12 / 16
第一章
12.地上を目指して
しおりを挟む「さぁ、行こう」
アーカイルの口調は明るかった。
今、彼らは『家』から出た広場にある大きな扉、神獣の谷のダンジョンへと至る石扉の前に居た。
「ねぇねぇ、アル、ちゃんと食料は持った? 燻製肉忘れてない?」
「持ってるよ。干し肉もちゃんとある。フェリンは本当食いしん坊だなぁ」
「アルの料理が美味しいからだよ」
≪むぅ、主殿の手料理を食せぬとは……≫
悔しがる『勝利の剣』は、アーカイルの左腰にあった。
専用の鞘を装備したアーカイルは、サブウエポンとして、腰の後ろに魔法銀製のナイフと一緒に装備していた。
そして、これまでは革製の胸当てだけだった防具も、魔法銀製の胸当てと脛当てに変わっている。
全身鎧もあったが、動きやすい方がしっくりきたため、軽めの装備で整えた結果だ。
「ごめんね、ヴィクトリア。代わりじゃないけど、僕の神力はいつでも食べて貰って良いからね」
≪嗚呼、主殿の神力が食べ放題、飲み放題。蕩けてしまうのじゃ……≫
「ヴィクトリアが変態さんだったのが凄く意外だったなー」
≪妾は変態ではない。主殿の神力が甘露の如き至高の味であるだけのこと……。嗚呼、美味、美味……≫
早速吸われているようだ。
『勝利の剣』――神話にも登場する神世の剣に、アーカイルは“ヴィクトリア”と名前を付けた。
古の言葉で“勝利”を意味し、神話に登場する勝利の女神の名前。
『勝利の剣』――ヴィクトリアは、この名前をとても気に入ったようで、自分の事を『勝利の剣』ではなく、ヴィクトリアと名乗るようになっていた。
因みに、装備だけではなく、所持品も充実している。
その中でも特筆すべきは『マジックバッグリング』の存在だろう。
これは指輪状のマジックバッグだ。
マジックバッグとは、収納用に作成された別空間に道具をしまっておくことができるアイテムである。
重い素材も、嵩張る装備も、アイテムも、全て別空間に格納してしまうので、重さも体積も気にする必要が無い。保存用の空間が許す限りいくらでも格納が可能な代物だ。
ただ指輪を嵌めているだけで大容量の荷物を持ち運びできるのだから、その有用さは計り知れない。
しかも、リンクする指輪が二つあり、そのどちらからも出し入れが可能になる優れものだ。
更に言うと、収納用の別空間は時間の流れが極端に遅くなっているため、生鮮食料品でも腐らない。
そのため、干し肉や燻製肉に加えて、獲れたてのオークキング肉やマイコニドキングも大量に所持できている。
長所はそれだけに留まらない。
収納容量もかなり大きいのだ。少なくとも、宝物庫にある宝物を全て格納しても、まだまだ空きがありそうなくらいの容量があった。
アーカイルは、このマジックバックリングに、有用そうな装備とアイテム、金塊を次々と詰め込み、探索の準備を整えていた。
「ねぇ、アル。本当に、アルも戦闘に参加するの?」
そう、不安そうに訊ねるのはフェリンだ。
「勿論さ。そうしないと強くなれないしね。だから、ヴィクトリアも協力してね」
≪それは良いのじゃが……、何もしないことが協力とは、残念な限りじゃ……≫
準備に充てていたこの五日間で、アーカイルの地力強化を行うべく、『家』近くのダンジョン探索を行っていた。
その中で、ヴィクトリアの自動戦闘も試していたのだが――
「ごめんね。ヴィクトリアの自動戦闘だと、オークキングの群れでも瞬殺できちゃうから……」
そう。強すぎたのだ。
桁外れのアーカイルの神力を源とする『勝利の剣』は、文字通り比類無き力を発揮した。
元々、神世の巨人であろうとも屠る事ができる性能を持った剣ではあったのだが、アーカイルの神力とのシナジーにより、その力は強大なものとなっていた。
主であるアーカイルが指示を出せば、オークキング五体を、一瞬で輪切りにしてしまうという凄まじい威力の剣となっていたのである。
「うんうん。戦力としては凄いけど、これじゃアルの訓練にはならないもんね」
≪むぅ。妾が力を振るう事が主殿の成長を妨げる結果になってしまうとは……。無念でならぬっ≫
「あ、でも危なくなったら助けてね、頼りにしてるよ」
アーカイルの言葉に、ヴィクトリアが笑顔になった。――ような気がした。
表情は無いのだが、何となくそんな気がする。
このどこか本能に訴えかけるような感情表現の正体は不明だったが、アーカイル達はヴィクトリアの感情表現をとても気に入っていた。
≪うむ、任せるのじゃ。主殿に傷一つ付けぬと誓おうぞ≫
「そ、それはちょっとやりすぎかなぁ。僕、ちゃんと成長出来るかな……」
因みに、この五日間、フェリンやヴィクトリアの手助けを受け、オークキング達相手に訓練をした結果、アーカイルのステータスは確りと成長していた。
====================================
アーカイル・マグナディア
年齢: 16
グレイプニルの盟約
→神獣フェンリル(フェリン)
『勝利の剣』(ヴィクトリア)所持者
神力
■■■
スキル
補助神術 Lv3(+Lv1)
治癒神術 Lv3(+Lv2)
氷神術 Lv1(+Lv2)
火神術 Lv1(+Lv2)
補助魔術 Lv2
治癒魔術 Lv1
(暴食の顎) Lv0(+Lv3)
(自己再生) Lv0(+Lv3)
(状態異常耐性) Lv0(+Lv2)
体力値 706/ 356(+350)
神力値 9944/9714(+230)
魔力値 533/ 343(+190)
力強さ 38(+42)
生命力 27(+35)
知力 51(+20)
素早さ 42(+57)
器用さ 40(+46)
運 1(+ 2)
====================================
グレイプニルの盟約により、神獣フェンリルの力が宿り、各種能力が向上している。
特に大きな成長点は、神術のスキルだろう。
魔術は、魔力を使って発動する術式だが、神術は、神力を使って発動する術式だ。
フェリンが使える神術を何度か使ううちに、アーカイルも使用することが出来るようになったのだ。
特に、これまで習得に努力を重ねてきていた、補助術と治癒術は、神術に応用出来ることも多く、ほんの数日で目覚ましい成長を遂げていた。
それ以外に、アーカイルの地力も確実に強化されていた。
神獣の谷の谷底へ落ちた時には、一般人よりは少し強いかも知れない程度だった各種値が、今はD~Cランク程度の強さに成長している。
グレイプニルの盟約による強化値も加味すると、B~Aランク程度の強さにもなっていた。
因みに、各種スキルの最大値は『Lv9』、体力、神力、魔力の各種値は、ドラゴンスレイヤーレベルでも一○○○を越える程度。
その他、力強さ等については、Aランク冒険者の最大の項目が一○○前後。
それらを考えれば、この五日間で、アーカイルはほぼ別人と言っても差し支え無いほどの成長を遂げているのだ。
それこそ、フェリンやヴィクトリアの支援を受ければ、オークキング単体であれば良い勝負が出来るくらいには強くなった。
「ボクは、アーカイルが戦って強くなるのは賛成だけど、本当に無理はしないでね」
フェリンが、アーカイルの脚を肉球でぺしぺしと叩きながら見上げていた。
「分かってるよ、フェリン」
「約束だよ? 伸び代しか無い筈なのになかなか伸びない運のせいで、ちょっとだけ不安なのさ」
≪本当に、妾の運を分けて差し上げたいのぅ≫
「あ、あはは……」
相変わらず、人類ほぼ最弱レベルの運を誇るアーカイル。
これは、グレイプニルの盟約でも改善されることは無かったようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神獣の谷のダンジョン探索は、非常に順調と言えた。
アーカイル自身の実力は、まだ神獣の谷ダンジョンを探索するには足りないと言わざるを得なかったが、どんな魔物であっても負け知らずのフェリンが、的確に氷魔法で足止めをするため、アーカイルが複数の魔物を一度に相手にするような事態に陥ることが殆ど無い。
あるとすれば、敵が複数いる戦闘に慣れるために、敢えて複数を相手取る時くらいのものだった。
そして、戦闘中、魔物が予想外の動きでアーカイルを窮地に追い込んだとしても、フェリンがあっさりと魔物を倒してしまう。
フェリンの手が回らなくとも、ヴィクトリアが自ら動き、あっさりと敵を両断してしまう。
――更には。
「どうもー。通らせてもらうね」
「ヴォッ?! ヴォー」
フェリンの言葉に驚いたように顔を上げた後、どうぞと言わんばかりに頷くのは、見上げる程の巨躯を誇るドラゴンだ。
身体を覆う鱗は金属のよう。鋭い牙に、強靱な爪、そして空を羽ばたく翼。
圧倒的な強者が、そこに居た。
≪懐かしいのぉ、ファフニールか≫
「ヴォッ?」
まるで、「えっ、誰?」とでも言うように、ドラゴンがその顔を上げて周囲を見遣った。
≪妾じゃ。『勝利の剣』と言えば分かるかの。今は主殿からヴィクトリアという名を授かったため、そう名乗っておるが≫
ファフニールと呼ばれたドラゴンが何と言ったのかは分からなかったが、声の主が名乗れば、ドラゴンは目を閉じて眠り始めてしまった。
「……凄いね。ボスモンスターと知り合いなんだ」
「今の所はそうだねー。誰が居るかまでは知らないけど、結構知り合いが多そう」
≪うむ。馴染みの顔や、昔やり合った者達が多いようじゃ≫
ダンジョンには途中で必ず倒さなければ先へと進めない、ボスモンスターと言われる魔物が存在する。
このファフニールと呼ばれる古のドラゴンも、その一体だ。
名を持つ古龍は、当然その名や伝説に見合った強さを持つ。実際、ファフニールと正面から戦うとなれば、フェリンでも圧勝は難しい。
だが、そんな魔物が、戦わずに道を譲ってくれるのだ。
因みに、最初にファフニールが驚いていたのは、自分の後ろからアーカイル達が現われたからだ。
アーカイル達はダンジョンを逆に進んでいる。そのため、ファフニールからすれば、自分を倒す程の強者のみを通す筈の通路から、通した覚えの無い者達が現われたということになる。そのための驚きだった。
「ここが、Sランク指定の神獣の谷だって、忘れそうになるよ……」
こうして、ダンジョン探索は、想像以上に順調に進んでいくのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~
K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。
次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。
生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。
…決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる