【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第168話 監視報告

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「そういえば例のところへの連絡なんだけど。そろそろしておいたほうがいいかなーって思ってんだけどどうする?」

 オキが軽い感じで聞いてきたので、一瞬なんのことか分からなくなったが、ハッとし、皆の顔を見る。
 ディノもイーザンも真面目な顔となった。

「なんて報告するつもりなんだ?」

 イーザンがオキに聞いた。

「んー、ガルヴィオに渡ったことくらいは言わないと駄目だろうなぁ。後は適当になんとでもなるとは思うが」
「それさ、そのまま連絡せず放置していたらどうなるの?」
「ん?」

 わざわざこちらから連絡をする必要はないのでは、と思ったのだけど、そういう訳にはいかないのかしら。

「うーん、こちらから連絡をしないと、逆に怪しまれて向こうから連絡が来るな。以前一度だけ忘れて放置してたら怒られた」

 ハハハ、と笑いながら言う。

「んで、代わりの人間を寄越されそうになったから慌てて拒否ったけどな」

「ということは、やっぱり連絡はしないといけないのね……ガルヴィオに渡ったことが分かれば大聖堂にも連絡が行くかしら……」

 アシェルーダでも大聖堂で監禁された。同じことが起こらないとは限らない。可能性はあるはず。

「うーん、まあ行く可能性はあるだろうね。それはもう仕方ないよなぁ。俺があんたらに姿を現していなかったにしても同じだろうし」
「そうよね……」

 溜め息を吐くが、こればかりはどうしようもない。

「じゃあとりあえず俺たちの前で連絡しろ」

 ディノは真っ直ぐオキを見据え言った。

「あぁ、それは分かってるから心配すんな」

 オキはやれやれといった顔で手をひらひらとさせると、そこにヴァドが戻って来た。

「ん? 部屋の鍵をもらったんだが……なんかあったのか?」

 ヴァドが怪訝な顔をした。

「え、あ、いや、なんでもない」

 アハハ、と笑って見せたが、ヴァドは「?」と訝しんだままだった。
 私たちは鍵を受け取り部屋へと別れた。今回も二人ずつに分かれての部屋だ。

 部屋のなかも木造で出来ていて、なにもかもが可愛かった。ベッドも丸太を組んで出来ていて、机や椅子も全て丸太だ。出窓には花が飾られ、部屋のランプもなにやら可愛らしい形で、リラーナと二人ウキウキしたのは言うまでもない。

 夕食までは少し時間があったため、先程の連絡を行うため、私たちの部屋にディノとイーザン、そしてオキがやって来た。ヴァドは宿の主人と話しに行ったそうだ。
 ルギニアスは大きくなり私の横に立ち睨みを利かせている。そんなルギニアスにオキは苦笑した。

「さてと、じゃあいいか?」

 全員が頷くと、オキが例の魔導具を取り出し握る。そして手を開くと球体は光り出した。

『どうした』

 するとあのとき聞いた声が聞こえる。

 国王陛下……。

「えーっと、とりあえずの報告ですが、あいつらガルヴィオに渡りましたよ」
『!? どうやって!?』
「んー、なんかガルヴィオに知り合いがいたみたいっすねー」

 知り合いがいた、ってあんたじゃないのよ、と笑いそうになった。

「なので、今、俺もガルヴィオにいます」
『…………』
「もしもーし?」
『それで、その者たちはどこへ向かっている?』
「さあ? なんか観光を楽しんでるみたいですけどー?」

 観光って! ま、まあ全く嘘でもないけれど……思わず「プッ」と噴き出しそうになり、慌てて口を押えた。リラーナも笑いそうになったのか、私の肩をグイグイと揺らし、変な顔になっていた。

『その者たちが大聖堂に向かおうとしたら拘束しろ』

「「「「!?」」」」

 驚愕の顔になり思わず声を出しそうになると、オキは「しっ」と人差し指を自分の口の前に差し出した。

「大聖堂に向かったらですねー? 了解しましたー。ではー」

 そう言って通信を切った。

「ちょっと! 拘束って!」

 リラーナはオキに詰め寄る。オキは魔導具を片付けながら、まあまあ、と手をひらひらさせた。

「大聖堂に向かったら、だろ? とりあえず向かったにしろ、まずはヴァドに様子を伺ってもらえば良いんだよ。そっからどうするかはまた考えればいいだろ? どうせ拘束なんかしないんだし」

 うーん、と全員で考え込む。ルギニアスはひたすらオキを威嚇しているけど。

「まあ、とりあえず大聖堂には行ってみるしかないしな……今、考えても仕方ないか」

 うむ、とディノが考え込んだ挙句言葉にした。

「そうだね……オキがそもそも仲間ではなく、拘束を指示されていたにしても、ディノやイーザン、さらにはルギニアスもいるのに、拘束なんて無理あるしね」
「なんか、俺、馬鹿にされてる?」

 オキがブスッとした顔で拗ねるように言った。

「オキも凄いとは思うけど、ルギニアスには勝てないと思うし」

 しれっと言うと、はぁぁ、と盛大に溜め息を吐くオキ。

「そんな訳分からん奴と比べられてもな! 俺だって結構強いのに……」

 ブツブツとずっと文句を言っている。その姿におかしくなりクスッと笑った。

「まあ、やっぱり大聖堂を目指すことに変更はなしってことで」

 そう言うと、皆、頷き合ったのだった。



*********

☆次回更新2月26日の予定です。
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