【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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最終章《因果律》編

第232話 両親との再会

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 ルギニアスに抱き締められ、目を瞑っていたが、目を開けていられないほどの眩い光が落ち着いて来たことを感じ、ゆっくりと目を開ける。そこには……

「な、なに、ここ……」

 リラーナが驚愕の声を上げる。皆、茫然と立ち尽くしていた。

 部屋のなかにいたはずなのに、今周りに見えるものは部屋の壁ではない。足元には先程の部屋の床にあった魔法陣が残っていたが、それ以外はなにもない。部屋の痕跡もなく、今私たちが立っている場所には土の地面が広がっているだけだ。

 周りを見回すと、土の地面が広がり、大きな岩が転がっている。しかし、木や植物は全く見当たらない。そして、私たちの立つその場所のすぐ近くに、小さな小屋があるだけだ。

 そして、見上げた空には…………

 大きな空。澱んだような、とても青空とは言い難い暗く沈んだ色をしている。そしてその空にぽっかりと開いた真っ黒の巨大な穴。それは空に亀裂を入れ、ひび割れた歪な円。見る者全てを引き摺り込みそうな、漆黒の闇。

 その穴には今まさにこちらの世界へとなだれ込もうとしている魔物たちの姿が見えた。

「ひっ」

 リラーナの息を飲む音が聞こえる。皆も一様に眉間に皺を寄せながら、大穴を見上げる。魔物たちの魔力のせいだろうか、とてつもない魔力が蠢いているようだ。全身が震える。この場から逃げ出したくなるほどの恐怖を感じてしまう。

 大穴には光り輝く膜が張っているように見えた。薄く虹色に輝くその膜のせいで、魔物たちはその場からこちらに抜け出すことが出来ないでいる。まるで壁に貼り付くかのように、魔物たちがその場に留まっている。おそらくあれが結界……しかし、その結界が亀裂が入っている!?

 大穴の下には人影が見えた。今もその結界に魔力を送り続けている。その人影から魔力が吸い取られるように、結界へと流れていくのが分かった。その人物は綺麗な長い銀髪を靡かせ、両手を掲げ、必死に結界を維持しようとしている。

「お母様!!」

 あれはお母様だ!! 絶対そうよ!! 私は無意識に駆け出していた。

「ルーサ!!」

 皆が呼ぶ声、ルギニアスの呼ぶ声が聞こえたが、私はその人を目掛けてひたすら走った。

「お母様!!」

 叫んだ声は反響するかのように響き、その人の元まで声を届けた。その人は声に気付くとこちらに振り向いた。
 その瞳は水色の綺麗な瞳。キラキラと輝く美しい瞳。少しやつれてしまってはいるが、あれはお母様に間違いない。懐かしい顔……十歳のときに別れたきり、一度も会うことが叶わなかったお母様。

「ル、ルーサ?」

 私の名を呼ぶその懐かしい声に涙が出そうになる。駆け寄り抱き付こうかと、お母様の目前までやって来たとき、私の身体はガシッとなにかに阻まれ抱えられた。

「ルーサから手を離せ!!」

 ルギニアスの怒りを含んだ声が頭上から降り注ぎ、ガバッと振り向くと、そこにはルギニアスに手首を掴まれた男の人がいた。薄茶色の髪に菫色の瞳の男性……。

「お、お父様……?」

 ぎょっとした顔になったルギニアスは手首を掴んだまま、私とその男性を見比べた。

「ルーサ……大きくなったなぁ……」

 そう言いながら涙ぐんだお父様は、そのまま私を抱き締める。ルギニアスはばつが悪そうな顔となりながらも、お父様の手首を掴んでいた手を離した。そんなルギニアスの姿に少しクスッと笑い、私はお父様の背に腕を伸ばしぎゅっと抱き締め返した。

「お父様も元気そうで良かった……」
「話したいことはたくさんあるが……今はそれどころじゃないな……」

 そう言いながら肩を掴み、身体を離したお父様は眉を下げながら微笑んだ。正面から見詰めるお父様は記憶に残るよりも年を取り、やはりお母様同様にやつれていた。そんな姿に懐かしさや嬉しさよりも胸が苦しくなる。

「お母様は……」

 お父様から視線を外し、再びお母様を見ると、お母様も涙ぐみながら微笑んでいた。しかし、その掲げる腕はブルブルと震えている。顔はどんどんと真っ青に。

「ミラ!!」

 お父様はお母様に駆け寄った。私も同様に駆け寄ろうとしたその瞬間……ぞわりと身体が震え、ギシリと足がその場に貼り付いたかのように止まってしまった。

 ルギニアスが私に寄り添い、そして二人で大穴を見上げる。大穴にはビシッと大きな亀裂が入り出す。

「!?」

 ビシッ、ピシッとひび割れるような音が反響するように聞こえてくる。嫌な予感がする……。

「も、もう駄目だわ……みんな、逃げて!!!!」

 お母様の叫び声が響き渡る。そのとき、大穴に張っていた光の膜が『パリンッ!!』と、硝子が割れるかのような音を上げながら、粉々に砕け散った。

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