【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
145 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第142話 ガルヴィオの特性

しおりを挟む
 もふもふ……触りたい……と思ってしまい、つい視線が下に……。

「あれは今から修理が始まるからな。危ないから近付くな」

 銀髪の獣人がそう言うと、何人かの獣人が飛行艇の周りに集まって来た。船着き場に置かれた飛行艇は獣人たちによって持ち上げられ、大きな台のようなものを何ヶ所かに設置されると、飛行艇の腹の部分が見えるようになった。
 そして船に常備されてあるのか、修理用の工具らしきものを持った獣人たちがさらに現れ、修理箇所を確認しつつ作業を開始していった。

「おぉ、スゲーな」
「うはぁ、近くで見たいぃ」

 リラーナが近付きたくてうずうずしている。銀髪の獣人はその姿を見て笑った。

「ハハ、そんなに気になるのか」
「えぇ!」

 ぐりんと獣人に振り向いたリラーナが力一杯頷いた。それを見た全員一斉に笑う。

「ハッハッハッ!! そんなに気になるなら見ていても良いが、あまり近付くなよ?」
「それはやっぱり内部構造を見られたら駄目だから?」

 リラーナはおずおずと聞いた。船にしろ飛行艇にしろ、ガルヴィオ独自の技術があるはずだ。それを他国の人間には見せられない、というのは当然だと思う。

「ん? いや、別にそれは気にしない。ただ単に本当に危ないからだ」

 そう言いながらハハハと笑う獣人。

「そうなの? え、じゃあ、邪魔しない程度に離れたところからなら内部構造とか見ても良いの!?」

 リラーナが前のめりに聞いた。

「あぁ、別にいいぞ。見られたところでアシェルーダでは造れないだろうしな」

 そう言って意味深にニッと笑う。え、なにそれ、内部構造を見たにしてもアシェルーダでは造れないって……。

「え、なんで!? ガルヴィオにしかない素材を使っているとか!?」
「さあなぁ」

 フフフと意味深な笑顔を浮かべたまま、その獣人はひらひらと手を振り、そのまま飛行艇のほうへと向かってしまった。

「えー、なんなのよ! その中途半端な情報!! 余計気になるー!!」
「まあまあ」

 興奮するリラーナを苦笑しながら全員で宥める。遠目に先程の獣人がなにやらこちらに視線を寄越し、他の獣人に教えるような仕草で笑っていた。私たちが修理を見学していることを伝えたのかしら。

 そんな姿を眺めていたら、その獣人は他の獣人に手を振り、「任せた」といった仕草をしたと思うと……

「「「「!?」」」」

 飛行艇が置かれた船着き場から一気に大きく跳躍したかと思うと、とんでもない高さまで一瞬に到達し、そのままガルヴィオの船へと乗り込んだ。

「はっ!?」
「えっ!?」
「な、なんつー跳躍だよ……」
「あの巨体で、あの跳躍……獣人の身体能力が半端ないらしい、とは聞いたことがあるが、まさかあんなに軽々と跳躍するとはな」

 全員が茫然とした。

「獣人って物づくりが得意なだけじゃなかったのね……」
「あ、あぁ。基本的に知られているのは物づくりが得意だということだが、獣人はやはり獣と同様で身体能力も高いらしいぞ。その分魔法は得意じゃないらしいがな」

 ディノが茫然としながら言った言葉にイーザンが続く。

「しかし魔法が得意じゃない分、工夫を凝らすようになって変わった魔法や魔力で物を造っているらしいが……」
「それで物づくりが得意って言われるように?」
「あぁ」
「「へぇぇ」」

 リラーナと二人で感心し、改めて獣人たちに視線を送る。先程の銀髪の獣人が物凄い跳躍で船に戻ったあとも、他の獣人はなにもなかったかのように、淡々と飛行艇の修理を続けていた。


 結局、半日修理を眺めていたが、やはりあまり近付くことが出来ないため、リラーナが満足するほどには内部構造を見ることは出来なかった。

「あー、もっと内部を見たかったわ」
「アハハ、まあ仕方ないよね」
「ガルヴィオに行けたなら見放題だろ」

 ハッとした顔になったリラーナと顔を見合わせ笑い合った。

「うん、そうよね。早くガルヴィオに行く方法を考えないとね!」
「なんか目的が変わってるぞー」

 そう言って笑ったディノ。

「良いじゃない、リラーナにも夢があるんだしね」
「ルーサァ!」

 なにも私のためだけのガルヴィオ行きじゃない。皆、色々目的があったほうが私も気負わなくて済むし、私だってガルヴィオのそういった技術は気になる。
 リラーナは甘えるように私に抱き付いてきた。アハハと二人で笑い合っていると、呆れたようにディノとイーザンも笑っていた。

 そのとき鞄からひょこっと出て来たルギニアスが私の耳元で呟いた。

「なぜかは知らんが近付いて来てるぞ」
「ルギニアス……」

 言われて周りの気配を感知すると、いつものあの魔石の気配を感じる。しかもいつもより近い。徐々にこちらに近付いて来ている!? な、なんで!?

 慌ててリラーナの身体を離し、周りをきょろきょろと見回す。

「ルーサ? どうした?」

 その行動に全員が疑問の顔となっていた。ディノもイーザンも気付いていない。ということはやはり裏の世界の者ってこと? 普通の人間の気配ならば、こちらを意識して近付いて来る相手にディノとイーザンが気付かないとは思えない。

 気配が明らかにいつもより近い! ガバッと振り向き、気配のある方向を睨む。そして徐々にその気配が間近へ迫ったとき、一人の男が姿を現した……。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...