【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第5章《旅立ち~天空の国ラフィージア》編

第217話 二代目王と双子の兄

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 ルギニアス以外の全員がオルフィウス王を見た。

「双子の兄……」
「あぁ……その当時、双子は凶兆の証と言われていたそうだ。災いをもたらすとかなんとか……だからその生まれた赤子は双子だとは発表されず、ひとりの王子として発表された」

 ルギニアスがビクッと反応した。しかし顔を上げることはなく、オルフィウス王の言葉が続く。

「片割れの王子はその後どうなったのかは記録がないため分からない。「死んだ」とだけ記録が残っている。しかしそれも王家にだけ伝わる極秘事項だ。まあ私は双子が凶兆などそんな迷信は信じていないからどうでもいいのだが」

 オルフィウス王はルギニアスを見詰める。

「その残った双子の弟は、王となったときに自身に兄がいたことを知ったようだ。父である初代王が亡くなり、自身が王となってから、兄のことを知り調べ出した。しかしあるときを境に調べることをやめた」
「やめた?」

 ヴァドが怪訝な顔のまま聞いた。オルフィウス王はルギニアスに向けていた視線をヴァドに向け頷いた。

「あぁ、やめた理由は分からない。ただ記録に残るその時期にはある人物がその二代目王に面会している」
「ある人物?」
「聖女だ」
「!?」

 全員が驚きの顔となった。私はガバッとルギニアスに振り向いた。ルギニアスは目を見開き茫然としている。そんなルギニアスがなぜだか泣きそうに見えて、私は抱き締める手に力を籠める。

 オルフィウス王は二代目王の肖像画の前に立ち、手を翳した。そして魔力を籠める。

「?」

 全員が「なにをしているんだ?」といった顔。

 オルフィウス王の手には魔力が集まり、肖像画に魔力が籠められる。すると、その肖像画全体に魔力が行き渡ったかと思うと、なにか大きな魔力の動きを感じた。

 二代目王の描かれた中心辺りに魔力が集まったかと思うと、それはこちらに向かい飛び出した。

「!?」

 オルフィウス王はその飛び出した魔力を手のひらで受け止め握る。それはオルフィウス王の送った魔力が戻っただけのようにも見えたが違う……。オルフィウス王の手に戻った魔力は先程の魔力とは全く違うものとなっていた。

 真っ直ぐ肖像画に向かい掲げていた手をグッと握り、そしてその手を自身の手元へ持っていき見詰めたかと思うと、オルフィウス王はこちらに振り向いた。

 そしてルギニアスと私の傍まで近付き、その手を差し出した。

 ルギニアスは目を見開いたまま、怯えるような表情でオルフィウス王を見た。そして差し出された手に視線を落とす。
 私もそれに釣られるようにオルフィウス王の手を見た。

 そこにはオルフィウス王の手に乗る、紫の魔石があった……。

「紫の魔石……」

 しかもこの気配……これは……、

「アリシャ……」

 ルギニアスは怯えるような泣きそうなそんな表情……。

 その魔石は私の持つ紫の魔石と同じ気配を感じた。私の魔石よりも少し大きい紫の魔石。

「これは聖女から与えられたものだと言われている。二代目王が聖女と面会し、この魔石を与えられたらしい。そのあとから二代目王は双子の兄を調べることをやめた」

 全員がルギニアスに視線を送り、聖女の魔石に驚き目を見開く。オルフィウス王はなんとも言えないといった顔で話す。

「何百年も前の話だ。お前たちにはなんの関係もない話かもしれない。しかし私は聞かずにはいられなかった」

 ルギニアスは固まっていた。そんなルギニアスをギュッと抱き締めるが、ルギニアスは悲しそうながらも真っ直ぐその魔石を見詰めている。

 ルギニアス……アリシャ……紫の魔石……そしてラフィージアの王と双子の兄……。

 私はオルフィウス王に顔を向け聞いた。

「その魔石……触ってもいいですか?」

 ルギニアスはビクッとした。オルフィウス王もピクリと反応したが、頷いて見せた。

「ル、ルーサ」

 弱々しい声で私の名を呼んだルギニアスは不安そうな顔。そんな顔をさせたくはない。でもきっとこのまま……ハッキリとしないままだと余計にルギニアスは悩むだけだ。
 この魔石になにがあるのか分からない。でもアリシャの魔石……なにかが分かりそうな予感がした。

 アリシャはルギニアスの過去を知っていると言っていた。双子の弟王が、調べることをやめたのはアリシャと会ってから。ルギニアスと関係があるのかは分からないけれど……この魔石にはきっとなにかある。そう思った。

 私は魔石にそっと手を伸ばした。ルギニアスは不安そうなまま、私を抱き締めるように背に手を回す。
 そんなルギニアスの背に片手を回したまま、私はもう片方の手でその魔石に触れた。

 指先が魔石に触れた瞬間、私の持つ紫の魔石と共鳴するように、ふたつの魔石は眩い光を放った。

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