのか、ただ単に、恥ずかしさで目を開けていられないのか。スージーはずっと目を閉じたままだった。
 もったいぶるかのようにして最後に唇に触れた時、スージーとほぼ同時に舌先が触れる。お互いの舌の形を確かめるかのように、ゆっくりと絡めあわせた。

 一旦唇を離し、目を合わせお互い微笑みあう頃には、もう僕の中に迷いは微塵も感じられなかった。
 もう一度頬にキスを落とし、そのまま首筋へと下降を進める。くすぐったいのか、最初の方は首をすくめたりしていたが、しばらくそれを続けていると彼女の小さな顎があがり、溜息のような声が漏れ聞こえた。
 掴んでいた手首を解放すると、すぐに僕の背に手を回す。口づける場所によって彼女の掌に力が入るのが良くわかり、そこを執拗に攻め立てると、溜息のような声から小さいがはっきりと悦びの声とわかるものに変わった。

 彼女が悦んでいるのがわかると、調子に乗った僕の手はそのままルームウェアのシャツの裾から彼女の中へ侵入する。細い腰を捕らえると触れるか触れないかの様な手つきで、上に行くでもなく下へ向かうでもなく、その間でずっと彼女の肌の感触をただ味わっていた。

 身体を捩りながら我慢していたスージーも、少しづつ息が乱れ始める。それを僕に悟られまいとして必死に絶えているのか、目を固く閉じては下唇を噛んでいた。

 彼女を自分のモノにしたい。

 初めてそんな気持ちが僕を支配した瞬間だった。
 彼女の肌を隠すもの全てを取り去り、その柔らかい肌に口づける。直接触れたことによって、更に顎を天井に突き上げ背中を反り返す。

 もう止まらない。

「スージー、愛してるよ」

 彼女に満足してもらう為に僕は必死に尽くし、彼女も懸命にそれに応えてくれた。
 僕は見えない壁を乗り越える事が出来、決して焦る事無くゆっくりと二人はやがて一つに重なっていった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...