【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第158話 入国許可証

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「まあ俺の裸を見たいならなってやるけどな! アッハッハ」
「「!!」」

 あからさまにからかわれたことが分かり、私もリラーナもぷんすかと怒りましたよ。そこはね!
 まあまあ、と宥められつつ、ザビーグの街へ。


「とりあえず入国許可証だけ取りに行くぞー」
「入国許可証?」
「あぁ、俺たちがエルシュをうろつくのにも許可証をもらっているぞ。ガルヴィオにアシェルーダの人間が来たときには、同様に許可証を発行している」

 そう説明されながら港のすぐ傍に建てられた二階建ての建物に入って行った。建物のなかにはカウンターが並び、数人の獣人が受付として働いているようだった。

「ここは?」
「あぁ、ここは管理局だな。入国許可証の発行や、アシェルーダとのやり取りをする荷の確認をしたり、とかだな」
「へぇぇ」
「ちょっと待ってろ」

 そう言うとヴァドは建物内のカウンターへ向かい、受付の獣人に声を掛けていた。そしてなにやら軽いノリで話している雰囲気で、受付からなにかを受け取ると、手を振り挨拶をしながらこちらへと戻って来た。

「お待たせ。全員手を出せ」

 全員顔を見合わせ「?」となったが、言われるがままに手を出す。そして手の甲を見せろと言われる。
 ヴァドは先程受付から受け取ったなにやら紙切れのようなものを、私たちの手の甲に当てた。そしてヴァドが魔力を送ると、その紙切れからは魔法陣が青く光り出し、その魔法陣は手の甲へと移った。

「なにこれ!?」

 全員が驚いた顔となる。

「これが入国許可証だ」

 手の甲に移った魔法陣はしばらく発光していたかと思うと、その光が収まると魔法陣自体も消えた。

「消えた……」
「なにこれ、どうなってんの!?」

 リラーナが興奮気味に聞いた。

「魔法陣自体が許可証になっているから、もしどこかで素性などを問われたら、許可証があると言って手の甲を見せればいい。確認するための方法があるから、それでちゃんと許可持ちだということが証明出来るはずだ」
「凄いわね、エルシュの許可証も同じなの?」
「いや、エルシュでもらった許可証は木札みたいなやつだったな」

 ヴァドは顎に手をやり、思い出すように言った。

「なんだ、アシェルーダのほうが遅れてるわね! 同じ方法を取り入れたら良いのに」

 リラーナが悔しそうに言う。確かに木札よりは魔法陣のほうが進んでいる気はするかな、と苦笑する。皆も同様に思ったのか笑っていた。

「ハハハ、まあアシェルーダの人間がガルヴィオに来ることはほとんどないからな。この入国許可証のやり方を経験した人間自体が数人しかいないと思うぞ?」

 確かにそれならなかなかアシェルーダには広まらないかもしれない。そもそもこの方法をガルヴィオが教えてくれるとも思えないしね。

 そうやって全員分の許可証を手の甲に……ルギニアスはかなり嫌そうだったけれど。その作業を終えると、ザビーグの街を歩くのだった。



 ザビーグの街は背の高い獣人たちのためなのだろう、建物自体がアシェルーダよりも圧倒的に大きく高い。石造りなのは変わらないが、道幅も広く建物も大きい。全体的にとても広々とした大きな街という印象だ。

 気温もアシェルーダよりは肌寒く、上着を羽織っていないと辛そうだ。しかし獣人たちは寒さに強いと聞いていた通り、それほど厚着をしている人は見掛けない。皆、薄着で歩いているため、男性は屈強さが目立ち、女性はなにやら身体のラインがハッキリとしていて、ナイスバディなお綺麗な方たちが多い。

 ディノの目線が泳いでいるように見えるのは気のせいかしら……。

「ディノ、大丈夫?」

 別に責めるつもりで聞いた訳ではないのに、なぜかディノは慌てふためきたじろいだ。

「え!? なにが!? 大丈夫って大丈夫だけど!?」

 そんな姿にリラーナと二人で苦笑する。オキは予想通りというかなんというか、普通に楽しそうだし、イーザンはさすがというか相変わらずの無表情だし、ルギニアスに至っては「つまらん」といった顔。
 そんな男性陣のそれぞれの反応にヴァドは楽しそうに笑った。

「ディノはそういう店にでも連れてってやろうかー?」
「はぁ!? な、なに言ってんだ!!」

 ヴァドにからかわれ、顔を真っ赤にして怒るディノ。アハハハ……。

「ま、それは冗談にしても、獣人は女も力は強いから気を付けろよー? 下手に手を出すと、叩きのめされるぞ?」

 ワハハと笑いながら言われ、ディノは怒りっぱなしだ。不憫な。

「だ、誰が手を出すか!!」

 散々からかわれた挙句、憐れむようにオキとイーザンに肩をポンと叩かれたのだった。

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