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最終章《因果律》編
第228話 ラフィージアの大聖堂
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ラフィージアの大聖堂、それは城と隣接する場所にあった。城と同じく真っ白の壁と屋根で出来た大聖堂は、アシェルーダのものよりも小さくはあったが厳かな雰囲気はそれ以上だった。
「オルフィウス王、お待ちしておりました」
大聖堂のなかには司祭と思わしき人が出迎えてくれていた。恭しく頭を下げた司祭は私たちをなかへと促す。なかには数人の司祭がいたが、王の管轄であるためか、オルフィウス王が勝手知ったるままに歩いて行っても、誰も咎めることなく見守っている。
大聖堂のなかは静まり返り、正面の台座には聖女の像が……ない。アシェルーダの大聖堂にはなかへと入って正面に聖女の像がある。それを信仰の対象として礼拝している。しかし、ここラフィージアの大聖堂にはなにもない。
「あれ、聖女の像がないわね」
リラーナも同様に思ったらしく声を上げた。正面、というか大聖堂のなかはそれほど広くもなく、そしてなにもない。礼拝するための祭壇もなければ、礼拝に来た人々が座るための長椅子などもない。ただ広い空間でしかなかった。
「ここで洗礼式へと向かう陣は開くが、我々は別に聖女を信仰している訳ではないからな」
「え、そうなんですか?」
「ガルヴィオもそうだな。特に聖女の像とかはない」
ヴァドも周りを見回しながらオルフィウス王と同様に言った。
「えっ」
アシェルーダの人間である私たちは全員驚きの顔となった。オキとルギニアスは相変わらず全く表情は変わらないけれど。
「聖女を信仰しているのはアシェルーダくらいではないか? ガルヴィオもそうなのだろうが、そもそも大聖堂とは神殿との繋がりのためだけだ。聖女の力とは無関係な上に、聖女の加護で守られているのも神殿だけだしな」
「そ、そうなんですね……」
「アシェルーダは聖女を輩出する国として、崇め奉りたいのかもしれないが」
オルフィウス王は呆れるように、小さく溜め息を吐く。
まさか、大聖堂が聖女と全く関係がないだなんて。アリシャの像が飾られているから、てっきり聖女信仰が当たり前なのかと思っていた。アシェルーダだけだったなんて……。それだけアシェルーダは聖女に固執しているってこと?
「まあ信仰心を否定するつもりはないがな。しかし、だからこそ、わざわざ他国の大聖堂にまで介入してくる意味が分からん。聖女信仰などしていない、他国の大聖堂にルーサの拘束などを命令出来ると思ったのか」
フン、と小さく鼻を鳴らしたオルフィウス王は相変わらず呆れたような顔。
私たちは顔を見合わせた。今まで信じていたものがなんだか崩れていくような……アシェルーダという国は一体なにがしたいのか……。自国のことなのに、今までなにも知らなかった……。アシェルーダの『聖女』というものに対する固執……『聖女』に縋り過ぎているせいで暴走してしまったのかしら……。
「まあいい。大司教に会えば色々と教えてもらえるんだろう」
そう言うオルフィウス王の顔はニヤリとまた魔王の如く悪そうな顔をしていた……ハハハ……。
アシェルーダの大聖堂では聖女の像があった、最奥の場所にオルフィウス王は立った。そしてこちらを振り向く。
「一箇所に集まれ」
アシェルーダの大聖堂のときのように、床に魔法陣が描かれている訳ではない。なにもない床。そこに集まれと言う。皆、怪訝な顔となりながらも、言われるがままに一箇所に集まる。私とリラーナを護るように男性陣が周りを囲んでくれている。
そこへ六人の司祭たちが私たちを囲んだ。手にはなにやら杖らしきものを持ち、その杖の先端には大きな魔石が付いていた。それを私たちに向けて傾けるように掲げている。
そして、オルフィウス王も私たちの傍へと来たかと思うと、ザリッと床を踏み締めた。
「後は任せる」
「かしこまりました」
いつの間にやら背後にいた側近の人が、恭しく頭を下げていた。
そしてオルフィウス王はなにかを呟いたかと思うと、足元にゆらゆらと風が舞い始め、そしてぼんやりと足元が輝き出す。紫色の魔法陣が現れた。
魔法陣はぼんやりと現れ出したかと思うと、次第にはっきりとした色で輝き出し、大きな円となり風を巻き上げる。激しい風と光が私たちの身体を包み込む。そして、魔法陣の光と共鳴するように、司祭たちの持つ杖の魔石は魔法陣と同じ色を放ち、光線で結ばれていく。六人の持つ魔石からの光線に囲まれ、足元には魔法陣が光り輝き、私たちをまるで閉じ込めるかのように光は広がった。
ルギニアスが私を抱き寄せ、リラーナもイーザンに庇われている。そして、激しく光り輝いたかと思うと、私たちの視界は真っ白となり、眩しさのあまり目を瞑る。
次に目を開けたときには……あのとき……十歳の洗礼式で見た光景……アシェリアンの神殿へと誘われていた。
*********
次回、5月27日更新予定です。
「オルフィウス王、お待ちしておりました」
大聖堂のなかには司祭と思わしき人が出迎えてくれていた。恭しく頭を下げた司祭は私たちをなかへと促す。なかには数人の司祭がいたが、王の管轄であるためか、オルフィウス王が勝手知ったるままに歩いて行っても、誰も咎めることなく見守っている。
大聖堂のなかは静まり返り、正面の台座には聖女の像が……ない。アシェルーダの大聖堂にはなかへと入って正面に聖女の像がある。それを信仰の対象として礼拝している。しかし、ここラフィージアの大聖堂にはなにもない。
「あれ、聖女の像がないわね」
リラーナも同様に思ったらしく声を上げた。正面、というか大聖堂のなかはそれほど広くもなく、そしてなにもない。礼拝するための祭壇もなければ、礼拝に来た人々が座るための長椅子などもない。ただ広い空間でしかなかった。
「ここで洗礼式へと向かう陣は開くが、我々は別に聖女を信仰している訳ではないからな」
「え、そうなんですか?」
「ガルヴィオもそうだな。特に聖女の像とかはない」
ヴァドも周りを見回しながらオルフィウス王と同様に言った。
「えっ」
アシェルーダの人間である私たちは全員驚きの顔となった。オキとルギニアスは相変わらず全く表情は変わらないけれど。
「聖女を信仰しているのはアシェルーダくらいではないか? ガルヴィオもそうなのだろうが、そもそも大聖堂とは神殿との繋がりのためだけだ。聖女の力とは無関係な上に、聖女の加護で守られているのも神殿だけだしな」
「そ、そうなんですね……」
「アシェルーダは聖女を輩出する国として、崇め奉りたいのかもしれないが」
オルフィウス王は呆れるように、小さく溜め息を吐く。
まさか、大聖堂が聖女と全く関係がないだなんて。アリシャの像が飾られているから、てっきり聖女信仰が当たり前なのかと思っていた。アシェルーダだけだったなんて……。それだけアシェルーダは聖女に固執しているってこと?
「まあ信仰心を否定するつもりはないがな。しかし、だからこそ、わざわざ他国の大聖堂にまで介入してくる意味が分からん。聖女信仰などしていない、他国の大聖堂にルーサの拘束などを命令出来ると思ったのか」
フン、と小さく鼻を鳴らしたオルフィウス王は相変わらず呆れたような顔。
私たちは顔を見合わせた。今まで信じていたものがなんだか崩れていくような……アシェルーダという国は一体なにがしたいのか……。自国のことなのに、今までなにも知らなかった……。アシェルーダの『聖女』というものに対する固執……『聖女』に縋り過ぎているせいで暴走してしまったのかしら……。
「まあいい。大司教に会えば色々と教えてもらえるんだろう」
そう言うオルフィウス王の顔はニヤリとまた魔王の如く悪そうな顔をしていた……ハハハ……。
アシェルーダの大聖堂では聖女の像があった、最奥の場所にオルフィウス王は立った。そしてこちらを振り向く。
「一箇所に集まれ」
アシェルーダの大聖堂のときのように、床に魔法陣が描かれている訳ではない。なにもない床。そこに集まれと言う。皆、怪訝な顔となりながらも、言われるがままに一箇所に集まる。私とリラーナを護るように男性陣が周りを囲んでくれている。
そこへ六人の司祭たちが私たちを囲んだ。手にはなにやら杖らしきものを持ち、その杖の先端には大きな魔石が付いていた。それを私たちに向けて傾けるように掲げている。
そして、オルフィウス王も私たちの傍へと来たかと思うと、ザリッと床を踏み締めた。
「後は任せる」
「かしこまりました」
いつの間にやら背後にいた側近の人が、恭しく頭を下げていた。
そしてオルフィウス王はなにかを呟いたかと思うと、足元にゆらゆらと風が舞い始め、そしてぼんやりと足元が輝き出す。紫色の魔法陣が現れた。
魔法陣はぼんやりと現れ出したかと思うと、次第にはっきりとした色で輝き出し、大きな円となり風を巻き上げる。激しい風と光が私たちの身体を包み込む。そして、魔法陣の光と共鳴するように、司祭たちの持つ杖の魔石は魔法陣と同じ色を放ち、光線で結ばれていく。六人の持つ魔石からの光線に囲まれ、足元には魔法陣が光り輝き、私たちをまるで閉じ込めるかのように光は広がった。
ルギニアスが私を抱き寄せ、リラーナもイーザンに庇われている。そして、激しく光り輝いたかと思うと、私たちの視界は真っ白となり、眩しさのあまり目を瞑る。
次に目を開けたときには……あのとき……十歳の洗礼式で見た光景……アシェリアンの神殿へと誘われていた。
*********
次回、5月27日更新予定です。
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