【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
130 / 247
第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編

第127話 違和感

しおりを挟む
「色々辛いことを思い出させてごめんね。今、エナはどうしているの?」

 エナは私の手を両手で握り締め、首を横に振った。

「お嬢様とお会いすることが出来て本当に良かったです」

 そう言ってにこりと微笑んだ。

「私と夫はここルバード出身なのです。ですので、こちらに戻って参りました。先程のお店は夫の弟の店なのです。私たちが職を失ったという話を聞いて、店を手伝わないかと言ってくれて……」

 エナの旦那さんはローグ家で同じように働いていた。確か料理人として働いていたはず。

「旦那さんは?」

「夫は今ルバードの食事処で料理人として働いております。ですので、二人ともちゃんと生活出来ております」

 だから心配するな、とそう言ってくれているのが分かった。エナたち夫婦には子供はいなかった。だから二人で生活するには十分なのだ、と笑っていた。

 懐かしい話やこれからの話など、様々な話を長々としてしまい、さすがにもう戻らねば、と店まで戻る。

 店主にお礼を言い、その人がエナの旦那さんの弟であると紹介をされた。そして色々店のおススメなどを聞いて保存食を購入し、店を出るとき、エナと抱き締め合った。

「お嬢様、ご無理はされませんように。お身体にお気をつけて」

「うん、エナもね……いつかまた……」

 いつかまた必ず迎えに来るから……そう言いたかったが、それを言葉にすることは出来なかった。確実なものはなにもない。約束出来るはずがない。期待だけさせて待たせる訳にはいかない。だから……今はなにも言えない。

 その私の複雑な想いが分かったのか、エナは優しく微笑んだ。そしてそっと私の頬を両手で包み、

「お嬢様が望む道を進むことが出来ますように……アシェリアンのご加護を」

 祈るように目を瞑ったエナは私と額を合わせ呟いた。エナの手は暖かく優しいものだった。


 笑顔で手を振りエナと別れた。


「まさかこんなところでルーサの両親のことが分かるとはな」

 ディノが宿に戻る道中口にした。

「うん、私もまさかエナに会えるとは思わなかった」

「でも結局さらに謎が深まった感じ?」

 リラーナが首を傾げながら言う。

「うん……、当時の状況は分かったけれど、お父様がどうして爵位返上したのか理由は分からなかったし……そもそもお父様の意思で爵位返上したのかも疑わしい……」

「慌てて領地へ帰り、そして慌ててどこかへ出発した。そして国からの通達も異例の早さ……なにもかもが通常とはなにか異なる……明らかになにかがおかしいな」

 イーザンも怪訝な顔だ。

 ルギニアスはエナの話の間ずっと黙って聞いていた。お母様が聖女であるということは、屋敷の皆は知らなかったようだ。ルギニアスの話では結界に行ったのでは、ということだった。しかしエナたちはなにも知らなかった。

 娘の私にも、屋敷の人間にも、ずっと内緒だった『聖女』。ルギニアスの言葉を完全に信じるにはまだ決定的な根拠がないのだが、サクラの記憶に残るお母さん、そして紫の魔石、魔王であるルギニアス、そして初代聖女……それらのことはルギニアスの話を信じられた。だからきっと現在のお母様のことも本当なのだろう、そう思えた。

 今のこの世では聖女は謎に包まれている。初代聖女は書物に残っていたりはするが、それ以降代々聖女が結界守護のために現れているらしい、ということ以外、ほとんど知られていない。

 どこの誰が聖女なのか、何年間聖女として存在しているのか、どうやって代替わりをしているのか、全くなにも分からない。

 なぜこれほどまでに聖女の情報がないのか。それが謎だった。国からの通達があったということは、国はお母様が聖女であることは認識している、ということかしら。それとも本当にお父様が慌てて爵位返上しただけなのかしら。でも領地に戻って来るつもりだったはず……。

「明らかに色々と不明なことが多過ぎるが……爵位返上の面からしても国が全くなにも知らない、ということはないだろうな」

 イーザンが言葉を続けた。それにディノも頷く。

「あぁ。爵位返上をローグ伯爵自身がしたにしろ、なにか理由を伝えているかもしれないしな」

「うん……」

「じゃあアシェリアンの神殿と国の上層部の誰かから話を聞けたら一番だけど……」

「「「…………」」」

 リラーナの言葉に全員が無言となった。

「ア、ハハ……アシェリアンの神殿はともかく、国の上層部って……無理あるよなぁ」

「だよね……」

 全員溜め息を吐く。



 その夜ベッドで横たわり色々考えを巡らせていたが、どうやってもやはりお父様の行動の理由が分からない。戻るつもりだったのなら、国から無理矢理に爵位返上をさせられたとしか思えない。でもなんのために? そうだとしても爵位返上をさせる理由が分からないのよね。

 私を置いて行った理由も分からないし、なにもかも急な行動だったかのような違和感。私の神託をきっかけになにかが動き出してしまったのか……。

 やはり私のせいなのだろうか……。

 そんな思いが心に重くのしかかり不安になる。枕元に背を向け横になっているルギニアスの背中を見詰める。ルギニアスもずっとなにかを考えているようだった……。



*********

☆更新のお知らせです。

いつもお読みくださる皆様、ありがとうございます!
年末年始の更新についてですが、バタバタしておりましてストックを執筆出来ない状態のため、しばらく更新をお休みさせていただきます。
いつも最新話で読んでくださる皆様には申し訳ございませんがご了承ください。

年末は明日12月26日まで更新、年始は1月9日から再開致します。

よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...