【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第176話 列車で大聖堂へ!

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 座席に着いてしばらくすると、なにやら『ボオォッ』と大きな音が響いた。

「出発だな」

 ヴァドがそう言った瞬間、列車がガタリと動き出す。

「動いたわ!」

 リラーナが嬉しそうに窓から身を乗り出す。窓は開閉可能でリラーナが窓を開けていたため、外のひんやりとした空気が流れ込む。リラーナの髪が大きく揺らぎ、髪を抑えながらも楽しそうに外を眺めている。

 次第に列車の速度は上がり、街中の景色は次々と変わっていく。街中を走る間は比較的速度は遅いらしく、街を出て平原を走るときにはさらに速度が上がるらしい。
 列車が走る道は道路とは分けられてあり、小さいが壁で遮られていた。そのため列車専用の道、という扱いのようだ。

 街中では様々な店が並び、大通りを進んで行くため、魔導車もたくさん見える。王城からはどんどんと離れて行き、次第に店も減って行くと居住地だろうか、閑静な雰囲気になっていく。
 そしてその居住地らしきところを進んで行くとなにやら巨大な建物が見えて来た。

「あれが大聖堂だ」

 ヴァドの言葉に私もリラーナも窓から身を乗り出し目を向ける。ディノも同じように私たちの上から身を乗り出し眺めた。

「デカいなぁ!」
「うん、アシェルーダの大聖堂よりも大きい気がする」

 私たちが声を上げていると、同乗していた他の乗客である獣人たちがクスクスと笑っていた。は、恥ずかしい……。

 次第に近付いて来るとなおさら大きさがよく分かる。アシェルーダの大聖堂も大きかった。しかし、さすがに王城のなかというだけあって、城のほうが大きいため、そこまで目立つ大きさでもなかった。
 しかしガルヴィオの大聖堂は街から少し離れているためか、より一層大きさが際立つ。見た目自体はアシェルーダの大聖堂とさほど変わりはないが、それを二倍に広くさせたような敷地に、何階建てなのだろうか、屋根の先端は見ることが困難なほど高い位置にあった。

 駅に到着し降り立つ。大聖堂とは少し離れたところにある駅なのに、降り立った瞬間から正面に大聖堂が見え、大きさがよく分かり圧倒される。

 全員がポカンと口を開け見上げていると、ヴァドは笑いながら手を挙げた。

「ハハ、茫然としている間に、ちょっくら行って来るから待ってろ」

 そう言って手をひらひらとさせヴァドが大聖堂に向かう。

「ほんと凄いわね。なんかガルヴィオってなにもかもが大きいわね」
「うん、獣人自体も身体が大きいからかしら?」

 そんなことを話していると、ヴァドが大聖堂に到着し、歩いていた司祭らしき獣人に声を掛けているのが見えた。

「おい」

 鞄から出て来ていたルギニアスが私の肩に乗り声を掛ける。

「ん? どうしたの?」
「隠れておけ」

 ルギニアスにそう言われ、全員がハッとする。大聖堂に圧倒されすっかり忘れていたが、もしアシェルーダから連絡が来ていたとしたら、いくらヴァドに聞きに行ってもらっても私たちの姿を見られたら意味がない!

「そ、そうだね」

 ルギニアスに言われたことでヴァドが戻って来るまでの間、こっそりと様子を伺える位置に身を隠すことにした。建物の物陰に隠れ、ヴァドのやり取りを見詰める。

 ヴァドは司祭と言葉を交わした後、大聖堂のなかから出て来た他の司祭と話している。ヴァドの表情は分からないが、なにやら司祭は表情を曇らせたり、頭を振ったりしている。

「な、なんかあまり良くない反応かしら」

 リラーナが呟いた言葉に全員言葉を失くす。

「うーん、アシェルーダからなんか話が入ってんのかもなぁ。あのおっさんは不介入の決まりとか無視しそうだしな」

 おっさん呼ばわりのオキに苦笑するが、不介入の掟を破るとかあるなら、アシェルーダの国王って……。

 そんなことを色々考えながら待っていると、ヴァドは司祭たちに手を振りながらこちらへと戻って来た。

 私たちの姿が見えなかったことで、背後を振り返り司祭たちがいなくなっていることを確認しつつヴァドが私たちの姿を探した。私たちはヴァドに声を掛け、姿を見せるとヴァドは再び大聖堂のほうを確認しつつ近付いて来た。

「ヴァド、どうだった?」
「とりあえず少し離れよう」

 ヴァドはそう言い、少し歩いたかと思うと、居住区のなかにある公園広場へと入って行った。数人の獣人の子供が遊んでいるが、それほどの人がおらず私たちは公園の端で話を聞いた。

「結論から言うと駄目だな」
「「「「!!」」」」

「それってやっぱりアシェルーダから連絡が来ていたの!?」
「あぁ、アシェルーダから来た人間がいたらその場で拘束して欲しい、と連絡があったそうだ」

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