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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第194話 生きる
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「驚かないのだな」
国王はフッと少し笑いながら言った。
「そうですね、まあ驚きはしたのですが、今までのことが腑に落ちたというか……」
ダラスさんから聞いたお父様とお母様の言葉。『このまま両親と共にいると、私は自分の望む人生が歩めなくなる』という言葉。
それは私がそのまま両親といた場合、次の聖女を求めるために殺される可能性があったということだ。
だから、お父様とお母様は私を生かすために、逃がした。
しかし、アシェルーダの国王は聖女が生まれないと困る。だから、『サラルーサ・ローグ』と思われる魔石精製師の女の子を見張っていた。さらにはあわよくば殺せないかと機会を伺っていたのかもしれない。
「おそらく君の両親……聖女は君を生かすために、自分から結界をなんとかしようとしたんだろう。君を逃がすために犠牲になった訳だ」
「父上!! そんな言い方!!」
国王の言葉にヴァドが怒ってくれた。
「フフ、ありがとう、ヴァド。私は大丈夫」
にこりと笑って見せると、ヴァドは心配そうに私を見た。皆も同じように視線を向ける。国王はそんな私にフッと笑った。
「落ち着いているんだね」
「陛下のお言葉は事実でしょうから」
「事実だろうが、他人にこんなことを言われて、さらには辛い事実を知って、泣かないのかい? 泣き喚いてもおかしくないような大きな事実だと思うけど」
そう言いながら国王は苦笑した。
確かに辛い。私を逃がすためにお父様とお母様が犠牲になっている。そのことはやはりショックではある。しかし、もう私は……
「今まで散々泣きましたから」
フフッと笑って見せた。
「苦しくて辛くて、たくさん泣きました……でも、少しずつ事実を知っていくたびに、私は……絶対お父様とお母様を見付ける、と決意しましたから。もうどんな事実が出てこようが、両親を見付ける。その考えは変わらない。一体なにがあったのか、私が両親と一緒に平和に暮らすにはどうしたら良いのか、必ず彼らを見付けて話を聞くんだ、と心に決めましたから。悲観してもなにも生まれない」
そう、私は今までたくさん泣いて来た。でも、もうなにも分からず泣き喚くほど子供でもない。両親は自分たちを犠牲にしてまで私を生かそうとしてくれた。それならば生きる以外の選択肢などない。私が生きているせいで聖女が生まれない、と言われても、だからと言って、はい、そうですか、と死ぬつもりもない。今はどうしたらいいかは分からないけれど、きっとなにか上手くいく方法を見付けられると信じたい。
私が生きることを望んでくれている人はたくさんいる。両親だけでない、今ここにいる仲間もきっとそう思ってくれているはず。そして……ルギニアスも……そうよ……私は、ひとりじゃない。
「私は……だからもう、両親のことでは泣きません。逃がしてくれた両親のためにも生きます」
真っ直ぐに国王を見詰める。それは私の決意でもあった。もう両親のことで泣いたりしない。それよりもこうやって皆が協力してくれていることに報いるためにも、絶対両親を見付け、そして、私が生きていける方法を必ず見付ける。
ルギニアスのいる辺りにグッと力を込めるように、鞄の上から撫でた。そのときルギニアスの魔力なのか、なんだか温かさを感じ安心感を覚えた。
「フッ、その考え方は気に入った」
国王は私を真っ直ぐ見据えたかと思うと、フッと表情を緩めた。
「協力しよう。私たちにも聖女のことは無関係ではないしな」
バッと全員が顔を見合わせ笑顔になった。そして改めて国王を見る。
「まあ、私たちがルーサ嬢に協力することが良いことなのか、それともこの世界を破滅に導いてしまうのか……それは賭けではあるがな」
そう言いながら苦笑する。しかし、なにやら愉快そうな国王。
「ルーサ嬢が聖女ではなかった、ということは、もしかしたらなにか理由があるのかもしれない。それを見届けるためにも、我々はルーサ嬢が聖女に会えるよう手助けをしよう」
「ありがとう、父上!」
国王はラオセンさんをチラリと見たかと思うと、ラオセンは頷き部屋を出て行った。そして国王自身も立ち上がり、机に向かい引き出しから上等そうな紙を取り出したかと思うと、そこにペンを走らせる。さらさらとペンを走らせ、そして書き終えると封筒に入れ封蝋を押した。
国王はその封筒を机の端に置いてあった台座のようなところへ置く。真っ黒で四角い板のような台座。その中心に封筒は置かれ、そして、国王は掌を封筒の上から押し付け、目を瞑った。
魔力を送っている? 攻撃魔法ほどではないが、かなりの魔力が動いている。魔力はその台座に魔法陣を浮かび上がらせた。黄緑色の光を放ち、魔法陣が現れたかと思うと、その光は封筒と共にスッと消えた。
「き、消えた……」
皆が茫然としていると、ヴァドが笑いながら言う。
「転移魔法と同じだ。人間を送るのには高度な魔法になるが、書簡などの小さなものなら簡単に送ることが出来る。一般的な魔法ではないから、あまり平民の間では広まってはいないが、各国の王はこの転移魔法で書簡などのやり取りをしている。まあ滅多に使う機会もないようだが」
苦笑しながらヴァドが言った。国同士の関わりはそれほど多くもないため、このようなやり取りはほとんどないらしく、「だから返事は期待するな」と釘を刺された。
「ラフィージアの王に送っておいたよ。うちから何人かそちらに行きたい、とな。ついでにアシェルーダにも送ってやろうか?」
そう言いながらニヤッと笑う国王の顔が……ちょっと怖い……ハハ……。
国王はフッと少し笑いながら言った。
「そうですね、まあ驚きはしたのですが、今までのことが腑に落ちたというか……」
ダラスさんから聞いたお父様とお母様の言葉。『このまま両親と共にいると、私は自分の望む人生が歩めなくなる』という言葉。
それは私がそのまま両親といた場合、次の聖女を求めるために殺される可能性があったということだ。
だから、お父様とお母様は私を生かすために、逃がした。
しかし、アシェルーダの国王は聖女が生まれないと困る。だから、『サラルーサ・ローグ』と思われる魔石精製師の女の子を見張っていた。さらにはあわよくば殺せないかと機会を伺っていたのかもしれない。
「おそらく君の両親……聖女は君を生かすために、自分から結界をなんとかしようとしたんだろう。君を逃がすために犠牲になった訳だ」
「父上!! そんな言い方!!」
国王の言葉にヴァドが怒ってくれた。
「フフ、ありがとう、ヴァド。私は大丈夫」
にこりと笑って見せると、ヴァドは心配そうに私を見た。皆も同じように視線を向ける。国王はそんな私にフッと笑った。
「落ち着いているんだね」
「陛下のお言葉は事実でしょうから」
「事実だろうが、他人にこんなことを言われて、さらには辛い事実を知って、泣かないのかい? 泣き喚いてもおかしくないような大きな事実だと思うけど」
そう言いながら国王は苦笑した。
確かに辛い。私を逃がすためにお父様とお母様が犠牲になっている。そのことはやはりショックではある。しかし、もう私は……
「今まで散々泣きましたから」
フフッと笑って見せた。
「苦しくて辛くて、たくさん泣きました……でも、少しずつ事実を知っていくたびに、私は……絶対お父様とお母様を見付ける、と決意しましたから。もうどんな事実が出てこようが、両親を見付ける。その考えは変わらない。一体なにがあったのか、私が両親と一緒に平和に暮らすにはどうしたら良いのか、必ず彼らを見付けて話を聞くんだ、と心に決めましたから。悲観してもなにも生まれない」
そう、私は今までたくさん泣いて来た。でも、もうなにも分からず泣き喚くほど子供でもない。両親は自分たちを犠牲にしてまで私を生かそうとしてくれた。それならば生きる以外の選択肢などない。私が生きているせいで聖女が生まれない、と言われても、だからと言って、はい、そうですか、と死ぬつもりもない。今はどうしたらいいかは分からないけれど、きっとなにか上手くいく方法を見付けられると信じたい。
私が生きることを望んでくれている人はたくさんいる。両親だけでない、今ここにいる仲間もきっとそう思ってくれているはず。そして……ルギニアスも……そうよ……私は、ひとりじゃない。
「私は……だからもう、両親のことでは泣きません。逃がしてくれた両親のためにも生きます」
真っ直ぐに国王を見詰める。それは私の決意でもあった。もう両親のことで泣いたりしない。それよりもこうやって皆が協力してくれていることに報いるためにも、絶対両親を見付け、そして、私が生きていける方法を必ず見付ける。
ルギニアスのいる辺りにグッと力を込めるように、鞄の上から撫でた。そのときルギニアスの魔力なのか、なんだか温かさを感じ安心感を覚えた。
「フッ、その考え方は気に入った」
国王は私を真っ直ぐ見据えたかと思うと、フッと表情を緩めた。
「協力しよう。私たちにも聖女のことは無関係ではないしな」
バッと全員が顔を見合わせ笑顔になった。そして改めて国王を見る。
「まあ、私たちがルーサ嬢に協力することが良いことなのか、それともこの世界を破滅に導いてしまうのか……それは賭けではあるがな」
そう言いながら苦笑する。しかし、なにやら愉快そうな国王。
「ルーサ嬢が聖女ではなかった、ということは、もしかしたらなにか理由があるのかもしれない。それを見届けるためにも、我々はルーサ嬢が聖女に会えるよう手助けをしよう」
「ありがとう、父上!」
国王はラオセンさんをチラリと見たかと思うと、ラオセンは頷き部屋を出て行った。そして国王自身も立ち上がり、机に向かい引き出しから上等そうな紙を取り出したかと思うと、そこにペンを走らせる。さらさらとペンを走らせ、そして書き終えると封筒に入れ封蝋を押した。
国王はその封筒を机の端に置いてあった台座のようなところへ置く。真っ黒で四角い板のような台座。その中心に封筒は置かれ、そして、国王は掌を封筒の上から押し付け、目を瞑った。
魔力を送っている? 攻撃魔法ほどではないが、かなりの魔力が動いている。魔力はその台座に魔法陣を浮かび上がらせた。黄緑色の光を放ち、魔法陣が現れたかと思うと、その光は封筒と共にスッと消えた。
「き、消えた……」
皆が茫然としていると、ヴァドが笑いながら言う。
「転移魔法と同じだ。人間を送るのには高度な魔法になるが、書簡などの小さなものなら簡単に送ることが出来る。一般的な魔法ではないから、あまり平民の間では広まってはいないが、各国の王はこの転移魔法で書簡などのやり取りをしている。まあ滅多に使う機会もないようだが」
苦笑しながらヴァドが言った。国同士の関わりはそれほど多くもないため、このようなやり取りはほとんどないらしく、「だから返事は期待するな」と釘を刺された。
「ラフィージアの王に送っておいたよ。うちから何人かそちらに行きたい、とな。ついでにアシェルーダにも送ってやろうか?」
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