【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第177話 ガルヴィオの大聖堂

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 皆、言葉が出なかった。

「不介入の掟はどうなってんだよ!」

 ディノが眉間に皺を寄せながら吐き捨てるように言う。

「それなんだよなぁ……」

 ヴァドが腕組みをしながら溜め息を吐く。

「こっちの司祭たちも困惑していたよ。不介入の掟を無視して、命令をしてくる意味も分からない上に、拘束する理由も教えない。とにかく拘束して欲しいの一点張りだったそうだ」
「それ、その司祭様はなんて返事をしたの?」
「一応当たり障りなく「アシェルーダから誰か来ることがあるとは思えないが、もし来たならばその方にお話は伺いましょう」とだけ答えたらしい。まあ、そんなものに従う必要はない、とは言っておいたが。だが、変にここでお前たちが現れて、話がややこしくなってもな、と思ったから行くのは止めておいたほうが良いじゃないかと思う。あの司祭以外はどう思っているか分からんしな」

 確かに話をした司祭以外の人たちは、もしかしたらアシェルーダに従うべきだ、と思う人もいるかもしれない。ガルヴィオの人たちがアシェルーダに言われるままに従うとは思えないが、それはやはり言い切れない。

「チッ、本当になんなんだよ、あの国王」

 ディノがあきらかに不機嫌な顔で舌打ちをした。

「国王って……お前ら本当になにしたんだ?」

 ヴァドが呆れたような顔を私たちに向ける。あ、ヴァドはアシェルーダからの連絡が国王から入るとは知らなかったのよね。ディノが「しまった」と焦った顔となる。
 もうこの際ヴァドにも話してしまおうか……。

「ねぇ、皆、ヴァドに私と両親のことを話そうと思うんだけど良いかな?」

 わざわざ他国の大聖堂を目指す上に、なぜかアシェルーダの国王から拘束されそうになっている。そんなことをいつまでも黙ったままでヴァドに協力してもらうのも心苦しい。ルギニアスのことは話せなくとも、私自身のことならば言ってしまったほうが良い気がした。今後ヴァドを何も知らないまま巻き込んでしまうのだけは嫌だった。

 ディノとイーザンとリラーナは顔を見合わせ、少し戸惑ったような顔をしたが、しかし、お互い私の考えを理解してくれたのか、頷いて見せてくれた。

「? なんだ? ルーサのことか?」

 ヴァドはそんな私たちの空気に怪訝な顔となり、私を真っ直ぐに見据えた。

「うん、私と両親のこと」

 そして私はルギニアスのことだけは隠したまま、ヴァドに今まであったことを話した。私はアシェルーダでは貴族の娘だったこと、両親が行方不明となり探していること、なぜか私はずっと尾行されて見張られていたこと、そしてオキがその尾行していた人間で、私を見張っていたがこちら側に付いてくれ、国王のことを教えてくれたこと、そして……

「これはオキにも言ってなかったけど……私の母はどうやら今のこの時代の聖女らしいの……それで神殿に連れて行かれた……」

 私はヴァドとオキに向かって言った。

「聖女!?」

 ヴァドは驚きの声を上げ、目を見開いた。しかし、オキはさほど驚いていないようだ。

「オキは驚かないね?」
「ん? まあ、あんたの母親が神殿に連れて行かれた、って聞いたときからなんとなくね」

 そう言って苦笑する。そうか、オキは陛下が密談していたときの証拠の音声を持っている。そのときにお母様が神殿に連れて行かれたことは知っているのだものね。

「神殿に連れて行かれるなんて余程のことだろ? だからなにかしらアシェリアンや結界やらに関係している人間なんだろうなーとは思ってた」
「そっか……」

 笑いながら話すオキと、そして唖然としているヴァド。

「聖女……聖女か……なるほど……それでルーサの母親は無理矢理連れて行かれて行方が分からないから、神殿に行って話を聞きたいって訳だな?」
「うん。でもなぜかずっと私は尾行されていて、アシェルーダの大聖堂でも監禁されたの。それを逃げて来たからか、拘束しろって命令が出されているのかもしれない」
「ルーサが狙われている理由はなんだ?」
「それが分からないの」

 それだけがいまだに全く理由が分からない。お母様が聖女で結界の守護をさせられているということと、私が拘束されないといけない理由が関係しているとも思えない。私がお母様に会いに行くと、お母様が結界の守護をしてくれなくなる? いや、でもお母様はきっとそんな無責任なことはしない。護るべきものがあるのなら、きっとお母様は私が会いに行こうが、それを辞めることなんてしないはず。

「うーん、色々謎だな。そうか……聖女……」

 ヴァドは腕組みをしたまま顎に手をやり考え込んだ。そしてなにやらブツブツと口にしているかと思ったら、急にパッと顔を上げニッと笑った。

「俺がなんとかしてやる、と言いたいところだが、正直なところ、ガルヴィオの大聖堂は、国はあまり介入していない。独自の統制があるから、あまり国からは命令出来ないんだよ。だから……ラフィージアの王に頼んでみよう」
「「「「「え?」」」」」

 全員が唖然とした。ちょっと待って。なにか色々気になる発言ばかりなんですけど!

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