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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第188話 秘密の共有
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ルギニアスと二人きりで食事をする、ということが、なにやら気恥ずかしいような、嬉しいような、そんな不思議な感覚でふわふわとした気分だった。
しばらくすると皆が帰って来る。
「よお、話し合えて、食事は出来たか?」
ヴァドがいつも通りの態度で声を掛けてくる。それが今は有難い。
「うん、食事も手配してくれてありがとう」
そう感謝を伝えると、ヴァドはニッと笑った。そして、真面目な顔となりルギニアスを見る。
「で、落ち着いたところで、話は聞かせてもらえるのか?」
それは先程、鳥の魔傀儡に録音されていた声のこと。初代聖女の声、その声が発した『ルギニアス』の名。そして『ラフィージア』。
ヴァドは私にも視線を寄越す。オキは左程興味はなさそうだが、ディノとイーザンとリラーナは心配そうにしてくれている。
私はルギニアスを真っ直ぐ見詰めた。
「ヴァドとオキにもルギニアスのことを話そうと思うけどいい?」
ルギニアスは私と視線を合わせたかと思うと、少し考え込むかのように視線が外れた。
「俺は知られようがなんの問題はない……お前が……いや……お前の好きにすればいい」
「……うん、ありがとう」
きっとルギニアスは私の心配をしてくれているんだろうな。前世のお母さんや私を守れなかった、という思いからか、今は私のことを必死に守ろうとしてくれている気がする。
きっと「どんなことになっても守るから好きにしろ」、と言ってくれているのだと思った。それだけ私はもうルギニアスのことを信じている。だから……
「ヴァド、オキ……それと皆にももう一度……」
魔王の話をした。以前ディノたちに話したときとは少し違う、ルギニアスに聞いた事実を。人間たちに魔王と呼ばれていた存在であることは確かだ。でも……ルギニアスが望んで戦っていた訳ではないことを。人間が魔物の子供を襲ったらしいということを。そのせいなのか次元の違う二つの世界が大きく繋がってしまったことを。
そして、聖女と魔王は憎しみ合っていた訳ではなかったことを……。
「……ルギニアスが魔王……」
「ルギニアスはこの魔石に封印されていた」
私は服のなかから紫の魔石を取り出した。すっかりと明るい色となった紫の魔石。
「なんでそんなものをルーサが?」
ヴァドは混乱しつつも、必死に頭を整理しているようだった。
「私は前世の記憶があるの……その前世での母親、それは初代聖女の生まれ変わりだった」
「初代聖女の生まれ変わり!? いやいやいや、ちょっと待ってくれ。訳が分からん」
ヴァドは頭を抱えた。オキはすでに理解したのか、考えることを放棄したのか、ヴァドを見て笑っている。
ディノたちは自分たちも以前聞いたときに混乱した、と苦笑している。
「魔王ルギニアスは初代聖女が転生したときに、魔石ごと転生に付き合わされ、そして、初代聖女の娘としてルーサが生まれたが、聖女もルーサも死んで、再びこの世界に戻って来たということか……。そして、魔王は復活し……しかし、ルーサを守るためにここにいる、と」
「うん、まあそんなところかな……」
うむ、とヴァドは苦笑しつつも納得したようだ。
「まあ……なんだ……魔王と聖女のくだりは本当なのかはよく分からんが……まあしかし、今まで共に行動していて、ルギニアスが歴史で語られているような魔王とも思えないからな……。ルギニアスが人間を攻撃するつもりがないのなら、まあ問題はないか」
「ヴァド……ありがとう。ガルヴィオ国王にはルギニアスのことは黙っていて欲しいの……私の前世のこと、初代聖女のこと、ルギニアスのこと、今世のお母様のことにしても、知っているのは今ここにいる皆だけだから……」
ヴァドはこうして私たちと行動を共にしてくれているから、ルギニアスが人間を滅ぼすつもりなどないことは分かってもらえるが、他の人からしたらおそらくそんなことは信じられないだろう。『魔王』とは憎むべき相手なのだから。
「あー……そうだな、さすがにこんなことを全て報告したところで信じられないだろうし、信じたとしたらルギニアスを殺すか捕らえようとするだろうしな……」
「そんなのだめ!!」
ヴァドが口にした「殺す」という言葉に思わず大声を上げてしまう。ヴァドは驚き目を見開いた。
そのとき今まで黙って聞いていたルギニアスが私の頭にポンと手を置いた。
「落ち着け」
横に立つルギニアスを見上げるように顔を見た。泣きそうになり、涙を零さないよう必死に耐えながらルギニアスを見据えると、ルギニアスはぎょっとした顔となった。
「俺が死ぬ訳がないだろう。人間ごときに殺されると思うか?」
「アリシャには封印されたくせに……」
「うっ、うるさい!」
せっかく人が慰めてやっているというのに、と、ルギニアスは私の頭を鷲掴みにすると、ぐいぐいと押した。
「ちょ、ちょっと!」
ルギニアスの手を掴み逃げようとじたばたとしていると、ヴァドが盛大に笑った。
「アッハッハッ!! 大丈夫だ、今までルーサに聞いた話は現代の聖女の話以外は誰にも言わないから安心しろ」
「う、うん、ありがとう」
「で、あともうひとつだ。ラフィージア、これについては?」
しばらくすると皆が帰って来る。
「よお、話し合えて、食事は出来たか?」
ヴァドがいつも通りの態度で声を掛けてくる。それが今は有難い。
「うん、食事も手配してくれてありがとう」
そう感謝を伝えると、ヴァドはニッと笑った。そして、真面目な顔となりルギニアスを見る。
「で、落ち着いたところで、話は聞かせてもらえるのか?」
それは先程、鳥の魔傀儡に録音されていた声のこと。初代聖女の声、その声が発した『ルギニアス』の名。そして『ラフィージア』。
ヴァドは私にも視線を寄越す。オキは左程興味はなさそうだが、ディノとイーザンとリラーナは心配そうにしてくれている。
私はルギニアスを真っ直ぐ見詰めた。
「ヴァドとオキにもルギニアスのことを話そうと思うけどいい?」
ルギニアスは私と視線を合わせたかと思うと、少し考え込むかのように視線が外れた。
「俺は知られようがなんの問題はない……お前が……いや……お前の好きにすればいい」
「……うん、ありがとう」
きっとルギニアスは私の心配をしてくれているんだろうな。前世のお母さんや私を守れなかった、という思いからか、今は私のことを必死に守ろうとしてくれている気がする。
きっと「どんなことになっても守るから好きにしろ」、と言ってくれているのだと思った。それだけ私はもうルギニアスのことを信じている。だから……
「ヴァド、オキ……それと皆にももう一度……」
魔王の話をした。以前ディノたちに話したときとは少し違う、ルギニアスに聞いた事実を。人間たちに魔王と呼ばれていた存在であることは確かだ。でも……ルギニアスが望んで戦っていた訳ではないことを。人間が魔物の子供を襲ったらしいということを。そのせいなのか次元の違う二つの世界が大きく繋がってしまったことを。
そして、聖女と魔王は憎しみ合っていた訳ではなかったことを……。
「……ルギニアスが魔王……」
「ルギニアスはこの魔石に封印されていた」
私は服のなかから紫の魔石を取り出した。すっかりと明るい色となった紫の魔石。
「なんでそんなものをルーサが?」
ヴァドは混乱しつつも、必死に頭を整理しているようだった。
「私は前世の記憶があるの……その前世での母親、それは初代聖女の生まれ変わりだった」
「初代聖女の生まれ変わり!? いやいやいや、ちょっと待ってくれ。訳が分からん」
ヴァドは頭を抱えた。オキはすでに理解したのか、考えることを放棄したのか、ヴァドを見て笑っている。
ディノたちは自分たちも以前聞いたときに混乱した、と苦笑している。
「魔王ルギニアスは初代聖女が転生したときに、魔石ごと転生に付き合わされ、そして、初代聖女の娘としてルーサが生まれたが、聖女もルーサも死んで、再びこの世界に戻って来たということか……。そして、魔王は復活し……しかし、ルーサを守るためにここにいる、と」
「うん、まあそんなところかな……」
うむ、とヴァドは苦笑しつつも納得したようだ。
「まあ……なんだ……魔王と聖女のくだりは本当なのかはよく分からんが……まあしかし、今まで共に行動していて、ルギニアスが歴史で語られているような魔王とも思えないからな……。ルギニアスが人間を攻撃するつもりがないのなら、まあ問題はないか」
「ヴァド……ありがとう。ガルヴィオ国王にはルギニアスのことは黙っていて欲しいの……私の前世のこと、初代聖女のこと、ルギニアスのこと、今世のお母様のことにしても、知っているのは今ここにいる皆だけだから……」
ヴァドはこうして私たちと行動を共にしてくれているから、ルギニアスが人間を滅ぼすつもりなどないことは分かってもらえるが、他の人からしたらおそらくそんなことは信じられないだろう。『魔王』とは憎むべき相手なのだから。
「あー……そうだな、さすがにこんなことを全て報告したところで信じられないだろうし、信じたとしたらルギニアスを殺すか捕らえようとするだろうしな……」
「そんなのだめ!!」
ヴァドが口にした「殺す」という言葉に思わず大声を上げてしまう。ヴァドは驚き目を見開いた。
そのとき今まで黙って聞いていたルギニアスが私の頭にポンと手を置いた。
「落ち着け」
横に立つルギニアスを見上げるように顔を見た。泣きそうになり、涙を零さないよう必死に耐えながらルギニアスを見据えると、ルギニアスはぎょっとした顔となった。
「俺が死ぬ訳がないだろう。人間ごときに殺されると思うか?」
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「うっ、うるさい!」
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「ちょ、ちょっと!」
ルギニアスの手を掴み逃げようとじたばたとしていると、ヴァドが盛大に笑った。
「アッハッハッ!! 大丈夫だ、今までルーサに聞いた話は現代の聖女の話以外は誰にも言わないから安心しろ」
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