【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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最終章《因果律》編

第233話 結界の崩壊

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 お母様が叫んだと同時に結界が一気に崩壊する。

「お母様!!」

 大きな波が押し寄せるように、一気に魔物たちがなだれ込んで来る!! 大穴の真下にいたお母様はそのまま意識を失うように倒れ込んだ。お父様がそんなお母様を抱き止めている。

「ルーサ!!!!」

 ルギニアスの叫ぶ声が聞こえる。両親へと駆け寄ろうとしたその瞬間頭上に影が落ちる。見上げると、そこには醜悪な身体を持つ魔物がいた。

「!!」

 ルギニアスが大きく手を振り上げ、目の前には障壁結界が広がった。それに弾かれた魔物は怒り狂ったかのように咆哮を上げた。

『グウォォォォォオオオ!!!!』

 それに呼応するように、なだれ込んで来る魔物たちが一斉に咆哮を上げる。ビリビリと地面が震えるかのような音に、鼓膜が破れそうだ。思わず耳を塞ぐ。

「ルーサとリラーナは下がれ!!」

 ディノが剣を鞘から抜きながら叫ぶ。イーザンも魔導剣を構え、オキやヴァドも自身の武器を構える。皆が臨戦態勢に入った。

 オルフィウス王は大きく手を拡げ、とてつもない魔力を発動させる。

「ルギニアス!! 私と共に魔物を抑えろ!! 取りこぼした魔物は皆で倒せ!!」

 全員が声を上げ、オルフィウス王の指示に従った。ルギニアスは私を背後に庇うように立ち、オルフィウス王と同様に両手を広げ、魔力を発動させる。それはオルフィウス王よりもさらに強大な魔力。ルギニアスの身体全体に陽炎のように揺らぐ魔力が目に見えて分かる。

 オルフィウス王とルギニアスは障壁結界なのか、聖女の結界とは少し違う結界のようなものを発動させた。しかし、いつものルギニアスが発動させる障壁結界とも少し違うような……。光の膜は虹色に輝き大きく膨らむ。ルギニアスの結界は大穴近くに発動され、これ以上魔物が流れ込まないよう動きを止めた。

 オルフィウス王は両親や私とリラーナを守るように、さらには魔物が触れるとそれ自体が攻撃になるかのような結界を発動させていた。魔物が触れた瞬間、電気が走ったかのような刺激に身体を震わせ、その場に魔物が崩れ落ちた。

 ディノやオキ、ヴァドは物理攻撃を繰り返し、イーザンは炎弾と雷撃で援護をしている。しかし次々と襲い来る魔物にキリがない。

 あぁ……どうしたらいいの……。

 お母様は真っ青な顔で倒れている。再び結界を張るなんてもう出来ないだろう……。ルギニアスが必死に魔物の流入を防いでくれてはいるが、完全な結界が張れる訳ではない。その場しのぎの結界を張っているに過ぎない。やはり聖女でないと、継続的な結界は維持出来ない……一体どうしたら……。


 皆が死んでしまう!! どうしたらいいの!?


『ルーサ……、ルーサ!!』


 どこからともなく声が聞こえる。それは懐かしいような、安心するような、温かい声。

「!?」

 私の胸にある紫の魔石が激しい光を放った。



 真っ白な光に包まれ目を瞑った。そして、ゆっくりと目を開くとそこは見覚えのある空間だった……。

「ルーサ」

 声を掛けられ、目を向けると、そこには銀髪に銀色の瞳をした美しい女性……

「アシェリアン……?」

「そうよ、ルーサ。愛しい子」

 アシェリアンは女神らしいとても美しく優しい微笑みを向けた。

「ここは?」

 アリシャの記憶を覗いたときに見た場所のよう。アシェリアンの神殿のような場所。なにもかもが真っ白な空間。神の領域ということ?

「ここは私の領域。アリシャの魔石を通して貴女を呼んだの」

 そう言ってアシェリアンは私の胸元の魔石をそっと触った。紫の魔石は反応するように、ほんのり光り輝いている。

「ごめんなさい、この場でないと私の声は貴女に届かなかった。貴女たちの今いる大穴のある場所は神殿に一番近い。そしてその場にアリシャの魔石がある今このときでしか、貴女を呼ぶことは出来なかった」
「どうして私を呼んだの? 皆は今どうなっているの? 早くしないと皆が死んじゃう!!」

 今もこうしている間に皆が死んでしまうかもしれない。それが怖かった。声が震える。皆が死んでしまったら、私は生きていけない。私は自分が許せない。絶対に死なせたくない。
 私がいたところで戦力になんかならない。それは分かっているけれど、でもそれでも皆と離れていたくない!!

 涙目になりながら拳を握る。

「貴女は皆が大好きなのね」

 アシェリアンは私の頬に手を伸ばし、そっと撫でた。その顔はとても優しく慈愛に満ちている。

「貴女の身体は今も皆と共にいるわ。貴女の魂だけが今ここにいる。この空間にいる間、時間の流れはないわ。だから今しかないの……私の願いを聞いて欲しい……」

 頬から手を離したアシェリアンは私の両手を取り、ふわりと優しく包んだ。

「お願いを聞いて欲しくて私を呼んだの?」
「そう……私が貴女を呼んだの……こちらの世界へ」

 アシェリアンのこの発言は……この空間に呼んだことではない。それはすぐに分かった……。それは私がこの世界に転生したことを言っているのだ……。



*********

次回、6月3日に更新予定です。
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