【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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最終章《因果律》編

第235話 お互いの覚悟

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「ルーサ!!!!」

 ぼんやりとした目がはっきりしてきたかと思うと、気付けば目の前にはルギニアスが泣き出しそうなそんな顔で私の顔を覗き込んでいた。

「ルーサ!! しっかりしろ!! なにがあった!?」
「ルギニアス……」

 先程まで私が体験していたことは夢?
 私はどうやら倒れ込んだのか、地面に横たわっていた。そして、ルギニアスに上半身を支えられている。私を支えるルギニアスの手は少し震えていた。
 あぁ、また酷く心配をさせてしまった……。

「ごめん、大丈夫。アシェリアンに会ってた……」

 きっとあれは夢じゃない。アシェリアンに呼ばれたのよ。今、このとき、この瞬間……あの大穴を塞いで欲しくて。

「アシェリアン!?」

 ルギニアスの手にグッと力が籠ったかと思うと、眉間に皺を寄せ怒りを滲ませた。

「あいつがなぜお前を呼ぶ」

 その声は静かに低く呟かれたが、背筋がぞくりとするような、そんな怒気を孕んでいた。

「ルギニアス、私は大丈夫だから。アシェリアンにお願いされたの」
「願い?」
「うん。この世界をあるべき姿に戻すために」

 私はルギニアスに支えられながら立ち上がった。

 周りでは皆が必死に戦ってくれている。ルギニアスの結界が大穴を塞いでくれているけれど、すでに入り込んでしまっている魔物たちにはディノたちが応戦してくれている。
 オルフィウス王はこの場にいる私たちの周りに結界を張ってくれている。リラーナはお父様とお母様に寄り添ってくれている。司教の方たちも魔法で援護や、回復をしてくれたりと手伝ってくれている。

 皆が必死に戦ってくれているのよ。あの大穴をどうすることも出来ないことが分かっているのに、それでも皆はこの魔物たちがこの場から出て行かないように戦ってくれている。私は……

 あるべき姿に戻る……あの大穴……アリシャの魔石……

 胸にある紫の魔石を手に取った。
 私がこの世界に転生したときから、生まれたときからずっと傍にある魔石。ルギニアスと共に長い年月を過ごしてきたアリシャの魔石。

 そして、もうひとつ。
 オルフィウス王から預かったアリシャの魔石。ルギニアスの双子の弟、フィシェスさんへ贈ったアリシャの記憶の入った魔石。

 ふたつの魔石を手のひらに乗せた。じっとそれを見詰め、そしてルギニアスの顔を見上げる。ルギニアスは心配そうな、怪訝そうな、そんな複雑な表情をしていた。フフ。それがなんだか逆に心を落ち着けさせた。

「ルギニアス、好きよ」
「な、なんだ突然」

 こんなに大変な状況だというのに、なぜか心は凄く落ち着いていて、そんな言葉が口を付いた。

「フフ、ううん。なんでもない。ただ伝えたかっただけ」

 ルギニアスは少し顔を赤らめ、なにやら変な顔となり、そして私の頭をガシッと掴んだ。そしてワシワシと撫でられたせいで少し俯く。そのとき頭上から小さく言葉が降った。

「俺もお前が好きだ」

 ガバッと顔を上げると、驚いたルギニアスは目を見開き、そして一気に顔が真っ赤になり顔を背けた。
 周りの音が聞こえないくらいに真っ直ぐに届いたその言葉。嬉しくて……嬉しくて……笑った。

 こんな状況だというのに、笑えた。肩の力が抜けた。うん。きっと私は大丈夫。


「ルギニアス、ふたつのアリシャの魔石。これを融合させて穴を塞ごうと思う」

 赤い顔のままだったが、ルギニアスは私の言葉に背けていた顔をガバッと戻し見詰めた。

「この魔石を使ってもいい?」

 アリシャの魔石。ルギニアスにとったらアリシャやアリサとの想い出の魔石だろう。そんな魔石を使ってしまうことへの少しの罪悪感。

「あぁ」

 ルギニアスは私の言葉に迷うことなく返事をした。

「魔石を失ってもいいの? アリシャやアリサとの想い出でしょ? 大事なものじゃない?」

 そう問うとルギニアスはフッと笑った。

「いや、もうそれは必要ない。それよりもっと大事なものが出来たからな」
「もっと大事なもの? なにそれ?」
「お前なぁ……」

 呆れたような顔で頬を思い切り抓られた。い、痛い。

「覚えてろよ、いつか思い知らせてやるからな」

 そう言いながら頭をガシッと掴まれる。でもその顔は晴れやかで私を真っ直ぐに見詰めるその瞳に迷いはなかった。


 皆が戦い続けるなか、私は両手で魔石を持ち握り締めた。ルギニアスは私の横でいまだに結界へ魔力を送り続けてくれている。

「結界の解除と同時に一気に魔物が流れ込んでくるからな?」
「うん」

 ルギニアスの結界と干渉し合わないように、私が魔石の力を解放したと同時にルギニアスの結界を解除してもらう。それは瞬時の切り替えが必要となる。でも、きっと大丈夫……そう信じた。

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