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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第171話 そして王都へ
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「なんだかやたら大きい建物もあるわね」
リラーナが声を上げたほうへ振り向くと、確かに今まで見たことがないような巨大な建物があった。高さはそれほど高くはないのだが、横幅がとてつもなく広い。今まで見掛けた住居が一体何軒分入るだろうか、というほどの広さの敷地だった。正面にあるのは大きな扉なのだろうが、大きく開け放たれおり、なかの様子が窺える。
「あぁ、あれは飛行艇や魔導車を造るための工場だな」
「工場……でっかい作業場ってことね!」
「ん? まあそうか?」
一瞬考え込んだヴァドは笑った。またしても吸い寄せられそうになっているリラーナは、イーザンに掴まれ制止させられていて笑ってしまう。
「工場はさすがに見せられんなぁ。遠目で見るくらいなら大丈夫だが」
ヴァドは苦笑する。それはそうか、と私たちは納得するが、リラーナはがっくりと肩を落とす。仕方がないので遠目に工場の様子を探るが、なにやら飛行艇らしきものを修理しているのか、造っているのか、作業している姿は見えるが、なにをしているのかは全く分からない。
うずうずとしているリラーナはひょこひょこと背伸びをしたり、屈んだりと、なんとかして詳しく見えないか、としきりに身体を動かしている。
そんな姿に皆で笑うが、結局はほとんど見ることは出来ず、諦めて散策に戻ったのだった。
ひとしきり商業区をあちこち見て回り、そろそろ宿へと戻るか、となったとき、オキがおもむろに手を挙げた。
「あ、俺、ちょっと寄るところがあるから先に戻ってて」
「え?」
どこへ? と、聞く間もなく、オキはひらひらと手を振りながら歩いて行ってしまった。
「オキ、どこに行ったのかしら。ほんと謎なやつよね」
「うーん」
リラーナも怪訝な顔をする。そうやって訝しむ私たちにヴァドが笑った。
「あいつはいつもフラフラしているからいつものことだろ。ま、大した用事じゃないだろうし、すぐに戻るだろ。とりあえず俺たちは帰るぞ」
ヴァドはなにか知っているんだろうか。なんとなくそんな気がしたけれど、聞いても教えてくれそうにない気がしたので、そのまま私たちは宿へと戻った。帰りの魔導車はヴァドとリラーナとイーザンの組み合わせになり、今度はヴァドがげっそりとしていたのが面白かった。
夜、夕食時にオキは何事もなかったかのように戻っていて、私たちはどこへ行っていたのか聞いたけれど、「あー、武器屋に行ってただけ」とそれだけ言って話は終わった。それなら一緒に向かえば良かったのに、となにやら疑問にもなったが、そこはもう深く考えないようにしよう。
そして翌朝、ついに王都を目指す!
宿の主人に挨拶を交わし、王都へ向かうために再び飛行艇へと乗り込む。到着したときの飛行艇とはまた違う飛行艇。操縦する獣人も違う人だ。しかし、やはりヴァドとは知り合いのようで、和やかに話している。
ザビーグを出発したときとは違い、今回は水面からの離水となる。それがなんだか不思議な感じ。まるで船に乗っているような感覚があるのに、そこから船とは全く違う速度で進む。そして物凄い水飛沫を上げながら、橋の下と潜り抜けると一気に空へと浮かび上がった。
何度見ても凄いわね、と皆で感心しながら、王都までの空の旅を満喫する。
「王都はザビーグからゼスドルへ向かうよりもさらに遠いから到着する頃には陽が暮れているだろうな」
「そうなのね。ということは、街は暗くて見えないかしら」
「いや、逆に圧巻かもしれないぞ?」
ニヤッとヴァドが笑った。
ザビーグからの空と同じく、飛行艇内で携帯食を齧りつつ、次第に夜になってくると、山に陽が沈む姿が見え美しかった。山並みや空は真っ赤に染まり、次第に吸い込まれるように山の後ろへと消えて行く。陽が沈むと空は次第に闇色と染まっていき、まだ微かに残る陽の光は山並みがまるで燃えているかのように揺らいでいた。
辺り一面が暗闇に包まれていくと、星空が見えてくる。それをうっとりと眺めていると、ヴァドが声を上げた。
「王都の街並みだ」
ヴァドが声を掛け、指差したほうへ向くと、暗闇のなかキラキラと煌めく場所が見えてくる。最初は一つの灯りなのかと思ったが、次第に近付いてくるとそれは多くの光の集合体だと気付く。
近付くにつれその光は数を増し、そしてどんどんと広範囲となっていく。とてつもない広さ、そして灯りの数。まるで宝石箱を覗いているかのような錯覚さえ起こしそうなほどの光。
「綺麗」
「アハハ、だから言っただろ?」
ヴァドがニッと笑う。
窓に貼り付き、眺めているとなにやら動く光を発見する。
「光が動いてる?」
その言葉に皆が私の見るほうへと視線を移した。
「あぁ、あれは列車の灯りだな」
「あれが……」
ヴァドの言葉を確かめるように、食い入るようにその光を目で追う。多くの連なった光が一列に並んで動いていく。
「そうか、窓から漏れている灯りね?」
ニッと笑うヴァドのその顔は肯定を示していた。列車はどこから走って来たのか、今の状態では分からないが、どうやら街の中心部に向かって走っているようだった。
そんな列車としばらく平行して飛んでいた飛行艇は、次第に列車から離れ、街の灯りがない場所へと高度を下げていった。
リラーナが声を上げたほうへ振り向くと、確かに今まで見たことがないような巨大な建物があった。高さはそれほど高くはないのだが、横幅がとてつもなく広い。今まで見掛けた住居が一体何軒分入るだろうか、というほどの広さの敷地だった。正面にあるのは大きな扉なのだろうが、大きく開け放たれおり、なかの様子が窺える。
「あぁ、あれは飛行艇や魔導車を造るための工場だな」
「工場……でっかい作業場ってことね!」
「ん? まあそうか?」
一瞬考え込んだヴァドは笑った。またしても吸い寄せられそうになっているリラーナは、イーザンに掴まれ制止させられていて笑ってしまう。
「工場はさすがに見せられんなぁ。遠目で見るくらいなら大丈夫だが」
ヴァドは苦笑する。それはそうか、と私たちは納得するが、リラーナはがっくりと肩を落とす。仕方がないので遠目に工場の様子を探るが、なにやら飛行艇らしきものを修理しているのか、造っているのか、作業している姿は見えるが、なにをしているのかは全く分からない。
うずうずとしているリラーナはひょこひょこと背伸びをしたり、屈んだりと、なんとかして詳しく見えないか、としきりに身体を動かしている。
そんな姿に皆で笑うが、結局はほとんど見ることは出来ず、諦めて散策に戻ったのだった。
ひとしきり商業区をあちこち見て回り、そろそろ宿へと戻るか、となったとき、オキがおもむろに手を挙げた。
「あ、俺、ちょっと寄るところがあるから先に戻ってて」
「え?」
どこへ? と、聞く間もなく、オキはひらひらと手を振りながら歩いて行ってしまった。
「オキ、どこに行ったのかしら。ほんと謎なやつよね」
「うーん」
リラーナも怪訝な顔をする。そうやって訝しむ私たちにヴァドが笑った。
「あいつはいつもフラフラしているからいつものことだろ。ま、大した用事じゃないだろうし、すぐに戻るだろ。とりあえず俺たちは帰るぞ」
ヴァドはなにか知っているんだろうか。なんとなくそんな気がしたけれど、聞いても教えてくれそうにない気がしたので、そのまま私たちは宿へと戻った。帰りの魔導車はヴァドとリラーナとイーザンの組み合わせになり、今度はヴァドがげっそりとしていたのが面白かった。
夜、夕食時にオキは何事もなかったかのように戻っていて、私たちはどこへ行っていたのか聞いたけれど、「あー、武器屋に行ってただけ」とそれだけ言って話は終わった。それなら一緒に向かえば良かったのに、となにやら疑問にもなったが、そこはもう深く考えないようにしよう。
そして翌朝、ついに王都を目指す!
宿の主人に挨拶を交わし、王都へ向かうために再び飛行艇へと乗り込む。到着したときの飛行艇とはまた違う飛行艇。操縦する獣人も違う人だ。しかし、やはりヴァドとは知り合いのようで、和やかに話している。
ザビーグを出発したときとは違い、今回は水面からの離水となる。それがなんだか不思議な感じ。まるで船に乗っているような感覚があるのに、そこから船とは全く違う速度で進む。そして物凄い水飛沫を上げながら、橋の下と潜り抜けると一気に空へと浮かび上がった。
何度見ても凄いわね、と皆で感心しながら、王都までの空の旅を満喫する。
「王都はザビーグからゼスドルへ向かうよりもさらに遠いから到着する頃には陽が暮れているだろうな」
「そうなのね。ということは、街は暗くて見えないかしら」
「いや、逆に圧巻かもしれないぞ?」
ニヤッとヴァドが笑った。
ザビーグからの空と同じく、飛行艇内で携帯食を齧りつつ、次第に夜になってくると、山に陽が沈む姿が見え美しかった。山並みや空は真っ赤に染まり、次第に吸い込まれるように山の後ろへと消えて行く。陽が沈むと空は次第に闇色と染まっていき、まだ微かに残る陽の光は山並みがまるで燃えているかのように揺らいでいた。
辺り一面が暗闇に包まれていくと、星空が見えてくる。それをうっとりと眺めていると、ヴァドが声を上げた。
「王都の街並みだ」
ヴァドが声を掛け、指差したほうへ向くと、暗闇のなかキラキラと煌めく場所が見えてくる。最初は一つの灯りなのかと思ったが、次第に近付いてくるとそれは多くの光の集合体だと気付く。
近付くにつれその光は数を増し、そしてどんどんと広範囲となっていく。とてつもない広さ、そして灯りの数。まるで宝石箱を覗いているかのような錯覚さえ起こしそうなほどの光。
「綺麗」
「アハハ、だから言っただろ?」
ヴァドがニッと笑う。
窓に貼り付き、眺めているとなにやら動く光を発見する。
「光が動いてる?」
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「あれが……」
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「そうか、窓から漏れている灯りね?」
ニッと笑うヴァドのその顔は肯定を示していた。列車はどこから走って来たのか、今の状態では分からないが、どうやら街の中心部に向かって走っているようだった。
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