【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第162話 温泉

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「地中からお湯が湧き出てるんだ。それを風呂にしてある。大浴場になっているから、広々として気持ちいいぞ?」

 リラーナと二人、顔を見合わせ、目を輝かせる。

「「行ってみたい!!」」
「ハハ、じゃあ行ってみるか」

 部屋に荷物を置き、風呂の準備だけを整え外へと向かう。まさかこの世界でリラーナと二人でお風呂に入ることが出来るとは。しかも温泉! わくわくしてきた!

 前世で温泉はないが、大浴場には行ったことがある。広いお風呂にはやはり解放感がある。この世界でのお風呂は基本的に小さい。汗を流せたら良いという考えのほうが強いからか、長風呂をして湯船に浸かるということはあまりない。私はやはり湯船にゆっくり浸かりたい派なので、他の人に比べたら長湯かもしれないけれどね。

 宿からしばらく歩くと、大きな建物が現れた。高さはなく、平屋のように一階部分だけのようだ。しかし、周りの建物と比べると圧倒的に敷地面積が広い。周りには多くの魔導ランプが等間隔に並び、とても明るい。
 正面の大きな扉からは夕食を終えた人々だろうか、何人もの人が出入りしている。

「大浴場というもの自体が少ないから、このザビーグの温泉は有名な観光地になっているな」

 ヴァドの説明に建物を見ながら、全員が「へぇぇ」となる。なかへと入ると、多くの人が賑わっているエントランスに、正面奥には受付のカウンターがあり、その両脇に扉があった。

 ヴァドが受付に声を掛け、やり取りを終えると私たちに振り向く。

「脱衣所には荷物を置く棚などもあるから、まあ行けば大体分かるだろ。男女別になっているから帰りはどうする? 待ってたほうが良ければエントランスで待っておくが」

 リラーナと二人で「うーん」と考え込むが、おそらく女性のほうが、時間がかかるだろうことは容易に想像がつくため、男性陣には先に戻ってもらうことにした。

 そうやって男女別れ、あ、ルギニアスは「風呂なんかいらない」と小さくなり鞄のなかで寝ているそう。浄化魔法でどうにでもなるからお風呂に興味は全くないらしい。入ってみたら良いのに、とブツブツ言ってみても、「いらん」の一点張りだった。

 リラーナと二人、脱衣所らしきところへと入り、荷物置き場となっている棚を探す。棚は多く並び、扉は魔力を送ると施錠出来る仕組みになっていた。もう一度同一人物の魔力を送ると解錠出来るらしいのだが、リラーナと二人でお風呂より先に興味津々となってしまう。

「これってどうやって個人を把握しているのかしらねぇ」
「そうだよね……魔力自体に違いはないと思っていたけれど、個々に魔力にも違いがあるのかも……?」

 うーん、と二人で話し合いながら、途中でハッとしお互い苦笑する。

「ブフッ。早くお風呂行こうか」
「アハハ、そうだね」

 リラーナと二人、笑い合い大浴場へと向かった。風呂場はとんでもなく広く、二人で興奮する。お互い一緒にお風呂へ入るという行為も初めてのため、なにやら緊張もしつつ、しかし全てが新鮮で楽しく過ごした。

 今までの疲れを取るように、温かい湯に広々と浸かり、思わず溜め息が漏れ笑い合う、ということを繰り返す。

 大浴場の奥には扉があり、そこには露天風呂までもがあった。石造りの広い湯船に、周りは塀で囲まれた露天風呂。

「すっごーい! 露天なんかあるんだ!」

 興奮したリラーナに、周りに数人いた獣人の女性たちが笑う。

「あんたたちアシェルーダの人かい? 露天風呂は初めて?」

 丸い耳をピコピコとさせた金色の毛並みの獣人女性が声を掛けて来た。

「あ、はい、アシェルーダから来ました。騒がしくしてすみません」

 リラーナは照れるように頭を掻き、その獣人女性に謝った。その女性は湯船に浸かりながら笑う。

「アハハ、謝らなくても大丈夫だよ。楽しんでもらえてガルヴィオの人間としても嬉しいしね!」

 女性が湯船の縁に寄りかかりながら言う。水面ではひょっこりと長い尻尾がちゃぷちゃぷと湯を搔いている。
 私たちも、と湯船に浸かりほっこりとする。空には星が見える。辺りが明るいため、海上で見上げたときよりは明らかに星は少ないが、それでもひんやりとした空気のなか、温かい湯に浸かり見上げる星空に癒された。

 一緒にいる獣人女性たちと和気あいあいと話し、やはり獣人は大らかで気さくな人が多いのだな、と実感する。ひとしきり露天も堪能し終え、風呂場を後にすると、外のエントランスではディノとイーザンが待っていた。

「あれ? ディノとイーザンは宿に戻らなかったの?」

 二人の元に向かいながら聞いた。

「あぁ、やっぱり女だけってのも危ないだろうしな。ヴァドとオキは先に帰ったが、俺たちが残っておいた。ま、ルギニアスがいるから大丈夫かもしれないがなー」

 そう言いながらハハッと笑うディノ。

「そっか、ありがとう」

 宿までの道中、前を歩くディノとイーザンとリラーナ。三人は露天風呂の話を楽しそうに話している。ヴァドとオキはいない。今なら言っても良いかもしれない、と決心する。

「ルギニアス」

 小さな声で鞄のなかのルギニアスに声を掛けた。

「なんだ」
「あのね……、私、みんなにルギニアスのことを正直に話そうかと思う……」

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