【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第5章《旅立ち~天空の国ラフィージア》編

第215話 秘密の地下通路

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 オルフィウス王の言葉に全員が怪訝な顔となり、顔を見合わせた。

「それはどういうことですか? なぜルギニアスに?」

 ヴァドが真っ直ぐオルフィウス王を見据え聞いた。ルギニアスはオルフィウス王を睨み、私までもが睨んでしまいそうな勢いでオルフィウス王を見る。お互いの握り合う手に自然と力が入った。

「それは見てもらえれば分かる……他の者たちも一緒に付いてくるといい」

 オルフィウス王のルギニアスを見る表情の意味が分からない。無表情のような、なにか探るような、なんだろう……不安になる……。

 オルフィウス王は王座から立ち上がり、私たちを促した。チラリとこちらに視線を向け、付いて来るように言っているようだ。私たちは顔を見合わせ、戸惑いながらもそれに続いた。ルギニアスは眉間に皺を寄せたままだが、仕方なく同様に続く。繋いでいた手は歩き始めたと同時に離れたが、ルギニアスは私のすぐ横に並んで歩いた。

「ルギニアス、大丈夫?」

 皆が歩く背中を見詰めながら小さく聞いた。

「あぁ」

 ルギニアスは真っ直ぐオルフィウス王の背中を見据えたままだが、私の頭にポンと手を置き、クシャッとひと撫でし、その手を下ろした。その手は温かく少し安心する。

 オルフィウス王は私たちが入って来た扉とは反対方向、王座の後ろへと歩を進める。王座の後ろにはもうひとつの扉があり、その扉の先へと進んだ。
 その扉を通った瞬間、なにやら魔力を感じた。ふらっと立ち眩みのような感覚に襲われ、ほんの少し気持ち悪くなる。何事かと思わず扉に振り向いたが、扉はゆっくりと勝手に閉じてしまった。

 ルギニアスやイーザンも同様になにかを感じたようで怪訝な顔をしていた。

 不思議に思いつつも視線を再び戻すと、眩しい光が差し込み目が眩む。思わず目を瞑り、そしてゆっくりと目を開けると、そこは緑豊かな庭園となっていた。

「綺麗」

 呟いた言葉にリラーナも頷いた。ディノたちも驚き周りをキョロキョロと見回している。

「天空にこんな緑があるとはな」

 ヴァドも驚いた顔をした。ヴァドは私たちよりもラフィージアに詳しそうだったが、ここには来たことがないのか……。王座の後ろからしか入れないということは特別な場所なのかしら。

 見渡した限り、私たちが通って来た扉以外の扉は見当たらない。周りは円形に壁で覆われ、閉ざされた空間……中庭みたいなものかしら。真っ白の石畳で敷き詰められ、細い通路があるのみで、後は多くの花や木々で彩られていた。常に手入れをされているのか、どの花も綺麗に咲き誇り、緑は輝いている。

「ここは私が許可した者しか入ることが出来ない庭だ」

 オルフィウス王がそう言葉にし、庭園中央まで歩いて来ると立ち止まる。それに釣られるように私たちも立ち止まると、オルフィウス王はザリッと足を踏みしめたかと思うと、突然身体全体を魔力が覆い出す。

「!?」

 私とイーザンはそれに反応し身構えた。ルギニアスもそれに気付き私の肩を抱いた。
 オルフィウス王の魔力は大きく身体全体を覆ったかと思うと、風が吹いた訳でもないのに、木々の葉や花が揺らいだ。

 なにが起こっているのかとオルフィウス王を見詰めていると、オルフィウス王の足元の石畳に青白い魔法陣が浮き上がって来た。オルフィウス王の長い髪が揺らいでいる。

「魔法陣!?」

 そしてゴゴゴと重く低い音が響き出す。

「な、なんだ!?」

 ディノたちもそれに身構え警戒する。まるで地響きのような音と共に地面が小刻みに揺れているような気がした。魔法陣は激しく光り、そしてその光と共に現れたのは、地下へと続く階段だった。

 次第に音が止んでいくと同時に魔法陣も消えていく。オルフィウス王の足元には先程までなんの変哲もないただの石畳だったのに、今は地下へと続く入り口がぽっかりと穴を開けていた。真っ暗に見えるその階段は一体どこまで続いているのか、終わりが見えない。

 私たちは茫然とし、オルフィウス王の顔を見た。オルフィウス王はそんな私たちの視線をなにも思っていないかのように、そのまま階段へと足を踏み入れた。

「付いて来い」

 オルフィウス王はゆっくりと階段を降りて行く。私たちは顔を見合わせそれに続く。真っ暗だった地下への階段は、私たちが足を踏み入れた途端、それに反応するように歩く先々でランプが灯っていく。おそらく人の気配を感知して灯るようにしてあるのだろう。魔導ランプの仄かな灯りが足元を照らしていく。

 一体この地下はどういった仕組みになっているのだろう、と不思議になるほど、底が見えない。壁伝いに螺旋状で続く階段は、魔導ランプの灯りが灯っているからこそ、自分たちが歩いて来た場所が分かるが、それすらもしばらくすると消えてしまい、今私たちが一体どれほど下ってきたのかが分からなくなる。

 なにか呪でも掛けられているのか、方向感覚や距離感が掴めなくなる。オキですらももう分からないといった雰囲気だ。

 そんな奇妙な地下をひたすらオルフィウス王に続き歩いていると、ようやく現れたのはひとつの部屋だった。

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