193 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第190話 ルギニアスの決意
しおりを挟む
ルギニアスはむくりと起き上がり、座り込むと眠るルーサの顔を見詰めた。
「アリシャ……」
ルギニアスはルーサの頬に手を伸ばし触れる。温かい頬に安心する。生きていることに安心する。
いつも目の前でこの手から零れ落ちる命。いつもどうすることも出来なかった。
魔物たちのこともそうだった。王として乞われ戦ったが、死んでいく仲間を見ると、王として軍を率いたことが正解だったのかが分からなくなった。
殺したくはない、というあいつの言葉を聞きながら、どうすることも出来なかった自分にも苛立った。
「今度こそ……俺は守れるのか?」
泣きながら封印したあいつはあのときなにを思っていたんだろうか。なぜ謝ったのだろうか。アリサにそれを聞いたことはなかった。いや、一度だけ聞いたことがあったか……。
『んー? なんでだろうね。忘れちゃった』
そう言って笑って誤魔化された。おそらく忘れている訳ではないと分かった。しかし、あいつは微笑むだけで、なにも言わなかった。
そして自分のことよりもいつも「あの子のことをお願いね」と、そう言っていた。まるでこのあとに起こることを知っていたかのように……。あれは「サクラを守れ」という意味ではなかったんだろうか。
サクラがルーサとして生まれ変わることを分かっていたのではないかとすら思ってしまう。
サクラの転生に巻き込まれ、こちらの世界に戻って来たことにもなにか意味があるのだろうか。アシェリアンは一体なにがしたい。
「もうお前が死ぬところなんて見たくないんだよ……」
ルギニアスはルーサの頬に再び触れる。小さい身体のままだと、頬に触れる手は小さい。しかし、それでもしっかりと温かさは感じられる。
今まで魔石のなかで歯痒い思いをしてきたが、今はもう自由だ。アシェリアンがなにを考えているのかは分からないが、もう二度と失うつもりはない。
ルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。ギシッとベッドが軋み、片手を付き、ルーサの顔を覗き込むように覆い被さると、長い髪がはらりと肩から滑り落ち、ルーサの髪と重なる。
手を伸ばし、撫でるように前髪を掻き分け、そしてルーサの額に顔を近付けたかと思うと、なにかを呟き、そっと口付けた。唇が触れたその額にはポウッと赤く小さな光。淡く光ったそれはすぐさま消え、跡形もなくなった。
「今度こそ守る……」
囁くように言ったルギニアスは身体を起こし、ルーサの頭を大きな手でふわりと撫でた。
そして再び小さくなるとルーサの傍で眠ったのだった。
翌朝、部屋で朝食を摂り、ヴァドと共に王城へと向かった。
「すぐに面会出来るかは分からないから、その場合は城のなかに滞在許可をもらうよ」
「え、城に!?」
皆が驚いた顔をする。宿はすでに引き払い荷物を全て持って出て来てはいたが、まさか城に泊まることになろうとは!
「まあどちらにしろ……色々時間がかかりそうだからな」
「?」
ヴァドはそう言いながらもスタスタと歩いて行ってしまうため、どういう意味なのかを聞く暇がなかった。
城へは少し距離があるらしく、魔導車に乗っての移動となった。流しで走っている魔導車を捕まえ、ヴァドが城まで乗せてくれ、と頼んでいた。案の定、運転手はヴァドのことが分かったらしく、にこやかに了承していた。
魔導列車に乗ったときの方角とは違う方向へと走って行く魔導車。街の奥へと進み、様々な店を眺めつつ、次第に店が減って来たかと思うと、大きく開けた場所に出た。魔導列車の駅があったところよりもさらに開けている。
というか、駅があった場所は周りには建物が多く連なっていたため、その場所自体は開けていたが、周りを見回すと色々なものが目に入り、開けている場所という認識はあまりなかった。
しかし、今見えるこの場所は本当になにもないのだ。急に街並みが途切れたかと思うと、切り取られたかのように広い空間が現れ、石畳が広がるだけだった。
そして、その広々とした石畳の広場の先には高い塀が現れ、その塀の上に見えるそれは……
「す、すごっ」
「おぉ、でっかいなぁ」
圧倒的に大きいガルヴィオの王城が現れた。いくつもの棟が連なり、広大な敷地。さらには何階建てなんだろうか、高さもアシェルーダの城よりも高そうだ。そして……
「黒いわね……」
大きさもさることながら城の建物全てが真っ黒。そのことに皆衝撃を受け茫然。リラーナが呟いた言葉に頷く。
「黒いね……」
「黒いな……」
「ブッ、それしか感想ないのかよ」
ヴァドが噴き出し、ハハハッ、と声を上げて笑った。
「いやぁ、城と言えば白いイメージしかなかったから、かなり意外で驚いた」
「あぁ、アシェルーダの城は白いもんな」
「ヴァドってアシェルーダのお城に行ったことあるの?」
疑問に思ったが、そういえばヴァドは王子だった。ということは城に行ったことがあってもおかしくはないか。
「外交関係で行くことがあるからな。俺も遊んでばっかりじゃないんだよ。ハハ」
そう言いながら笑った。別に遊んでばっかりとは……思ってたかも……。
「アリシャ……」
ルギニアスはルーサの頬に手を伸ばし触れる。温かい頬に安心する。生きていることに安心する。
いつも目の前でこの手から零れ落ちる命。いつもどうすることも出来なかった。
魔物たちのこともそうだった。王として乞われ戦ったが、死んでいく仲間を見ると、王として軍を率いたことが正解だったのかが分からなくなった。
殺したくはない、というあいつの言葉を聞きながら、どうすることも出来なかった自分にも苛立った。
「今度こそ……俺は守れるのか?」
泣きながら封印したあいつはあのときなにを思っていたんだろうか。なぜ謝ったのだろうか。アリサにそれを聞いたことはなかった。いや、一度だけ聞いたことがあったか……。
『んー? なんでだろうね。忘れちゃった』
そう言って笑って誤魔化された。おそらく忘れている訳ではないと分かった。しかし、あいつは微笑むだけで、なにも言わなかった。
そして自分のことよりもいつも「あの子のことをお願いね」と、そう言っていた。まるでこのあとに起こることを知っていたかのように……。あれは「サクラを守れ」という意味ではなかったんだろうか。
サクラがルーサとして生まれ変わることを分かっていたのではないかとすら思ってしまう。
サクラの転生に巻き込まれ、こちらの世界に戻って来たことにもなにか意味があるのだろうか。アシェリアンは一体なにがしたい。
「もうお前が死ぬところなんて見たくないんだよ……」
ルギニアスはルーサの頬に再び触れる。小さい身体のままだと、頬に触れる手は小さい。しかし、それでもしっかりと温かさは感じられる。
今まで魔石のなかで歯痒い思いをしてきたが、今はもう自由だ。アシェリアンがなにを考えているのかは分からないが、もう二度と失うつもりはない。
ルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。ギシッとベッドが軋み、片手を付き、ルーサの顔を覗き込むように覆い被さると、長い髪がはらりと肩から滑り落ち、ルーサの髪と重なる。
手を伸ばし、撫でるように前髪を掻き分け、そしてルーサの額に顔を近付けたかと思うと、なにかを呟き、そっと口付けた。唇が触れたその額にはポウッと赤く小さな光。淡く光ったそれはすぐさま消え、跡形もなくなった。
「今度こそ守る……」
囁くように言ったルギニアスは身体を起こし、ルーサの頭を大きな手でふわりと撫でた。
そして再び小さくなるとルーサの傍で眠ったのだった。
翌朝、部屋で朝食を摂り、ヴァドと共に王城へと向かった。
「すぐに面会出来るかは分からないから、その場合は城のなかに滞在許可をもらうよ」
「え、城に!?」
皆が驚いた顔をする。宿はすでに引き払い荷物を全て持って出て来てはいたが、まさか城に泊まることになろうとは!
「まあどちらにしろ……色々時間がかかりそうだからな」
「?」
ヴァドはそう言いながらもスタスタと歩いて行ってしまうため、どういう意味なのかを聞く暇がなかった。
城へは少し距離があるらしく、魔導車に乗っての移動となった。流しで走っている魔導車を捕まえ、ヴァドが城まで乗せてくれ、と頼んでいた。案の定、運転手はヴァドのことが分かったらしく、にこやかに了承していた。
魔導列車に乗ったときの方角とは違う方向へと走って行く魔導車。街の奥へと進み、様々な店を眺めつつ、次第に店が減って来たかと思うと、大きく開けた場所に出た。魔導列車の駅があったところよりもさらに開けている。
というか、駅があった場所は周りには建物が多く連なっていたため、その場所自体は開けていたが、周りを見回すと色々なものが目に入り、開けている場所という認識はあまりなかった。
しかし、今見えるこの場所は本当になにもないのだ。急に街並みが途切れたかと思うと、切り取られたかのように広い空間が現れ、石畳が広がるだけだった。
そして、その広々とした石畳の広場の先には高い塀が現れ、その塀の上に見えるそれは……
「す、すごっ」
「おぉ、でっかいなぁ」
圧倒的に大きいガルヴィオの王城が現れた。いくつもの棟が連なり、広大な敷地。さらには何階建てなんだろうか、高さもアシェルーダの城よりも高そうだ。そして……
「黒いわね……」
大きさもさることながら城の建物全てが真っ黒。そのことに皆衝撃を受け茫然。リラーナが呟いた言葉に頷く。
「黒いね……」
「黒いな……」
「ブッ、それしか感想ないのかよ」
ヴァドが噴き出し、ハハハッ、と声を上げて笑った。
「いやぁ、城と言えば白いイメージしかなかったから、かなり意外で驚いた」
「あぁ、アシェルーダの城は白いもんな」
「ヴァドってアシェルーダのお城に行ったことあるの?」
疑問に思ったが、そういえばヴァドは王子だった。ということは城に行ったことがあってもおかしくはないか。
「外交関係で行くことがあるからな。俺も遊んでばっかりじゃないんだよ。ハハ」
そう言いながら笑った。別に遊んでばっかりとは……思ってたかも……。
2
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる