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第五章 魚の目に水見えず、人の目に空見えず
第十話~淫らな夜・後編~
しおりを挟む「ん……」
先ほどまでの性急な感じは一切なく、まるで気持ちを確かめ合うかのようにゆっくりと絡み合う互いの舌。息をする間もないほど繰り返される翔太郎の熱い口づけを惜しみつつも、もっと近くに彼を感じたいと思った柚希はおもむろに膝立ちになるとその腕を彼の背中に回した。
「発条さん……好きです」
「……」
自分の気持ちを真っ直ぐ伝える柚希に対し、翔太郎からは何の言葉も貰えない。本当は「俺も」というたった一言だけでも聞くことが出来れば安心するのだが、今はただこうしているだけで満足だった。
首元に顔を埋めれば、香水などと言った類のものを使わない彼から男らしい匂いが溢れている。その匂いを嗅ぐだけでも充分に柚希の感度を高めさせた。
「……っ!」
「っ、」
突然、身体が反り返るほどに、ギュウッと翔太郎に抱きしめられた。互いの身体が密着し、息をするのもままならないくらいのキツイ抱擁に頭がクラクラする。バスタオル一枚隔てただけの身体は熱を持ち、今すぐにでも翔太郎の肌に触れたいと疼いている。背中に感じる翔太郎の手のひらは熱く、彼も柚希と同じ思いであることが感じられた。
ゆっくりと力が抜け落ち、確認するかのように互いの顔をあわせようとする。いつもは積極的な柚希が珍しく照れているのか、翔太郎を直視することが出来ずに下を向いた。
「……。――っ」
熱い手のひらが頬に触れたと同時に、ゆっくりと顔を持ち上げられる。そして、息つく暇もなくすぐに彼の顔が近づくと、その唇はあっさりと重なった。
一度軽く触れた後、翔太郎の舌がすぐに侵入を始める。何度か絡めあっているうちに息も荒くなり、それらが鼓膜を刺激した。
折り重なるようにしてベッドに倒れ込むと絡めあう舌はますます激しさを増し、二人はただ、目の前の相手を無我夢中で貪りあった。
「ひゃ、……んんっ」
耳を軽く甘噛みし、首筋に唇が這う。荒い呼吸と落とされるたびに鳴る口づけの音を聞くだけで、胸の音がドンドンとうるさく響いた。
翔太郎の手によってバスタオルが取り除かれ、一糸纏わぬ姿になる。翔太郎は柚希の上に膝立ちになると上着を脱ぎ、何も言わずにじっと裸の柚希を見つめていた。
「……あ、あのっ……。あんまり見ないで――」
流石にそうじっくりと見られては流石の柚希も耐えられない。慌てて胸元を両手で隠そうとすると、翔太郎の手がそれを阻んだ。
「――? ――ああっ! ……んっ!」
柔らかな双丘に触れたと同時に、小さな尖りに食らいついた。いきなり刺激の強い部分に触れられたせいで、思わず大きな声が漏れてしまう。生暖かい舌が敏感な場所を捕らえたと同時に丁寧に転がされると、柚希は快感を逃すのが難しくなり自分の口元を手の甲で押さえた。
「ん……、んんンッ、や、ぁ……」
執拗にそこばかりを攻められると、もっと別のところにも刺激が欲しくなってしまう。自分では気づかぬ内にシーツを何度も蹴り、もどかしいとばかりに両足を何度もこすり上げた。
それに気づいた翔太郎の手が、身体の側面を撫で付けながら足の間に滑り落ち、その指がすぐに敏感な場所を捉える。指で何度もこすり上げなくとも十分に潤っているそこは、今すぐにでも翔太郎を受け入れる準備が整っていた。
ゆっくりと太い指が一本、二本と沈み、それと同時に柚希の声も大きくなる。あまりの刺激に口元を覆っていた手はその役目を果たすことが出来なくなり、代わりに翔太郎の唇が蓋をした。
「んん――! ……あっ、もうっ、ダメ」
「はぁっ、……何っ、が?」
そう言って、一向に手の動きを止める気配がない。柚希はもう我慢できないとばかりに翔太郎の下腹部に手を伸ばすと、ズボンの上からでもわかる、熱くて硬い滾りに触れた。
あの翔太郎を自分がここまでさせているんだと思うと愛おしい。ゆっくりと慈しむ様に上下に撫で上げた。
「くっ……!」
途端、先ほどまでは主導権を握られていたのが嘘のように、次第に翔太郎の動きが緩慢になる。張りつめたそれを開放するようにチャックを下ろすと、ボクサーパンツの上からそっと摩った。
柚希の顔の横に肘をつき、耐えられないのか翔太郎は頭をベッドに埋めている。必死で快感に耐えようとしているのが見て取れ、柚希はここぞとばかりに翔太郎の首筋にキスを落とした。
決して手の動きを緩めることなくチュッチュッと音を立てて胸元まで下りていくと、女性のものとは違う小さな尖りを見つけた。そこに口付けを落とすと同時に、手を――下着の中に潜り込ませた。
「……っ!」
ビクッと身体が跳ねた後、翔太郎の腰が無意識に揺れている。苦悶に満ちた表情で耐え忍ぶ彼に、柚希は精一杯のおねだりをした。
「ねぇ、お願い。あなたが欲しい……」
「――っ」
もうこれ以上は無理だと互いが思った瞬間だった。
音楽も何も無い部屋の中で、二人の荒い息遣いだけが響き渡る。翔太郎の背に回した手は、いい所を突かれる度に爪を立てていた。
「翔、太郎さん……待――って、――ああっ」
「はぁっ、……はぁっ」
柚希の声が大きくなると、決まってそこばかりを狙い続ける。まだ、このまま自分の中にいる翔太郎を感じていたいと思うものの、そう攻められてしまうとすぐにその果てがやってくるのを感じた。
じんわりと互いの肌が汗ばんでいる。翔太郎が上下するたびにきしむベッドの音や、繋がっている箇所から漏れる水音が厭らしい。その音がますます激しさを増したその時、真上にいる翔太郎と目が合った。辛そうに眉根を寄せ、ただ柚希だけを真っすぐに見つめている。柚希もまた、そんな翔太郎を見つめていると不意に手をとられ、二人は指を絡ませた。
「……翔太郎――さん」
「柚、希……」
柚希が愛おしい人の名前を呼ぶと、翔太郎は初めて柚希の名前を呼んだ。嬉しくて嬉しくて、何度も翔太郎の名前を呼ぶ。そのあと、彼から名前を呼ばれることは一度もなかったが、柚希が名前を呼ぶたびに腰の動きが大きくなり翔太郎の唇が柚希の口を塞ぐのを繰り返した。
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