【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第143話 尾行の男

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「誰だ!?」

 ディノとイーザンは剣の柄に手を掛けると、私とリラーナを庇うように前へと踏み出した。ルギニアスも私の肩に乗りながら警戒をしてくれているのが分かる。

 その男は黒いマントを着込み、フードで顔が見えなかった。背はディノやイーザンと同じくらいだろうか。

「ハハ、さすがだな、俺の気配に気付いていたか」

 そう言いながらその男はフードを取った。

「貴方と同じ人なのかは知らないけれど、ずっと昔から私のことを見張っていたわよね?」

 そう言葉にすると、ディノとイーザンが驚いた顔で私を見た。リラーナも「え? あのときの!?」と小さく呟くと、心配そうに私の腕を掴む。
 心配するリラーナに「大丈夫」と笑って見せ、ディノとイーザンにも「大丈夫だから」と前へと進んだ。

 ディノとイーザンは警戒したままそれを見守ってくれる。

「あー、やっぱバレてたのかぁ。魔石か?」
「えぇ」
「魔石精製師ってのは凄いんだな。気配を殺しても意味ないじゃないか」

 そう言ってアハハと笑うその男。歳はイーザンと同じくらいかしら。青年といった感じね。短く赤い髪に茶色い瞳。左頬に傷がある……。軽い雰囲気にどうにも気が抜ける。裏の世界の人間とは思えない。

「なんで今さら姿を見せたの? 今までずっと見張っているだけで近付いては来なかったじゃない……それに……なんであのとき私を助けたの?」
「「「!?」」」

 ディノたちが驚いて私を見る。

「あのときってまさか獣に襲われたときのことか!? あの暗器のやつか! 助けたのってこいつなのか!?」

 矢継ぎ早に問われ苦笑する。

「そうでしょ? あの毒針、貴方のよね?」
「あー、ハハ、なにもかもバレバレか。裏界隈ではそれなりに活躍してたのに、あんたのおかげで自分が無能になったような気がするな」

 そう言いながらハハと笑う男。本当に気が抜ける。なんなのよ一体。

「まあ助けたのは気まぐれ? 死んだら死んだで構わなかったんだがなー」

 あからさまにディノとイーザンから怒気を感じた。剣の柄を握る手に力を込めたことが分かった。そんな二人をにこりと制し、男を真っ直ぐ見据える。

「最初に殺そうとしていたものね」

 その言葉にディノはあのときのことを思い出したかのような顔。リラーナは驚愕の顔をしていた。

「いや、あれは別に殺そうとしていた訳ではないんだけどなー。連れて来いって言われただけだったし。まあ死んでも構わないとは言われていたけど」

「お、お前!!」

 ディノがあからさまに怒りを向けた。そんなディノをなんとか制しながら話を続ける。あのときのことはもう今さらどうでもいい。あれから襲って来たことは一度もないし。

「それで? 姿を現した理由は?」

 もう何年もずっと見張っているだけだった。今さら姿を現す理由が分からない。今一番気になるのはこれだ。

「んー、飽きたから?」

「「「「はっ!?」」」」

 飄々と言うその言葉に全員唖然とした。

「ハハ、まあそれは冗談として……いやまあ、飽きたのも本当か」

 ふむ、と顎に手をやり考え込むふりをしている。
 な、なんかイラッとするわね。ディノたちもそう思ったのか、明らかに苛つき睨んでいる。

「ただずっと見張っているだけってのも大変なんだぞ? なにもするな、とか言われても、性に合わないんだよ。つまらんし飽きるし……」

 ブツブツ言いながら男は近くにあった石柵の上にひょいっと座った。

「あんたらガルヴィオに渡りたいんだろ?」

 ニッと笑って聞いてきた。
 その言葉を聞き、私たちは顔を見合わせた。そしてディノが警戒しながら聞く。

「だからなんだ?」

 剣の柄を握る手は離さないまま、睨みつつ男に聞いた。男はその睨みに臆することもなく、相変わらずの飄々としたまま答える。

「俺を仲間にしたらガルヴィオの船に乗れるかもよ?」

「「「「はっ!?」」」」

 全員が唖然とした。な、なに言ってんの、この人!? 仲間!? なんで自分を見張っていた人間と仲間にならないといけないのよ! 何者かも誰の命令なのかも分からないのに! 意味が分からない!

「なんのつもりだ? 俺たちがそれを聞いたからといってすんなり仲間にする訳ないだろう」
「まあそうだろうな」

 ハハハと笑う男。うーん、と考え込んだふりをした男は胸元に手を入れなにかを取り出した。ディノとイーザンは臨戦態勢に入ったが、男は片手をひらひらとさせ笑った。

「あー、そんな警戒すんな、武器じゃない」

 そう言って取り出したものはなにやら掌に乗るほどの大きさの魔導具だった。

「あ、これ……」
「やっぱこれの気配を感知されてたのかー。あのおっさんのせいじゃないか。チッ」

 そうブツブツと不満そうにする男は私たちに見えるようにそれを掌に乗せた。その魔導具は小さな魔石が中心に埋め込まれてあり、その周りには魔石を守るように透明の球体が取り囲んでいた。中にある魔石は光を反射しキラリと輝いているが、周りの球体がさらに複雑に反射させている。それ自体は綺麗な魔導具だが……。

 その魔石は昔からずっと気配を感じていた魔石。魔導具としては初めて見る。なんの魔導具なのかしら……。リラーナもどうやら見たことがないのか、怪訝な顔をしている。

「それが一体なんなんだ」

 ディノが問い掛けたその言葉に、男はニヤッと笑った。

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