8 / 12
第一章 赤いゼラニウム
08.脅威度は剣聖並です
しおりを挟む戦闘の没入から戻った僕は、剣を鞘へ仕舞ってから、マリアさんに声をかけた。
「凄いですね、今の魔術。結界魔術ですか?」
「良く分かりましたねー、その通りです。ここの聖域結界を張り直しました。その際に、さっきの侵入者の魔力波形を覚えさせて、自動で敵認定するようにしています。彼はもう二度と、この結界には入れないことでしょう」
ふふふ、と笑みを浮かべるマリアさん。そして、トン、と杖で地面を付き胸をはる。──服の上からでも存在感ばっちりのそれがしっかりと揺れるのを見てしまった。
気恥ずかしくなってしまって、思わず視線を外した。
「それよりも、敵の前でぼーっとするのは危ないですよ、ノアさん」
窘めるというよりも、心配そうに眉を顰めてそう言うのはエイルさんだ。
「ごめんなさい。……その、『鑑定』結果に驚いてしまって」
「そんな意外な結果が見えたんですか?」
マリアさんが興味津々と言わんばかりの表情で、乗り出してきた。僕は思わず半歩引きながら、思い返す。
「え……と、意外というか、殆どが鑑定不能の“■”で埋め尽くされていたので、そんなことも有るんだな、と」
思わず、嘘を吐いた。
冷静に考えてみれば嘘を吐く理由はどこにも無かったのだけれど、珍しい種族名をこの場で伝えるのはマズいような、不思議な直感がしたからだ。
「そうだったのですね……。まだ人物を鑑定することに慣れていないからかも知れませんけど、本当に気を付けて下さいね。あの侵入者の脅威度は『剣聖』並みでしたから」
「脅威度?」
「あ、それは私のスキルです」
エイルさんは、胸に手を当てて話を続ける。
「私には、相手の脅威度を判定するスキルがあるんです。詳しい仕組みは分かっていない部分もあるのですが、先ほどのような戦闘では、敵が強ければ強いほど脅威有りと見做されます。先ほどの侵入者は、剣聖のスキルを持っている人を判定した時と同じレベルの脅威度でした」
「なるほどー。ノアさんがあっさり撃退しちゃったように見えたけど、実は超危険だったってことかな。剣聖スキル持ちと直にやり合いながら、結界魔術を構築するなんてことは流石にできませんからね。ノアさん、ありがとうございますっ」
そういって明るく笑いかけてくれるマリアさん。釣られて、僕も「どういたしまして」と笑った。
それにしても、脅威度が『剣聖』並?
正直、あの侵入者がそこまで腕利きだとは思えなかったけどな。決して弱くは無いけれど、本当に『剣聖』なら、幾ら僕が戦いに没入しようと圧倒できる相手ではない気がする。
まぁ、そこを細かく気にしても仕方ないか。エイルさん自身も詳しい仕組みは分かって無いって言ってたし。
何にせよ、無事に侵入者を撃退できたんだ。現状では最上の結果を得ることができたんだ。今はそれを素直に喜ぼう。
「……あれ、何か落ちてる?」
ふと、視界の端に何かを見つけたような気がして視線を向ける。すると、赤いゼラニウムの横にペンダントのような何かが落ちていた。
何だろう、と思ってそれを見ると、半ば勝手に『鑑定』スキルが仕事を始めた。
======================================
名前:破界のネックレス
種別:古代魔導具
品質:上級
魔力を込めることで結界魔術を無効化できる魔導具。
強力な術式が刻まれていて、殆どの結界を無効化することができる。
======================================
「これ……」
きっと、侵入者が落としていったものだろう。これがあったから、マリアさんの結界の中に侵入することができたのかも知れない。
「もしかしてっ。それは結界の破壊効果がある古代魔導具じゃないですか?!」
僕が手に持っているネックレスを見たマリアさんが驚きの声を上げた。
「そうですね、鑑定結果でも『破界のネックレス』と出ています。結界魔術を無効化する効果があるようです」
「やっぱり! 嫌ーな感じがするんですよ、このネックレスから。これがあったら、いくら私の結界魔術でも苦戦しちゃいますね。私の天敵です! ノアさん、お手柄ですよ!」
「ありがとうございます。偶々ですけどね」
「いいえ、運も実力の内です! それに、これがまだ敵の手にあったとしたら、これから何度も結界内に侵入されちゃいますから」
確かに。運が味方したからであっても、この破界のネックレスを得られたことは喜ばしい。
これが敵の手にあると思うと、ぞっとする。この場所の安全はマリアさんの結界魔術に依存している訳だから、破界のネックレスを持った相手にはほぼ無防備と言っても過言ではないんだ。
「でもでもっ、これで安心です。これが私達の手にある内は、もう侵入者は来ないでしょう。私の結界魔術は最強ですから! えへん!」
そう言ってまた胸を張るマリアさん。
だけど、エイルさんは何かを考え込む様に顎先に指を当てて、僕が持つ破界のネックレスを見つめていた。
「……これって、この一つしか無いものなんでしょうか?」
確かに。
あ、胸を張ったままのマリアさんがちょっと固まってる。
「……流石、聖女様ですわね。指摘が鋭くってよ」
マリアさんが汗をかいている。口調も変わっちゃってるし。まぁ、あれだけ自信満々に胸を張って宣言した直後だから、気まずいのは分かるけどさ。
というか、助けを求めるかのような視線でこっちを見てるし。
「まぁ、古代魔導具は貴重だから、そう何個も存在しないでしょう」
「ですよね! ですよね! もう私の結界魔術に恐い物なんて無いんです。えへん!」
そうやって無理矢理調子に乗るから窮地に追い込まれるんじゃないかな。
「それは私も同意見ですが、最悪は常に想定しておくべきと思います」
ほらね。僕だってそう思うし。
……そんな切なそうな目で訴えられても、どうにも出来ないですって。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情
灰色の鼠
ファンタジー
・他サイト総合日間ランキング1位!
・総合週間ランキング1位!
・ラブコメ日間ランキング1位!
・ラブコメ週間ランキング1位!
・ラブコメ月間ランキング1位獲得!
魔王を討ちとったハーレム主人公のような英雄リュートに結婚を誓い合った幼馴染を奪い取られてしまった脇役ヘリオス。
幼いころから何かの主人公になりたいと願っていたが、どんなに努力をしても自分は舞台上で活躍するような英雄にはなれないことを認め、絶望する。
そんな彼のことを、主人公リュートと結ばれなければならない物語のメインヒロインが異様なまでに執着するようになり、いつしか溺愛されてしまう。
これは脇役モブと、美少女メインヒロインを中心に起きる様々なトラブルを描いたラブコメである———
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる