【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第181話 ルギニアスの怒り

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 ルギニアスの言葉に全員がガバッと振り向く。

「今度はなんなんだよ!」

 ディノが再び剣に手を掛けた。そこに現れたのは……

「人間?」

 メイドのような服装に、茶色い髪からひょっこりと見える獣の耳。細長い尻尾をくねらせながらこちらへと近付いて来る獣人の女性……。

「違う……」
「え?」

 私が呟くと皆が私の顔を見た。

「あれは……魔傀儡? 魔石の魔力を感じる」

 明らかに人の気配は感じない。それなのにあの女性の内部から魔石を感じる。おそらくあの魔石屋で本物の魔傀儡を見ていなければ気付かなっただろう。それほど普通の獣人と区別がつかない。疑問にも思わなければわざわざ感知などしない。今、この状況だったから違和感を覚えたのだ。

「確かに人の気配は感じないな」

 イーザンも私に同意した。

「てことは、この魔傀儡は俺たちが探している魔傀儡師の使いとか?」

 ディノがチラリとその魔傀儡を見て呟いた瞬間、その魔傀儡はこちらに向かって手を挙げ、掌をこちらに向けた。

「「「「「!?」」」」」

 魔傀儡の手が光ったと思った瞬間、ルギニアスが同様に手を翳し、目の前に大きく障壁結界を張った。光は一瞬にして障壁結界にぶつかり、激しい爆発音を響かせる。

 ドォォォオオン!! という音と共に、魔傀儡は地を蹴り、こちらに近付いた。瞬時に私たちの目の前までやって来た魔傀儡は再び手を翳し、私たちに向かい光を放とうとする。

「だから小賢しいと言っているだろう」

 ルギニアスの低い声が聞こえた。

 私の目の前に振り翳された魔傀儡の手。ルギニアスは振り向き、私の目の前にいた魔傀儡の手を目掛けて、自身の手を振り下ろした。風を切るように振り下ろされたルギニアスの手は、そこにはなにも見えないのに、魔傀儡の腕を切り落とす。

「!?」

 目の前で切り落とされた魔傀儡の腕に驚き、目を見開いていると、ルギニアスは再び手を振り上げる。それに反応するように魔傀儡は後ろに飛び退いた。

 咄嗟の出来事に全員が固まっていたが、ディノとイーザン、オキとヴァドも、皆一斉に臨戦態勢に入った。

「ちっ、すまん! 出遅れた!」

 ディノは剣を抜き、私の前に立ち剣を構える。イーザンたちも私とリラーナを背後に庇い、前へと出る。リラーナは驚愕の顔を浮かべながらも、私の腕を引っ張った。

「ル、ルーサ! 大丈夫!?」
「う、うん。ルギニアスのおかげでなんともない」

 ルギニアスは怒りなのか、恐ろしいほどの気配を漂わせている。ゆらゆらと魔力の波動なのか、身体の周りをまるで陽炎のように揺らぎ覆っている。そしてゆっくりと魔傀儡に向かって歩き出す。

「ルギニアス!」

 呼んでも答えないルギニアスは真っ直ぐに魔傀儡へと向かい、魔傀儡はじりじりと後退る。切り落とされた腕は血もなにも滴ることはない。なにやら部品の一部のようなものが斬られた断面から覗き見える。それがなによりも魔傀儡であることを証明していた。

 手刀を浴びせようとしているのか、魔傀儡は残った腕を大きく振り翳しルギニアスに向けて振り下ろした。
 ルギニアスはそれをなんなく受け止めると、腕をギリリと掴んだ。そして、逃げようとする魔傀儡はジタバタと暴れているが、そんな魔傀儡の首をルギニアスは勢い良く掴み、身体ごと持ち上げた。

 ギリギリと首を絞め、持ち上げるルギニアスの表情は見えないが、魔力の揺らぎから明らかに怒りを感じる。

 苦しい訳ではないのだろうが、逃げようとジタバタと暴れる魔傀儡。その姿が……人間ではないことは分かってる……分かっているんだけれど……

「ルギニアス!! もうやめて!!」

 ルギニアスの元へと駆け寄った。そして魔傀儡を持ち上げるルギニアスの腕を掴む。ぞわりとルギニアスの魔力を感じ、一瞬怯むがグッと堪え、腕を掴む手に力を籠める。ジタバタと暴れる魔傀儡はそれでも攻撃をしようとしているのか、蹴りを入れようとしたり、手をルギニアスに向けようとしている。

「なぜ止める」

 ジロリと私に目をやったルギニアスの目は酷く冷たいものだった。初めて見るそんな冷たい目にビクリとする。怖い目。今までそんな目を見たことがない。しかし、それは私を狙った魔傀儡に対して怒ってくれているのだ、ということが分かる。

「守ってくれてありがとう。でも、この魔傀儡をルギニアスが殺すところは見たくない……」
「はっ、殺す? 魔傀儡だぞ? 『殺す』ではなく『壊す』の間違いだろう」

 ルギニアスは嘲笑うような顔をする。そしてさらに魔傀儡の首を絞める力を強めた。

「こいつはお前を殺そうとしたのに、なぜ止める?」

 ギリギリと魔傀儡の首を絞めながら、こちらを見ずにルギニアスは聞いた。

「魔傀儡……確かにそうなんだけど……だって、人間と見た目が全く変わらない……いくら人形だとしても、見た目が人間と全く変わらない相手をルギニアスが殺すところを見たくなんかない」

 例え人形だとしても、これほどまでに人間と似た存在を簡単に『壊す』というには抵抗がある。

「人間じゃないことは分かってる……分かっているんだけど、どうしても……そう簡単には割り切れない……自分でも分かってる……そんな考え、馬鹿げていることくらい分かるんだけど……どうしても嫌なの……」

 理屈じゃない。ただ『嫌』なのだ。

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