青空の下で君を想う時

まる。

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第7話~祈り~

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 ◇◆◇

 ふとリオの顔を見ると、ワクワクした様な表情で僕を食い入るように見つめている。一旦話を中断し、僕はリオに尋ねて見た。

「リオ、本当にこんな話聞いて楽しいの?」
「うん!」

 やはり目をキラキラさせて楽しそうに笑っている。

「続きは? 恋のライバル出現! だよね?」
「もう、リオはおませだなぁ」

 リオの頭を撫で、躊躇しながらも話の続きを始めた。


 ◇◆◇

「スージーにアタック?」
「ああ。ダメか?」

 クリスは膝に肘をつき、両手でコロナの瓶を持ちながら、いつになく真剣な表情で話し出した。

「アタックって……。表現が古過ぎないか?」
「なっ、何でもいいだろ? 人が真面目に話ししてんのに!」
「ああ、悪い悪い。でも何でスージーを? あんなに美人モデルがーって言ってたのに」
「なんかさぁ、こう儚げな感じがさ、守ってあげたい! って思っちゃったんだよねー」

 クリスは自分で自分を抱きしめるように腕を組み、恍惚とした表情をしている。僕はそんなクリスを横目で見ながら、顔を引きつらせていた。
 と、突然、クリスにガバッと前のめりに振り向かれて、僕は思わずのけぞった。

「なあ、誘ってみてもいいか?」
「いいか、って言われても。僕はダメとは言える立場じゃないし」
「そうか! 友よありがとう!」

 僕の手を無理矢理奪い、ブンブンと手を握られた。

「い、痛いよクリス。もう、わかったから! ……――」

 クリスは本当にいい奴だ、彼にならスージーを任せられるかもしれない。
 彼の思いを聞いた時は正直複雑な心境になったが、それはスージーに対する思いが妹の様な存在だからこそだろう。
 いつかこのモヤモヤした感情も時が経つと共に消えて無くなるのだと、――僕は思っていた。



 次の日の午後。
 いつもの様に、待ち合わせの場所へ向かう僕を誰かが呼ぶ声がする。振り返ると、クリスが人ごみを掻き分けながらこちらへやって来る所だった。
 思わず振り返ってしまった事に「しまった」と小声で呟く。面倒臭いとばかりに又前を向いて歩き出した。

「ミック! 待てよ!」
「なんだよクリス、もうコンパには行かないぞ」
「ち、違うよ、俺は心を入れ替えたんだよ! もうコンパなんて行かないさ」

 クリスは胸の前で十字を切ると、手を組み天を見上げている。

「なんでまた?」

 何も考えずに尋ねたが、すぐに昨日の話を思い出した。

「もう忘れたのかよ? 俺はスージーちゃんに恋してるんだ」
「恋?」
「ああ、一目惚れって奴だな」
「……」

 たった一度、それもとても短い時間会っただけだというのに、はっきりそう言えるクリスが羨ましい。僕はなんだか面白く無くて、両手をポケットに突っ込みながら靴を引き摺る様に歩いていた。

「で、だ。今から一緒に帰るんだろ? 俺も一緒に帰るわ」
「一緒にって、クリスの家は反対方向じゃないか」
「いいじゃないか。ついでにお前んとこで俺の課題見てくれよ。俺の頭じゃあ無理なんだよ」
「なっ? ダメダメ! 帰ったらスージーの勉強見なきゃなんないし」
「あ、じゃあ俺も! 俺もお前の授業受けるわ! 俺、まだ卒業出来ねぇんだよ。な? 一人も二人も一緒だろ?」
「そんなの、僕が決められるわけ無いだろ?」





「いいわよ」
「なっ? スージー?」

 二つ返事でOKを出したスージーに驚いた。
 スージーの傍らでは、クリスは両手を挙げて喜びのダンスを踊っている。スージーは笑いを堪えるように口許を覆い隠し、クリスを横目で見ながらこう言った。

「だって、一人も二人も一緒じゃない? 一人でやるより二人でやる方が楽しそうだし」
「スージー……」

 本人が良いと言っているのだから、僕が駄目だと言えるわけがない。僕は両手を広げて肩をすくめると、隣でまだ踊っているクリスに声を掛けた。

「授業料高いぞ」
「か、金取るのかよ??」
「当たり前だろっ!」

 そんな僕たちのやり取りを見ては、スージーが楽しそうに笑っている。彼女がこんなに笑顔になれるのならと、仕方なくクリスを受け入れる事にした。





「あ、スージーそうじゃなくて」
「ん? ああ、そっか」
「もう、スージーちゃんはそそっかしいなぁ」
「クリス……君もだよ」
「んぁ? 何処が??」
「ふふっ」

 あれからクリスは度々僕達と共に帰り、一緒に勉強するようになった。クリスと一緒に勉強する事で、心なしかスージーが笑う事が多くなった様に思う。
 スージーとクリスは歳も近いからか話が合うようだ。僕にわからない話をしては盛り上がっている。

 なんだか面白くない。

「じゃ、今日はここまでね」
「はーい、じゃあ私お茶いれてきます」

 いつもの様に、勉強が終わった後のお茶を淹れる為スージーが部屋から出て行った。クリスはスージーが居なくなったのを確認すると、僕に近づき小さな声で話しかけてきた。

「なぁミック。この後スージーちゃんと二人っきりにさせてくれないか?」
「何で?」
「ったくお前も鈍いなぁ、告るんだよ!」
「……ああ」
「ミックが気を利かせてくれないと、いつまでたっても二人っきりにはなれやしねぇ」
「わかったよ。じゃあ自分の部屋に戻るから用が済んだら声かけて、んじゃあな」
「『用が済んだら』って、何か酷くね? それに友達なら『頑張れよ』とかなんとかあってもいいだろ?」

 クリスの話を全部聞き終わる前に、さっさと部屋を出て行った。背後でクリスの甲高い声が聞こえたが、なんて言ってるのかさっぱり耳に入らなかった。

 僕は完全にふてくされていた。
 三人でそれなりに楽しくやってきたのに、なんだか自分だけのけ者にされた気がしたからだった。


 

 どれ位時間が経っただろうか?
 体感的には十分から十五分位だったと思う。
 ドタドタドタと廊下を走る音がだんだん近づいてきたと思ったら、僕の部屋の扉をクリスが血相を変えて勢いよく開け放った。

「もう済んだかい?」

 読みかけの本を閉じ、ゆっくり椅子から立ち上がった。

「たっ、あのっ、」

 クリスは何か言いたそうにしているが、慌てているようで言葉になっていない。大きく息を飲み込み、目を見開くと、

「った、大変だ! ス、スージーちゃんが……」
「……。――!!」

 ただならぬ事が起こったのだと直感した。
 僕は扉の前に立つクリスを押しのけ、夢中で彼女の元へと走り出す。

 ――何事もありませんように。
 
 と、心の中で何度も祈りを捧げていた。






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