【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
200 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第197話 魔魚の湖

しおりを挟む
 ルギニアスは全員部屋から出て行ったことを確認すると、風を巻き上げ大きくなる。そして真面目な顔のまま聞いた。

「大丈夫か?」
「え?」

 ベッドで寝る準備をしていた私はルギニアスに振り向いた。

「聖女が世襲制だという話……」
「あぁ……」

 先程国王から聞いた話を言っているのね。ルギニアスはずっと心配してくれていたのか。そのことに嬉しい気持ちが湧き上がる。

「フフ、大丈夫、国王陛下に話した言葉は本心だよ。私は両親のことではもう泣かないし、自分の人生も諦めないから」
「そうか……」

 立ち尽くすルギニアスの傍に寄り、正面からぎゅうっと抱き締めた。

「お、おい」

 背の高いルギニアスに抱き付くと、私の顔はルギニアスの胸元にしか届かない。広い背中に腕を回しても、力一杯抱き締めても、私の腕は頼りない。そんなことは分かっている。私は一人でなんて生きられない。皆に支えてもらっているからこそ、こうして今一人で立っていられるのだ。

 それが嬉しくもあり、支えてもらえる自分が誇らしい。そんな自分の人生を諦めるつもりなんてこれっぽちもない。

「私はひとりじゃない。皆が私を生かそうとしてくれている。ルギニアスもそうでしょ?」

 ぐりぐりと顔をルギニアスの胸元に擦り付け、そして、見上げた。ルギニアスは見上げる私の目を真っ直ぐに見詰め、そして私の後頭部と背中に手を添えた。ぐっと力強く抱き締め返してくれたルギニアスの胸からは、ドクンドクンと心臓の音が聞こえる。その音に、抱き締められる温かさに安心する。

 ルギニアスはなにも言わなかったが、その抱き締める力強さが全てを物語っている気がして、私はそれ以上なにも聞かなかった。

 ルギニアスは私が生きることを望んでくれていると思うから……。



 翌朝、私たちはヴァドに連れられ潜水艇があるという部屋まで移動した。大きな倉庫のような広い部屋。そこには巨大な球体があった。

「こ、これが潜水艇?」
「あぁ」

 ヴァドが自信満々な表情で腰に手を当て胸を張った。

 その球体に近付くとより大きさがよく分かる。飛行艇よりは小さいのかもしれないが、なんせ丸いから太って見えるというかなんというか、やはり大きいわね。
 ヴァドの身長と同じくらいの高さに横幅、つるんとした綺麗な球体かと思えば、よく見るとあちこちに丸い切れ目がある。
 一周回って見てみると、入り口なのだろうか、丸い切れ目と同じように四角い切れ目もある。

 リラーナがぐるりと一周回りながらさわさわと触って素材を確かめている。

「これってなんの素材なんだろ。固いけど柔らかい? なんか不思議な感じね」

 同じように触ってみると、確かになんだか弾力のあるような不思議な手触り。

「まあそれは機密事項ってことで」
「くっ、分かってはいたけど、教えてもらえないのがモヤモヤするー!」
「アハハ」

 リラーナの悔しがる姿に皆が笑う。ある程度潜水艇の説明をしてもらい、今日は移動だけで終わるだろう、ということだった。湖が海の近くのため、王城からは少し距離があるのだ。
 潜水艇は専用の荷台に乗せ、魔導車で引っ張って行くらしいので移動に時間がかかるらしい。

 ヴァドは潜水艇の移動手配をし、そして私たちは先に飛行艇で移動し、湖の調査をしよう、ということになった。

 何日かかるか分からない、ということで、旅支度もそのままに飛行艇で移動する。ザビーグのような港町がある訳でもない海。森が広がり、その森のなかに現れる湖。

 王城専用の飛行艇で近くの平原に下ろしてもらい、そこから歩いて森を進む。しばらくすると巨大な湖が現れる。海の姿も音もなにもないのに、本当に海と繋がっているのかと不思議になる。

「広いわねー!」
「それになんだか気持ちいい」

 高い崖のすぐそばにある湖は、その崖から落ちる滝が湖の水を波打たせている。その滝からの水飛沫か、なんだかひんやりと冷たい風が頬を撫でる。

 湖を覗き込むと、波打っているからか、それとも海からの波なのか、なにやら複雑そうなうねりが見えた。水も澄んではいるが、なにやら深いところには違う水が渦巻いているのか、というような色が違って見えた。

「なんだか不思議な湖ね。確かにこの湖の魔魚を魔石にするのは大変そう……」

 ルギニアスが大きくなり、ふわりと私の横に立った。

「落ちるなよ」

 腕を掴まれ、引き戻される。

「お、落ちないわよ」

 子供じゃあるまいし、と拗ねると、フッとルギニアスが笑った。

 あ、笑った。優しい顔。穏やかな顔。そんな顔は初めて見るかもしれない。

 なんだかそれが嬉しくなり、ふわふわとした気分になった。


「とりあえずだな、今いる湖がここ。そこから滝は山の上に続いていて、滝壺の辺りの湖底に海へと繋がる横穴があるんだ。で、海はこっち」

 ヴァドがこの湖周辺が描かれた地図を指差しながら教えてくれる。

「横穴が真っ直ぐ繋がっているのか曲がっているのかは分からんが、おそらくこの辺りの海に繋がっているんだろう、という横穴は海側にも見付けているんだ。それがこの辺りだ」

 ディノとイーザンは「ふむ」と頷きながら、考えを巡らせている。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...