【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第5章《旅立ち~天空の国ラフィージア》編

第208話 魔物の証

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 船長の出航合図と共に、船員が魔石らしきところに手を触れた。操縦桿の横、台座らしきところへ埋め込まれた魔石。あれは私が精製した魔石のようだ。巨大な魔石が埋め込まれている。魔石へ魔力を流した瞬間、飛行船全体に一気に魔力が行き渡るのが分かった。

 操縦室に見える魔石を起点とし、あちこちに魔石の気配を感じる。魔石から魔石へと魔力が流れて行き、飛行船全体へと魔力が行き渡っていくのだ。それらは網目のように広がり、飛行船全体を包み込んでいく。

 全ての魔石に魔力が行き渡ったと思われたと同時に、飛行船がぐらりと揺れる。そしてゴゴゴッという音と共に、飛行船が浮かび上がった。

「浮いたわ!!」

 リラーナが興奮気味に叫ぶ。窓からは国王とラオセンさんが飛行船を見上げているのが見える。国王は笑顔で手を振ってくれていた。

 ガルヴィオ城内にある広場から飛び立った飛行船は、徐々に高度を上げていくと、あっという間に遥か上空まで昇り、城も王都も小さくなった。ある程度まで昇り切ると、飛行船は前進し出した。

「ラフィージアの場所は分かっているの?」

 以前ダラスさんに聞いたときには、ラフィージアは天空に浮かんでいる国だから、はっきりとした場所は知られていない、と聞いた。おそらくこの辺りだろう、という場所だけだ。その後もラフィージアに関する書物などは、少しくらいは見たことがあったが、どれにも場所がはっきりと記されているものはなかった。

 そもそもラフィージアの情報自体があまりに少ない。天空に浮かぶ国だ、ということ以外は憶測で語られていることも多く、ほとんど知られていない。

 ヴァドから聞いた話では、ラフィージアは城と王都しかないらしいということ。大聖堂などの施設のほとんどは王が管轄している、ということくらいかしら。それでも私たちよりは明らかにラフィージアに詳しそうだった。

「あぁ、大まかな場所ってだけだがな。ラフィージア自体が他国の人間を受け入れていないから、下手に近付くと攻撃される恐れもある」
「攻撃!?」

 全員が驚いた顔となる。ルギニアスも鞄のなかからひょっこり顔を出し、私の肩に乗った。国王に姿を見せないようにずっと鞄のなかだったのよね。ルギニアスもヴァドの言葉に眉間に皺を寄せている。

「まあ、今回は父上……ガルヴィオ国王からの書状を出しているからな。飛行船がガルヴィオのものだということも分かっているだろうし、さすがに攻撃はしてこないと思うんだが……」

 皆が息を飲む。まさかラフィージアから攻撃されるかもしれないなんて。

「ま、油断しないに越したことはない。一応皆も警戒はしておいてくれ」

 ヴァドの言葉に皆が頷く。


 そして飛行船はゆっくりと進んで行き、その間、何人かの船員が魔力を送るために交代をしていた。次第に飛行船は海の上を飛び始める。海へと出たときにはすっかりと辺りは暗くなっていた。

 各々保存食で夕食を済ませ、周囲に警戒しながらも交代で休んで行く。周囲に灯りもなく、飛行船から漏れ出る灯りだけが夜空に浮かんでいる。

 そんなとき、私とリラーナが部屋で休んでいると、ガタッと飛行船が大きく揺れた。

「な、なに!?」

 飛び起き、リラーナと顔を見合わせる。そして慌てて階段を駆け上り、皆の姿を探す。夜はすでに明け始め、船内は明るい。ディノにイーザン、ヴァドにオキ、それに船員たちも皆が窓に貼り付くように覗き込んでいる。

「どうしたの!?」

 急いで駆け寄ると、ヴァドがチッと舌打ちしながら低い声で言った。

「魔物だ」
「魔物!?」

 隣の窓からヴァドの視線の先を追う。そこにはドラゴンのような見た目だが、以前見掛けたドラゴンよりも遥かに大きい上に、なにか違う。
 黒々とした身体は歪な鱗が並び、鋭い牙、鋭い爪、深紅の眼はギョロギョロと激しく動き、そしてなによりも違ったのは……頭部が三つ並んでいるのだ。

「ル、ルギニアス……あ、あれって魔物なの?」

 肩に乗るルギニアスに小さく聞いた。ルギニアスは食い入るようにその魔物らしきものを見詰めている。そして眉間に皺を寄せ、絞り出すように言った。

「あぁ、赤い眼は魔物の証だ……」

 そう呟くルギニアスの瞳……綺麗な真紅の瞳……魔物の証……。ルギニアスの言葉になぜだか酷く哀しくなった……。

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