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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第189話 ラフィージアには一体何が…
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「ラフィージア、これがよく分からないの……ルギニアスにも分からないみたいで……」
チラリとルギニアスを見る。
「あの魔傀儡から聞こえた声は初代聖女アリシャの声だった。俺の名はともかく、ラフィージアについてなにかを言っていた記憶はない。まあ、そもそも、俺たちはそんな他愛もない話をするような関係でもなかったしな……生まれ変わったアリサからもラフィージアについては聞いたことがない」
そう言いながらルギニアスは苦笑する。前世のお母さんとは他愛のない話を繰り返していたとは聞いた。しかし、アリシャとは……お互い戦っていたのだ。そんな他愛もない話をするような仲なはずがないか……。
「ねえ、とりあえずあの鳥の魔傀儡の声をもう一度聞いてみない? もしかしたらもう少しなにかが聞けるかもしれないし」
リラーナがそう声を掛けながら、自身の鞄から魔傀儡の入った箱を取り出す。
「そう、だね……なにか他にも言葉が残っているかも」
皆が頷いた。ルギニアスは少し複雑そうではあったが。そんなルギニアスがまたアリシャの声に意識を引っ張られることが怖かった私は、ルギニアスの手を取りぎゅっと握った。
ルギニアスは目を見開き、私を見たが、私はそんな視線を気にすることなくリラーナの持つ魔傀儡に目をやる。手はしっかりとルギニアスの手を握り締めたまま……。
リラーナは鳥の魔傀儡を両手で包み込み、魔力を送る。そしてそっと手を開くと、先程見たときと同様に、ぎこちないながらも鳥は動き出し起き上がる。
リラーナの掌に乗る鳥の魔傀儡を皆がじっと見詰め、鳥は『ピチチッ』と喉を鳴らした。そしてキョロキョロッと首を動かしながらアリシャの声を響かせていく。
『キュルッ……ピチッ、ピュイ……ガガッ……ルギ、ニアス……ラフィー、ジア……ガガッ……こ……られた……キュルル……たい……ルギ……ス……あな、た……たい……ガガッ……ガガッ……ガガガッ、ガガッ……』
「これ以上は無理ね、壊れちゃう」
そう言ってリラーナは魔傀儡を箱へと戻した。
私はぎゅうっとルギニアスの手を握り締めたままだ。ルギニアスの顔を見るのが怖かった。また泣きそうな顔になっているんだろうか。切なそうな顔をしているんだろうか。今、ルギニアスの頭のなかにはアリシャのことしかないのだろうか。そう思うと、ルギニアスの顔を見ることが出来なかった。
しかし、ルギニアスは私の手をグッと力強く握り返した。それは先程とは全く違う力強さ。ガバッとルギニアスの顔を見上げると、そこには泣きそうな顔など全くなかった。
真っ直ぐ睨むような視線のままのルギニアス。一度目にアリシャの声を聴いたときのような、消えてしまいそうな、辛そうな姿はどこにもなかった。
そのことにホッとし、嬉しくなり、繋いだ手からルギニアスの手の温かさを感じ、生きていることを実感する。
「うーん、いまいちよく分からんな。ルギニアスはなにか分かったか?」
ヴァドがルギニアスを見て聞いた。
「いや……」
「だよなぁ……あれじゃあ無理だな……うーん、なんかよく分からんが、とりあえずラフィージアに行けば、なにか分かる……のか?」
自分で言っておいて疑問符だらけなことに、ヴァドは苦笑した。
「まあ、図らずも大聖堂以外にも目的が出来た感じか?」
ディノも苦笑しながら言った。その言葉に全員が頷く。
「じゃあ、やっぱりまずはうちの国王に会いに行くか!」
「うちの国王って」
ヴァドのあまりに気さくな言い方に、まるでその辺のおじさんにでも会いに行くようだ、と笑った。
「そんじゃ、まあ、明日城に向かうとして……ルーサとルギニアスはいつまで手を繋いでんだ?」
全員が「え?」といった顔になり、視線は一気に私とルギニアスに注がれた。
「!!」
しまった!! ずっとルギニアスと手を繋いだままだった! と焦り、慌てて手を離す。それと同時に、ルギニアスは「フン」となにやら鼻を鳴らしながら小さくなり、サッサとベッドルームへと飛んで行ってしまった。
そのせいで皆の視線は全て私に……ルギニアスめ……一人で逃げたわね……。
その後、急いで私も逃げるようにベッドルームへと逃げ、男性陣はどうしたのか知らないが、リラーナからはニヤニヤされたのは言うまでもない……。
その夜、改めて考える。ルギニアスのこと、アリシャのこと、前世のお母さんのアリサのこと……。
枕の横で眠るルギニアスの背中にそっと手を伸ばし、その温かさに安心する。
ルギニアスは今、ここに生きている。
アリシャもアリサももういない。ルギニアスが今なにを思っているのかは分からない。でも……私は、ルギニアスにこそ、幸せになってもらいたい。
長い長い時間を……アリシャにしろアリサにしろ……大事なひとたちの死を見送ってきた。きっとルギニアスにとって大事な存在だったはず。敵だったとしてもそこには絆があった。お互いが特別な存在だった。そんな相手の死を何度も受け入れなければならなかったということは、どれほど辛く苦しいことだっただろう。
そして私も……サクラの死。ルギニアスに追い打ちをかけてしまった。
だから私は絶対ルギニアスには幸せになってもらいたいのよ。今はなにをどうしたらルギニアスが幸せだと思えるのかは分からないけれど……いつかきっと……ルギニアスを笑顔にしてみせるから……。
「ルギニアス……」
ルギニアスの小さな背中に擦り寄り、額を背中にそっと押し当て眠りに就いた。
チラリとルギニアスを見る。
「あの魔傀儡から聞こえた声は初代聖女アリシャの声だった。俺の名はともかく、ラフィージアについてなにかを言っていた記憶はない。まあ、そもそも、俺たちはそんな他愛もない話をするような関係でもなかったしな……生まれ変わったアリサからもラフィージアについては聞いたことがない」
そう言いながらルギニアスは苦笑する。前世のお母さんとは他愛のない話を繰り返していたとは聞いた。しかし、アリシャとは……お互い戦っていたのだ。そんな他愛もない話をするような仲なはずがないか……。
「ねえ、とりあえずあの鳥の魔傀儡の声をもう一度聞いてみない? もしかしたらもう少しなにかが聞けるかもしれないし」
リラーナがそう声を掛けながら、自身の鞄から魔傀儡の入った箱を取り出す。
「そう、だね……なにか他にも言葉が残っているかも」
皆が頷いた。ルギニアスは少し複雑そうではあったが。そんなルギニアスがまたアリシャの声に意識を引っ張られることが怖かった私は、ルギニアスの手を取りぎゅっと握った。
ルギニアスは目を見開き、私を見たが、私はそんな視線を気にすることなくリラーナの持つ魔傀儡に目をやる。手はしっかりとルギニアスの手を握り締めたまま……。
リラーナは鳥の魔傀儡を両手で包み込み、魔力を送る。そしてそっと手を開くと、先程見たときと同様に、ぎこちないながらも鳥は動き出し起き上がる。
リラーナの掌に乗る鳥の魔傀儡を皆がじっと見詰め、鳥は『ピチチッ』と喉を鳴らした。そしてキョロキョロッと首を動かしながらアリシャの声を響かせていく。
『キュルッ……ピチッ、ピュイ……ガガッ……ルギ、ニアス……ラフィー、ジア……ガガッ……こ……られた……キュルル……たい……ルギ……ス……あな、た……たい……ガガッ……ガガッ……ガガガッ、ガガッ……』
「これ以上は無理ね、壊れちゃう」
そう言ってリラーナは魔傀儡を箱へと戻した。
私はぎゅうっとルギニアスの手を握り締めたままだ。ルギニアスの顔を見るのが怖かった。また泣きそうな顔になっているんだろうか。切なそうな顔をしているんだろうか。今、ルギニアスの頭のなかにはアリシャのことしかないのだろうか。そう思うと、ルギニアスの顔を見ることが出来なかった。
しかし、ルギニアスは私の手をグッと力強く握り返した。それは先程とは全く違う力強さ。ガバッとルギニアスの顔を見上げると、そこには泣きそうな顔など全くなかった。
真っ直ぐ睨むような視線のままのルギニアス。一度目にアリシャの声を聴いたときのような、消えてしまいそうな、辛そうな姿はどこにもなかった。
そのことにホッとし、嬉しくなり、繋いだ手からルギニアスの手の温かさを感じ、生きていることを実感する。
「うーん、いまいちよく分からんな。ルギニアスはなにか分かったか?」
ヴァドがルギニアスを見て聞いた。
「いや……」
「だよなぁ……あれじゃあ無理だな……うーん、なんかよく分からんが、とりあえずラフィージアに行けば、なにか分かる……のか?」
自分で言っておいて疑問符だらけなことに、ヴァドは苦笑した。
「まあ、図らずも大聖堂以外にも目的が出来た感じか?」
ディノも苦笑しながら言った。その言葉に全員が頷く。
「じゃあ、やっぱりまずはうちの国王に会いに行くか!」
「うちの国王って」
ヴァドのあまりに気さくな言い方に、まるでその辺のおじさんにでも会いに行くようだ、と笑った。
「そんじゃ、まあ、明日城に向かうとして……ルーサとルギニアスはいつまで手を繋いでんだ?」
全員が「え?」といった顔になり、視線は一気に私とルギニアスに注がれた。
「!!」
しまった!! ずっとルギニアスと手を繋いだままだった! と焦り、慌てて手を離す。それと同時に、ルギニアスは「フン」となにやら鼻を鳴らしながら小さくなり、サッサとベッドルームへと飛んで行ってしまった。
そのせいで皆の視線は全て私に……ルギニアスめ……一人で逃げたわね……。
その後、急いで私も逃げるようにベッドルームへと逃げ、男性陣はどうしたのか知らないが、リラーナからはニヤニヤされたのは言うまでもない……。
その夜、改めて考える。ルギニアスのこと、アリシャのこと、前世のお母さんのアリサのこと……。
枕の横で眠るルギニアスの背中にそっと手を伸ばし、その温かさに安心する。
ルギニアスは今、ここに生きている。
アリシャもアリサももういない。ルギニアスが今なにを思っているのかは分からない。でも……私は、ルギニアスにこそ、幸せになってもらいたい。
長い長い時間を……アリシャにしろアリサにしろ……大事なひとたちの死を見送ってきた。きっとルギニアスにとって大事な存在だったはず。敵だったとしてもそこには絆があった。お互いが特別な存在だった。そんな相手の死を何度も受け入れなければならなかったということは、どれほど辛く苦しいことだっただろう。
そして私も……サクラの死。ルギニアスに追い打ちをかけてしまった。
だから私は絶対ルギニアスには幸せになってもらいたいのよ。今はなにをどうしたらルギニアスが幸せだと思えるのかは分からないけれど……いつかきっと……ルギニアスを笑顔にしてみせるから……。
「ルギニアス……」
ルギニアスの小さな背中に擦り寄り、額を背中にそっと押し当て眠りに就いた。
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