【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
180 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第177話 ガルヴィオの大聖堂

しおりを挟む
 皆、言葉が出なかった。

「不介入の掟はどうなってんだよ!」

 ディノが眉間に皺を寄せながら吐き捨てるように言う。

「それなんだよなぁ……」

 ヴァドが腕組みをしながら溜め息を吐く。

「こっちの司祭たちも困惑していたよ。不介入の掟を無視して、命令をしてくる意味も分からない上に、拘束する理由も教えない。とにかく拘束して欲しいの一点張りだったそうだ」
「それ、その司祭様はなんて返事をしたの?」
「一応当たり障りなく「アシェルーダから誰か来ることがあるとは思えないが、もし来たならばその方にお話は伺いましょう」とだけ答えたらしい。まあ、そんなものに従う必要はない、とは言っておいたが。だが、変にここでお前たちが現れて、話がややこしくなってもな、と思ったから行くのは止めておいたほうが良いじゃないかと思う。あの司祭以外はどう思っているか分からんしな」

 確かに話をした司祭以外の人たちは、もしかしたらアシェルーダに従うべきだ、と思う人もいるかもしれない。ガルヴィオの人たちがアシェルーダに言われるままに従うとは思えないが、それはやはり言い切れない。

「チッ、本当になんなんだよ、あの国王」

 ディノがあきらかに不機嫌な顔で舌打ちをした。

「国王って……お前ら本当になにしたんだ?」

 ヴァドが呆れたような顔を私たちに向ける。あ、ヴァドはアシェルーダからの連絡が国王から入るとは知らなかったのよね。ディノが「しまった」と焦った顔となる。
 もうこの際ヴァドにも話してしまおうか……。

「ねぇ、皆、ヴァドに私と両親のことを話そうと思うんだけど良いかな?」

 わざわざ他国の大聖堂を目指す上に、なぜかアシェルーダの国王から拘束されそうになっている。そんなことをいつまでも黙ったままでヴァドに協力してもらうのも心苦しい。ルギニアスのことは話せなくとも、私自身のことならば言ってしまったほうが良い気がした。今後ヴァドを何も知らないまま巻き込んでしまうのだけは嫌だった。

 ディノとイーザンとリラーナは顔を見合わせ、少し戸惑ったような顔をしたが、しかし、お互い私の考えを理解してくれたのか、頷いて見せてくれた。

「? なんだ? ルーサのことか?」

 ヴァドはそんな私たちの空気に怪訝な顔となり、私を真っ直ぐに見据えた。

「うん、私と両親のこと」

 そして私はルギニアスのことだけは隠したまま、ヴァドに今まであったことを話した。私はアシェルーダでは貴族の娘だったこと、両親が行方不明となり探していること、なぜか私はずっと尾行されて見張られていたこと、そしてオキがその尾行していた人間で、私を見張っていたがこちら側に付いてくれ、国王のことを教えてくれたこと、そして……

「これはオキにも言ってなかったけど……私の母はどうやら今のこの時代の聖女らしいの……それで神殿に連れて行かれた……」

 私はヴァドとオキに向かって言った。

「聖女!?」

 ヴァドは驚きの声を上げ、目を見開いた。しかし、オキはさほど驚いていないようだ。

「オキは驚かないね?」
「ん? まあ、あんたの母親が神殿に連れて行かれた、って聞いたときからなんとなくね」

 そう言って苦笑する。そうか、オキは陛下が密談していたときの証拠の音声を持っている。そのときにお母様が神殿に連れて行かれたことは知っているのだものね。

「神殿に連れて行かれるなんて余程のことだろ? だからなにかしらアシェリアンや結界やらに関係している人間なんだろうなーとは思ってた」
「そっか……」

 笑いながら話すオキと、そして唖然としているヴァド。

「聖女……聖女か……なるほど……それでルーサの母親は無理矢理連れて行かれて行方が分からないから、神殿に行って話を聞きたいって訳だな?」
「うん。でもなぜかずっと私は尾行されていて、アシェルーダの大聖堂でも監禁されたの。それを逃げて来たからか、拘束しろって命令が出されているのかもしれない」
「ルーサが狙われている理由はなんだ?」
「それが分からないの」

 それだけがいまだに全く理由が分からない。お母様が聖女で結界の守護をさせられているということと、私が拘束されないといけない理由が関係しているとも思えない。私がお母様に会いに行くと、お母様が結界の守護をしてくれなくなる? いや、でもお母様はきっとそんな無責任なことはしない。護るべきものがあるのなら、きっとお母様は私が会いに行こうが、それを辞めることなんてしないはず。

「うーん、色々謎だな。そうか……聖女……」

 ヴァドは腕組みをしたまま顎に手をやり考え込んだ。そしてなにやらブツブツと口にしているかと思ったら、急にパッと顔を上げニッと笑った。

「俺がなんとかしてやる、と言いたいところだが、正直なところ、ガルヴィオの大聖堂は、国はあまり介入していない。独自の統制があるから、あまり国からは命令出来ないんだよ。だから……ラフィージアの王に頼んでみよう」
「「「「「え?」」」」」

 全員が唖然とした。ちょっと待って。なにか色々気になる発言ばかりなんですけど!

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...