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第5章《旅立ち~天空の国ラフィージア》編
第220話 ルギニアスの居場所
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アリシャはアシェリアンから身体を離した。視線はアシェリアンへと向き、そして眉を下げ微笑んだ。
「私は、彼は魔物と共にいたいのではないかと思う。彼は自分のことを知らない。人間であることを知らない。魔物と共に人生を過ごして来たことは、彼にとってやはり大事なことだと思う」
アリシャははっきりと告げる。そんなアリシャにアシェリアンは怪訝な顔となった。
「魔物たちはあの子を完全には受け入れていないとしても?」
「えぇ。今さら人間たちのところへ戻したとしても、彼にしたら見知らぬ人間ばかり。彼は今、魔物のために戦っているのよ……だから、私は彼にも魔物たちにも戦わずに魔界へ帰ってもらいたい……」
アリシャの意思の強さを感じた。ルギニアスから聞いた話ではずっとアリシャは魔物たちに戦いたくはない、殺したくはない、魔界へ帰って欲しいと訴えていたと聞いた。
ルギニアスのことを知っていたからこそ、アリシャはそう訴えていたのだということが、今分かった。
双子の弟と戦わせたくない、このまま魔物と平和に暮らしてもらいたい、そんなアリシャの強い想い。
ルギニアスに目をやると、アリシャへと向けるその瞳は苦しそうで……しかし、懐かしむようなとても優しい瞳だった……。
もうすでにいないアリシャに嫉妬するのもどうかと思う。それは分かっているのに、どうしても二人の間には私は入ることが出来ないのだと思い知らされるようで辛かった。
私はアリシャにはなれない……でも、私は……。
『ルギニアス』
呟いた声にルギニアスが私に振り向いた。私を見てくれている。今だけは私しかその瞳には映っていない。
『どうした』
ルギニアスは私を真っ直ぐに見詰め聞いた。
『ルギニアスの居場所……それは私の隣だから』
『…………』
『魔界だとか、ラフィージアだとか関係ない……ルギニアスのいるところは私の隣なの。魔王でも双子の兄でもないの。ルギニアスはルギニアス。私の隣がルギニアスの居場所だから。それだけは忘れないで』
前世の記憶で「何者でもない」と言っていたルギニアス。いつもそこにいるようでいないような……ルギニアスは自分の居場所を見失っていたのかもしれない……。そう思うと悲しくなる。アリシャと共に生きたいと思っていたかもしれない。アリサと共に生きたいと思っていたかもしれない。でもそれは叶わなかった。
ルギニアスが私と共に生きることを望んでくれているとは限らない。でも、私はもう二度とルギニアスをひとりぼっちにはしたくない。死んだ人間に敵うはずはない。それは分かっている。ルギニアスにとってアリシャもアリサもきっと特別な存在であることは分かっている。
それでも私はルギニアスの傍にいたいのよ。ルギニアスと共に生きていきたいのよ。ルギニアスの居場所は私でありたいのよ……。
ルギニアスを真っ直ぐに見詰めた。
『ルーサ……』
ルギニアスは泣きそうな顔になり、そんなルギニアスの頬に両手を添えフフッと笑った。ルギニアスは私の両手を掴んだかと思うと、それを自身の頬から離し、そして私の首元へと顔を埋めた。そしてグッと力強く抱き締められる。
『ルーサ……ありがとう』
ルギニアスの呟いた声は直接身体に響くように届き、その声は震えていた。
首元に顔を埋めるルギニアスの背をギュッと抱き締め、ルギニアスの温かい体温、そして匂いに安心する。そのときふとアリシャと目が合った気がした。
そんなはずないことは分かっているが、しかし、アリシャは私と目が合い、そしてほんの少し……気のせいかもしれない……でも、微笑んだ気がした……。
アリシャはアシェリアンの元から旅立ち、そしてアシェルーダへと向かった。私たちはその場から動いているはずはないのに、アリシャを追って場面が変わっていく。
アリシャはアシェルーダの王と面会し、自身が聖女であること、魔物を浄化する力があることを訴えた。そして三国の協力と共に魔軍と対峙したのだった。
アリシャは魔王であるルギニアスと対峙し、そしてひたすら訴えていた。戦いたくはない、殺したくはない、と。ルギニアスは怪訝な顔をしながらも、話を聞こうとしているようだった。しかし、魔物たちがそれに従うはずもなく……結局は抑えきれずに魔物と人間の戦いはひたすら続いた。
そして、結局聖女アリシャの訴えが魔物たちに響くことはなく、ルギニアスがラフィージアの弟王に対峙しそうになったとき、アリシャは魔王であるルギニアスに対し、聖魔法を発動させた……。
聖魔法で覆われたルギニアスは、紫の魔石となって封じられたのだった……。
「私は、彼は魔物と共にいたいのではないかと思う。彼は自分のことを知らない。人間であることを知らない。魔物と共に人生を過ごして来たことは、彼にとってやはり大事なことだと思う」
アリシャははっきりと告げる。そんなアリシャにアシェリアンは怪訝な顔となった。
「魔物たちはあの子を完全には受け入れていないとしても?」
「えぇ。今さら人間たちのところへ戻したとしても、彼にしたら見知らぬ人間ばかり。彼は今、魔物のために戦っているのよ……だから、私は彼にも魔物たちにも戦わずに魔界へ帰ってもらいたい……」
アリシャの意思の強さを感じた。ルギニアスから聞いた話ではずっとアリシャは魔物たちに戦いたくはない、殺したくはない、魔界へ帰って欲しいと訴えていたと聞いた。
ルギニアスのことを知っていたからこそ、アリシャはそう訴えていたのだということが、今分かった。
双子の弟と戦わせたくない、このまま魔物と平和に暮らしてもらいたい、そんなアリシャの強い想い。
ルギニアスに目をやると、アリシャへと向けるその瞳は苦しそうで……しかし、懐かしむようなとても優しい瞳だった……。
もうすでにいないアリシャに嫉妬するのもどうかと思う。それは分かっているのに、どうしても二人の間には私は入ることが出来ないのだと思い知らされるようで辛かった。
私はアリシャにはなれない……でも、私は……。
『ルギニアス』
呟いた声にルギニアスが私に振り向いた。私を見てくれている。今だけは私しかその瞳には映っていない。
『どうした』
ルギニアスは私を真っ直ぐに見詰め聞いた。
『ルギニアスの居場所……それは私の隣だから』
『…………』
『魔界だとか、ラフィージアだとか関係ない……ルギニアスのいるところは私の隣なの。魔王でも双子の兄でもないの。ルギニアスはルギニアス。私の隣がルギニアスの居場所だから。それだけは忘れないで』
前世の記憶で「何者でもない」と言っていたルギニアス。いつもそこにいるようでいないような……ルギニアスは自分の居場所を見失っていたのかもしれない……。そう思うと悲しくなる。アリシャと共に生きたいと思っていたかもしれない。アリサと共に生きたいと思っていたかもしれない。でもそれは叶わなかった。
ルギニアスが私と共に生きることを望んでくれているとは限らない。でも、私はもう二度とルギニアスをひとりぼっちにはしたくない。死んだ人間に敵うはずはない。それは分かっている。ルギニアスにとってアリシャもアリサもきっと特別な存在であることは分かっている。
それでも私はルギニアスの傍にいたいのよ。ルギニアスと共に生きていきたいのよ。ルギニアスの居場所は私でありたいのよ……。
ルギニアスを真っ直ぐに見詰めた。
『ルーサ……』
ルギニアスは泣きそうな顔になり、そんなルギニアスの頬に両手を添えフフッと笑った。ルギニアスは私の両手を掴んだかと思うと、それを自身の頬から離し、そして私の首元へと顔を埋めた。そしてグッと力強く抱き締められる。
『ルーサ……ありがとう』
ルギニアスの呟いた声は直接身体に響くように届き、その声は震えていた。
首元に顔を埋めるルギニアスの背をギュッと抱き締め、ルギニアスの温かい体温、そして匂いに安心する。そのときふとアリシャと目が合った気がした。
そんなはずないことは分かっているが、しかし、アリシャは私と目が合い、そしてほんの少し……気のせいかもしれない……でも、微笑んだ気がした……。
アリシャはアシェリアンの元から旅立ち、そしてアシェルーダへと向かった。私たちはその場から動いているはずはないのに、アリシャを追って場面が変わっていく。
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そして、結局聖女アリシャの訴えが魔物たちに響くことはなく、ルギニアスがラフィージアの弟王に対峙しそうになったとき、アリシャは魔王であるルギニアスに対し、聖魔法を発動させた……。
聖魔法で覆われたルギニアスは、紫の魔石となって封じられたのだった……。
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