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最終章《因果律》編
第230話 魔石精製師であるということ
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ビクッと身体が震えた。
『聖女でなければならなかった』
その言葉が私を責めるように聞こえ、身体が強張った。ルギニアスはそれに気付いたのか、握っていた手を離したかと思うと、私の肩を掴み引き寄せた。そしてぎゅっと抱き締めると、はっきりと言葉にした。
「お前が聖女である必要などない。お前はお前だ。魔石精製師だろうが聖女だろうが、そんなものはアシェリアンが勝手に神託を下しているだけだ」
「ルギニアス……」
「そうよ、ルーサは魔石精製師になるべくして生まれたんじゃないかってくらい魔石が好きじゃない! そんなの神託があろうがなかろうが、きっとルーサは魔石精製師として生きているわよ!」
「だな」
ルギニアスの言葉。リラーナの言葉。そしてディノたちも笑ってその言葉を肯定してくれる。それが嬉しくて泣いてしまいそう。
「フッ。確かにそもそも神託が下ったからといって、必ずしもその神託を生かす職に就く訳でもない。神託は己の能力を上手く活用するためのただの指針だ」
オルフィウス王もそう言って笑った。
『能力を活用するための指針』。そんなふうに考えたことはなかった……。そっか、神託は指針。自分が最大限上手く使いこなせる能力を、無駄なく使えるための指針であって、必ずしもその道に進む必要などない。
能力でなくとも、他にも生きていくための術は色々ある。それだけが人生じゃない。そう、メルだって魔石精製師を諦めても、魔導具屋で頑張ると言っていたじゃない。
「私は聖女ではない。でも、私は魔石精製師になったことに後悔はしません。お母様は……お母様はどこにいるんですか!? お母様に、両親に会わせてください!!」
お母様に会いたい、お父様に会いたい。そう訴えた。しかし、大司教は今までの無表情を崩し、睨むようにこちらを見る。その瞳には憎しみなのか、哀しみなのか、複雑な色を含んでいるようだった。
「貴女の母親は歴代聖女のなかで一番力が弱かった。次第に力が失われていく聖女に、今後結界をどうしていけば良いのか、そんな不安を抱える我々の苦労を貴女方はお分かりか!? 結界が弱まり、いつかは再び魔界との大穴が開いてしまうかもしれないという恐れを、我々はずっと抱えて来た!! それなのに!!」
大司教は項垂れ、声が震えている。気付くと、私たちを囲んでいた他の司教たちも苦しそうな顔をしていた。ひとりの司教は大司教に歩み寄り、そっと手を差し伸べ寄り添った。
「それなのに当代の聖女から生まれた子供は聖女ですらなかった……。アシェルーダ王はおそらく貴女を殺せば、次の聖女が生まれてくると思っていたのでしょう……けれど、きっと……もう二度と聖女は生まれない……我々は女神から見放された……」
「…………」
この人はこの人できっとずっと責任を負ってきたんだろう。聖女を見守り、結界を見守り、そうやってこの世界を守っていた……。でも、私が聖女でなかったから……。
「聖女が世襲制ならば、聖女の力が弱まるのは当然だ」
ルギニアスの言葉に皆が振り向く。大司教は怪訝な顔を向けた。
「アリシャはアシェリアンの片割れだった。その力は最強だろう。アリシャが生んだ次の聖女も、アリシャの持つ全ての魔力を使い生み出された。しかし、その後はどうだ。伴侶を得て、普通に子供として生んでいく。聖女の血以外のものが混ざっていく。それが繰り返されるたびに、聖女の血は薄まる。それならば聖女の力が弱まるのは当然だ」
なるほど……、確かに血が薄まっていくと、力も弱まるのかもしれない。そして、最終的に『私』という『聖女』ですらない子供が生まれた……。
「貴方は何者……まるで初代聖女を知っているかのような口ぶり……」
大司教は怯えるような目を向けている。
「貴女方が恐れている魔王だ」
フッ、とオルフィウス王が目を細め告げた。
「は!?」
大司教は驚愕の顔で目を見開き後退る。その姿になにやら満足げなオルフィウス王が一歩前へと進んだ。
「彼は初代聖女と戦った魔王で、そして私の祖先でもある。ハハハ、なかなかに興味深いだろう? 彼は本来ラフィージアの人間だったのに、魔力が強過ぎたため魔物たちから魔王に祭り上げられ、人間が開けた大穴のせいで、戦いたくもない人間と戦うはめになった。そして今こうして復活を遂げたという訳だ。人生なにが起こるか分からないものだな」
なんだか色々こちらの良いように話を端折りつつ、そう言葉を並べたオルフィウス王はクックックッと喉を鳴らしている。な、なんだかこっちが悪者みたい……と、苦笑してしまった。
大司教は怯えた顔で後退る。
「そ、そのような戯言を!! 魔王が生きている訳がない!! 封印され、初代聖女と共に葬られたはず!! その魔王がこんなところに……しかも、そんな若い姿でいるはずがない!!」
皆がルギニアスを見た。
「そういやルギニアスって若いよな。何百年も経っているはずなのに、魔石のなかって時間の経過はないのか?」
ディノがこの場の空気を気にしないような、軽い声音で聞いた。そのことに皆がプッと噴き出し、緊迫していた空気が緩む。
「魔石のなかに時間の流れはない。だから年は取らない」
「へぇぇ」
皆がこの場にそぐわない感心の声を上げていることに、思わず笑いそうになってしまった。
「な、なにを……」
「は?」
大司教が声を上げたことに、イラッとしたのかディノが睨んだ。
「なんだ?」
「なぜ貴方たちはそんな男と一緒にいる!?」
『聖女でなければならなかった』
その言葉が私を責めるように聞こえ、身体が強張った。ルギニアスはそれに気付いたのか、握っていた手を離したかと思うと、私の肩を掴み引き寄せた。そしてぎゅっと抱き締めると、はっきりと言葉にした。
「お前が聖女である必要などない。お前はお前だ。魔石精製師だろうが聖女だろうが、そんなものはアシェリアンが勝手に神託を下しているだけだ」
「ルギニアス……」
「そうよ、ルーサは魔石精製師になるべくして生まれたんじゃないかってくらい魔石が好きじゃない! そんなの神託があろうがなかろうが、きっとルーサは魔石精製師として生きているわよ!」
「だな」
ルギニアスの言葉。リラーナの言葉。そしてディノたちも笑ってその言葉を肯定してくれる。それが嬉しくて泣いてしまいそう。
「フッ。確かにそもそも神託が下ったからといって、必ずしもその神託を生かす職に就く訳でもない。神託は己の能力を上手く活用するためのただの指針だ」
オルフィウス王もそう言って笑った。
『能力を活用するための指針』。そんなふうに考えたことはなかった……。そっか、神託は指針。自分が最大限上手く使いこなせる能力を、無駄なく使えるための指針であって、必ずしもその道に進む必要などない。
能力でなくとも、他にも生きていくための術は色々ある。それだけが人生じゃない。そう、メルだって魔石精製師を諦めても、魔導具屋で頑張ると言っていたじゃない。
「私は聖女ではない。でも、私は魔石精製師になったことに後悔はしません。お母様は……お母様はどこにいるんですか!? お母様に、両親に会わせてください!!」
お母様に会いたい、お父様に会いたい。そう訴えた。しかし、大司教は今までの無表情を崩し、睨むようにこちらを見る。その瞳には憎しみなのか、哀しみなのか、複雑な色を含んでいるようだった。
「貴女の母親は歴代聖女のなかで一番力が弱かった。次第に力が失われていく聖女に、今後結界をどうしていけば良いのか、そんな不安を抱える我々の苦労を貴女方はお分かりか!? 結界が弱まり、いつかは再び魔界との大穴が開いてしまうかもしれないという恐れを、我々はずっと抱えて来た!! それなのに!!」
大司教は項垂れ、声が震えている。気付くと、私たちを囲んでいた他の司教たちも苦しそうな顔をしていた。ひとりの司教は大司教に歩み寄り、そっと手を差し伸べ寄り添った。
「それなのに当代の聖女から生まれた子供は聖女ですらなかった……。アシェルーダ王はおそらく貴女を殺せば、次の聖女が生まれてくると思っていたのでしょう……けれど、きっと……もう二度と聖女は生まれない……我々は女神から見放された……」
「…………」
この人はこの人できっとずっと責任を負ってきたんだろう。聖女を見守り、結界を見守り、そうやってこの世界を守っていた……。でも、私が聖女でなかったから……。
「聖女が世襲制ならば、聖女の力が弱まるのは当然だ」
ルギニアスの言葉に皆が振り向く。大司教は怪訝な顔を向けた。
「アリシャはアシェリアンの片割れだった。その力は最強だろう。アリシャが生んだ次の聖女も、アリシャの持つ全ての魔力を使い生み出された。しかし、その後はどうだ。伴侶を得て、普通に子供として生んでいく。聖女の血以外のものが混ざっていく。それが繰り返されるたびに、聖女の血は薄まる。それならば聖女の力が弱まるのは当然だ」
なるほど……、確かに血が薄まっていくと、力も弱まるのかもしれない。そして、最終的に『私』という『聖女』ですらない子供が生まれた……。
「貴方は何者……まるで初代聖女を知っているかのような口ぶり……」
大司教は怯えるような目を向けている。
「貴女方が恐れている魔王だ」
フッ、とオルフィウス王が目を細め告げた。
「は!?」
大司教は驚愕の顔で目を見開き後退る。その姿になにやら満足げなオルフィウス王が一歩前へと進んだ。
「彼は初代聖女と戦った魔王で、そして私の祖先でもある。ハハハ、なかなかに興味深いだろう? 彼は本来ラフィージアの人間だったのに、魔力が強過ぎたため魔物たちから魔王に祭り上げられ、人間が開けた大穴のせいで、戦いたくもない人間と戦うはめになった。そして今こうして復活を遂げたという訳だ。人生なにが起こるか分からないものだな」
なんだか色々こちらの良いように話を端折りつつ、そう言葉を並べたオルフィウス王はクックックッと喉を鳴らしている。な、なんだかこっちが悪者みたい……と、苦笑してしまった。
大司教は怯えた顔で後退る。
「そ、そのような戯言を!! 魔王が生きている訳がない!! 封印され、初代聖女と共に葬られたはず!! その魔王がこんなところに……しかも、そんな若い姿でいるはずがない!!」
皆がルギニアスを見た。
「そういやルギニアスって若いよな。何百年も経っているはずなのに、魔石のなかって時間の経過はないのか?」
ディノがこの場の空気を気にしないような、軽い声音で聞いた。そのことに皆がプッと噴き出し、緊迫していた空気が緩む。
「魔石のなかに時間の流れはない。だから年は取らない」
「へぇぇ」
皆がこの場にそぐわない感心の声を上げていることに、思わず笑いそうになってしまった。
「な、なにを……」
「は?」
大司教が声を上げたことに、イラッとしたのかディノが睨んだ。
「なんだ?」
「なぜ貴方たちはそんな男と一緒にいる!?」
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