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第21話~新たな人生~
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「着いたよ、ここだ」
スージーがフロントガラスから外を覗き込む。
「ここは?」
「僕の家だよ」
「本当に? 素敵なお家!」
こじんまりとした家だが、ちゃんと庭もあって自然に囲まれたアンティーク調の家。近くには小学校もあるし、小さな子供に勉強を教えたいと思っていた僕にはここはとてもいい条件だった。
そして、いつかスージーが約束通り訪ねてくれた時、万が一、発作が出てしまった時の為を思って、大きな病院も近くにあるのが決め手になった。
訪ねてくれる所か、まさか一緒に住む事になろうとは、その時は思っても見なかったが……。
何はともあれ、これから二人の新しい生活が始まろうとしている。不安は全くないとは言い切れないが、守るべきものが出来た今となっては楽しみな気持ちの方が勝っていた。
「スージー? 君は座ってていいんだからね?」
「大丈夫よ、荷物を解くだけだから」
車から荷物を降ろして部屋に入れて行く。
スージーは運び込まれたダンボールを開け、彼女のセンスで物が次々と片付けられていった。
「よしっと、これで最後だ」
最後のダンボールを運び終えた僕は、そのままスージーの様子を見に行った。やらなくていいとは言ったものの、何故かスージーは部屋の中央に座り込んでいる。何か面白い物を見付けたのか、その横顔には笑顔が満ち溢れていた。
手元には、茶色の皮の表紙の僕の大事なアルバム。そこには、初めて会ったあの日からあの家を出るまでずっと、撮りためていたものばかりがおさめられていた。
既に開いている扉を僕はノックしてスージーの気を引く。スージーはしまったといった表情になり、慌ててアルバムを閉じて作業を再開し始めた。
「あ、ごめんなさい! つい」
「あ、いや、いいんだよ。もうすぐしたら家具屋さんが来るから、家具の位置とか考えておいてって言いたかっただけだから。ゆっくり見てていいよ」
僕はそう言うと、違う部屋の後片付けをしにその場を去った。
◇◆◇
「スージー! 家具屋さんが来たよー!」
まだ玄関の扉を開けただけなのに、急に家の中がガヤガヤと騒がしくなった。
「ありがとうございます! 早速、中へ搬入させてもらいますね」
大きな声の大柄のおじさん数人が、家具と家にキズをつけないようにと、慎重に声を掛け合いながら運んで行く。
「えっと、食器棚はキッチンですね。キッチンは――あ、あったここだ。で、奥さんどのように置きましょうか?」
僕達はそのおじさんの言葉に驚いて、思わず目を丸くしてしまった。おじさんも驚いている僕たちを見て、きょとんと目を丸くしている。
奥さんってきっとスージーの事だよね? と、なると僕は……。
「ああ、旦那さん。悪いけどちょっとここ持ってもらえませんかね?」
二人とも一瞬の間があく。はたと意識を取り戻すと否定する事もせず、
「あ、あの、ではこちらへ置いて下さい」
「あ、は、はい。ここを持てばいいですか?」
束の間の夫婦を味わって楽しんでいた。
「ベッドは二階ですかー?」
玄関の方で、又別のおじさんの声が聞こえる。
「あ、ごめんスージー、ちょっと一緒に行ってきてくれる?」
思いがけなく業者のおじさんの手伝いをさせられていた僕は、手が離すことが出来なかった。
「はーい」
てくてくと玄関先へとスージーが向かう。いつも誰かに頼る事はあっても頼られる事が無かったスージーは、こんな事でもなんだか楽しそうだった。
「「「どうも!ありがとうございました!」」」
後片付けを終えたおじさん達が頭を下げて出て行くと、急に家の中がシン──と静まり返った。
僕とスージーは目を合わせ、
「奥さん、だって」
「先生も、旦那さんって言われてたね」
なんだか恥ずかしくなって僕は鼻の先を掻いた。スージーも少し顔を赤らめている様だった。
「さてと、じゃあ二階を片付けるかな」
「う、うん」
階段を上がり、まずは一番奥の部屋へと向かう。
全ての部屋の扉が開いている横を通り過ぎると、ふと、何かが違う雰囲気を横目で感じ取った。
「?」
途中の部屋の様子が気になり慌てて足を止める。上半身を仰け反らせる様にして部屋の中を覗き込んだ。
「あれ? この部屋、ベッドが無い?」
僕が使う予定の部屋に、何故かベッドが入っていなかった。
何処か別の部屋に入ってしまっているか、一台持ってくるのを忘れたのだろう。
奥のゲストルーム、つまりスージーが使う予定の部屋を確認しに行くと、無いと思っていたもう一台のベッドがあろう事かその部屋に二台仲良く並んでいた。
「あちゃー、間違えちゃったんだなー。どうしよう、一人じゃ流石に移動させられないし。まだ近くに居るかなぁ?」
僕はさっき受け取った納品書を広げると、携帯電話を片手に電話番号を探し始めた。
「あの、私がそれでいいって言ったの」
「え?」
いつの間にか、部屋の入り口に立っていたスージーが申し訳なさそうな顔をしてそんな事を言い出した。
僕は彼女が言った言葉の意図するものが、一体なんなのかわからず困惑し、彼女が次に言おうとしている言葉を待っていた。
スージーがフロントガラスから外を覗き込む。
「ここは?」
「僕の家だよ」
「本当に? 素敵なお家!」
こじんまりとした家だが、ちゃんと庭もあって自然に囲まれたアンティーク調の家。近くには小学校もあるし、小さな子供に勉強を教えたいと思っていた僕にはここはとてもいい条件だった。
そして、いつかスージーが約束通り訪ねてくれた時、万が一、発作が出てしまった時の為を思って、大きな病院も近くにあるのが決め手になった。
訪ねてくれる所か、まさか一緒に住む事になろうとは、その時は思っても見なかったが……。
何はともあれ、これから二人の新しい生活が始まろうとしている。不安は全くないとは言い切れないが、守るべきものが出来た今となっては楽しみな気持ちの方が勝っていた。
「スージー? 君は座ってていいんだからね?」
「大丈夫よ、荷物を解くだけだから」
車から荷物を降ろして部屋に入れて行く。
スージーは運び込まれたダンボールを開け、彼女のセンスで物が次々と片付けられていった。
「よしっと、これで最後だ」
最後のダンボールを運び終えた僕は、そのままスージーの様子を見に行った。やらなくていいとは言ったものの、何故かスージーは部屋の中央に座り込んでいる。何か面白い物を見付けたのか、その横顔には笑顔が満ち溢れていた。
手元には、茶色の皮の表紙の僕の大事なアルバム。そこには、初めて会ったあの日からあの家を出るまでずっと、撮りためていたものばかりがおさめられていた。
既に開いている扉を僕はノックしてスージーの気を引く。スージーはしまったといった表情になり、慌ててアルバムを閉じて作業を再開し始めた。
「あ、ごめんなさい! つい」
「あ、いや、いいんだよ。もうすぐしたら家具屋さんが来るから、家具の位置とか考えておいてって言いたかっただけだから。ゆっくり見てていいよ」
僕はそう言うと、違う部屋の後片付けをしにその場を去った。
◇◆◇
「スージー! 家具屋さんが来たよー!」
まだ玄関の扉を開けただけなのに、急に家の中がガヤガヤと騒がしくなった。
「ありがとうございます! 早速、中へ搬入させてもらいますね」
大きな声の大柄のおじさん数人が、家具と家にキズをつけないようにと、慎重に声を掛け合いながら運んで行く。
「えっと、食器棚はキッチンですね。キッチンは――あ、あったここだ。で、奥さんどのように置きましょうか?」
僕達はそのおじさんの言葉に驚いて、思わず目を丸くしてしまった。おじさんも驚いている僕たちを見て、きょとんと目を丸くしている。
奥さんってきっとスージーの事だよね? と、なると僕は……。
「ああ、旦那さん。悪いけどちょっとここ持ってもらえませんかね?」
二人とも一瞬の間があく。はたと意識を取り戻すと否定する事もせず、
「あ、あの、ではこちらへ置いて下さい」
「あ、は、はい。ここを持てばいいですか?」
束の間の夫婦を味わって楽しんでいた。
「ベッドは二階ですかー?」
玄関の方で、又別のおじさんの声が聞こえる。
「あ、ごめんスージー、ちょっと一緒に行ってきてくれる?」
思いがけなく業者のおじさんの手伝いをさせられていた僕は、手が離すことが出来なかった。
「はーい」
てくてくと玄関先へとスージーが向かう。いつも誰かに頼る事はあっても頼られる事が無かったスージーは、こんな事でもなんだか楽しそうだった。
「「「どうも!ありがとうございました!」」」
後片付けを終えたおじさん達が頭を下げて出て行くと、急に家の中がシン──と静まり返った。
僕とスージーは目を合わせ、
「奥さん、だって」
「先生も、旦那さんって言われてたね」
なんだか恥ずかしくなって僕は鼻の先を掻いた。スージーも少し顔を赤らめている様だった。
「さてと、じゃあ二階を片付けるかな」
「う、うん」
階段を上がり、まずは一番奥の部屋へと向かう。
全ての部屋の扉が開いている横を通り過ぎると、ふと、何かが違う雰囲気を横目で感じ取った。
「?」
途中の部屋の様子が気になり慌てて足を止める。上半身を仰け反らせる様にして部屋の中を覗き込んだ。
「あれ? この部屋、ベッドが無い?」
僕が使う予定の部屋に、何故かベッドが入っていなかった。
何処か別の部屋に入ってしまっているか、一台持ってくるのを忘れたのだろう。
奥のゲストルーム、つまりスージーが使う予定の部屋を確認しに行くと、無いと思っていたもう一台のベッドがあろう事かその部屋に二台仲良く並んでいた。
「あちゃー、間違えちゃったんだなー。どうしよう、一人じゃ流石に移動させられないし。まだ近くに居るかなぁ?」
僕はさっき受け取った納品書を広げると、携帯電話を片手に電話番号を探し始めた。
「あの、私がそれでいいって言ったの」
「え?」
いつの間にか、部屋の入り口に立っていたスージーが申し訳なさそうな顔をしてそんな事を言い出した。
僕は彼女が言った言葉の意図するものが、一体なんなのかわからず困惑し、彼女が次に言おうとしている言葉を待っていた。
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