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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第124話 薬屋
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ディノとイーザンが魔物の子を埋葬してくれ、四人で祈りを捧げ、私たちは洞窟を後にした。
ルバードに戻ると私たちは宿の女将さんに「森にはなにもいなかった」と報告した。しかし今後、魔獣や魔蟲が出てきそうだから警戒したほうが良い、と伝えると、どうやら以前は魔獣や魔蟲もいた森らしい。
「それほど強くはない魔獣たちだったから、街の人間でも対処出来たんだよ。でも魔物騒動があってからはなぜか全く魔獣たちの姿を見掛けなくなってねぇ」
そう言って首を傾げた女将さんだったが、「魔物はいない」という言葉に安心したようで、笑顔で報酬を手渡してくれた。
おそらくあの魔物がいたことで、魔獣たちは警戒し、あの森から離れたのではないか、というイーザンの見解で皆が納得した。
私たちは出発を翌朝に変更し、今日はそのままルバードにもう一泊することになった。女将さんがお礼にと報酬とは別に、宿代を無償にしてくれたのだ。
「てなことで、せっかくだし物資補給でもしておくか」
特になにかが減ったりはないのだが、なにか目新しいものはないかと街をうろうろと散策してみることになった。
ルバードはエルシュまでの行路途中にあるため、店自体はそれなりにあるのだが、武器や防具といったものを売る店は少なかった。それよりも圧倒的に保存食屋や回復薬を売っている薬屋などが多いようだ。
薬屋に入ってみると、店のなかは薄暗く、窓がない。不思議な匂いが漂い、壁一面に瓶がたくさん並んでいる。瓶のなかには薬草だろうか、形や色の違う草がそれぞれに入っていた。
「いらっしゃいませ、なにをお探しですか?」
店主らしき人が、カウンターのなかから声を掛ける。私たちよりは年上だろうか、落ち着いた男の人。カウンターの足元も棚になってあり、同じく草の入った瓶が並んでいた。
「いやぁ、どんなものが置いてあるかな、って思ってな」
「どんなもの……そうですね、よくある回復薬に毒消しに、傷薬や頭痛薬。変わり種としましては精力剤とかもありますが」
ん? 精力剤?
「は? せ、精力剤って! ちょ、ちょっと!」
ディノが急にあわあわし出し、挙動不審になった。リラーナと二人でキョトンとしていると、イーザンが呆れたように溜め息を吐く。
「精力剤……疲労回復薬だ」
ディノの肩にポンと手を置いたイーザンは憐れむような視線をディノに投げかけた。
「え、あ、ハハ、そうそう、疲労回復薬!」
そんなディノを見ながら店主はクスクス笑っていた。ディノは顔を真っ赤にしながらなにやら店主に小声で怒っている。店主は「すみません」とか言いながら、顔は笑っているから、なんだかよく分からないけれど、なにか店主がわざとディノをからかったってことか……か、可哀想に……。
「冗談はさておき……」
そう言って店主が背後の棚から出してきた小瓶。キラキラと緑色に煌めく砂?
「なんだこれ? 砂?」
ディノがその小瓶を手に取り、店内の僅かな灯りに翳して覗き見る。同じように全員がそれを覗き見ると、その砂のようなものはさらさらとしているのか、揺らす度に小瓶のなかで波打っていた。
「綺麗」
「うん、緑色の砂なんて初めて見た」
リラーナと二人でうっとりとそれを眺めていると、店主が説明をしてくれる。
「これは砂ではありません。ある薬草を粉々に砕いたものなのです。その薬草に魔力付与してもらっています」
「薬草に魔力付与?」
「えぇ。回復薬などにも魔力付与は施されておりますが、こちらも同様に薬草の加工段階で魔力付与をしております。この薬は風系の魔力を」
「それで緑色なのか、で、なにに使う薬なんだ?」
「こちらは少しの時間だけですが、姿を消す作用がございます」
「「「「姿を消す!?」」」」
全員が驚いた顔をした。
「頭からこの薬をふりかけますと、風魔法が発動し、ふりかけた周辺を歪ませ、他人の視覚を惑わせます」
「なるほど、それで少しの間、他人から認識されなくなる訳か」
イーザンが納得したようだ。姿を消すことが出来るなんて凄いわね。
「へぇ、面白いな! ひと瓶もらっていくか!」
ディノは完全に面白半分といった感じだったが、しかし確かになにかに役立つかもしれない。ディノは店主に料金を支払い、他にも回復薬などを購入し薬屋を後にした。
その後、保存食屋にも行ってみるか、ということで店に入ったとき、まさかの人物に出逢うこととなった。
店の扉を開け、なかへと入った私たちを接客してくれようと店員が近付いて来た。それに振り向き顔を見ると、そこには見覚えのある顔が……。遠い記憶、それはまだ私が伯爵令嬢だった頃、ずっと私の傍にいてくれた……
「…………エ、エナ?」
ルバードに戻ると私たちは宿の女将さんに「森にはなにもいなかった」と報告した。しかし今後、魔獣や魔蟲が出てきそうだから警戒したほうが良い、と伝えると、どうやら以前は魔獣や魔蟲もいた森らしい。
「それほど強くはない魔獣たちだったから、街の人間でも対処出来たんだよ。でも魔物騒動があってからはなぜか全く魔獣たちの姿を見掛けなくなってねぇ」
そう言って首を傾げた女将さんだったが、「魔物はいない」という言葉に安心したようで、笑顔で報酬を手渡してくれた。
おそらくあの魔物がいたことで、魔獣たちは警戒し、あの森から離れたのではないか、というイーザンの見解で皆が納得した。
私たちは出発を翌朝に変更し、今日はそのままルバードにもう一泊することになった。女将さんがお礼にと報酬とは別に、宿代を無償にしてくれたのだ。
「てなことで、せっかくだし物資補給でもしておくか」
特になにかが減ったりはないのだが、なにか目新しいものはないかと街をうろうろと散策してみることになった。
ルバードはエルシュまでの行路途中にあるため、店自体はそれなりにあるのだが、武器や防具といったものを売る店は少なかった。それよりも圧倒的に保存食屋や回復薬を売っている薬屋などが多いようだ。
薬屋に入ってみると、店のなかは薄暗く、窓がない。不思議な匂いが漂い、壁一面に瓶がたくさん並んでいる。瓶のなかには薬草だろうか、形や色の違う草がそれぞれに入っていた。
「いらっしゃいませ、なにをお探しですか?」
店主らしき人が、カウンターのなかから声を掛ける。私たちよりは年上だろうか、落ち着いた男の人。カウンターの足元も棚になってあり、同じく草の入った瓶が並んでいた。
「いやぁ、どんなものが置いてあるかな、って思ってな」
「どんなもの……そうですね、よくある回復薬に毒消しに、傷薬や頭痛薬。変わり種としましては精力剤とかもありますが」
ん? 精力剤?
「は? せ、精力剤って! ちょ、ちょっと!」
ディノが急にあわあわし出し、挙動不審になった。リラーナと二人でキョトンとしていると、イーザンが呆れたように溜め息を吐く。
「精力剤……疲労回復薬だ」
ディノの肩にポンと手を置いたイーザンは憐れむような視線をディノに投げかけた。
「え、あ、ハハ、そうそう、疲労回復薬!」
そんなディノを見ながら店主はクスクス笑っていた。ディノは顔を真っ赤にしながらなにやら店主に小声で怒っている。店主は「すみません」とか言いながら、顔は笑っているから、なんだかよく分からないけれど、なにか店主がわざとディノをからかったってことか……か、可哀想に……。
「冗談はさておき……」
そう言って店主が背後の棚から出してきた小瓶。キラキラと緑色に煌めく砂?
「なんだこれ? 砂?」
ディノがその小瓶を手に取り、店内の僅かな灯りに翳して覗き見る。同じように全員がそれを覗き見ると、その砂のようなものはさらさらとしているのか、揺らす度に小瓶のなかで波打っていた。
「綺麗」
「うん、緑色の砂なんて初めて見た」
リラーナと二人でうっとりとそれを眺めていると、店主が説明をしてくれる。
「これは砂ではありません。ある薬草を粉々に砕いたものなのです。その薬草に魔力付与してもらっています」
「薬草に魔力付与?」
「えぇ。回復薬などにも魔力付与は施されておりますが、こちらも同様に薬草の加工段階で魔力付与をしております。この薬は風系の魔力を」
「それで緑色なのか、で、なにに使う薬なんだ?」
「こちらは少しの時間だけですが、姿を消す作用がございます」
「「「「姿を消す!?」」」」
全員が驚いた顔をした。
「頭からこの薬をふりかけますと、風魔法が発動し、ふりかけた周辺を歪ませ、他人の視覚を惑わせます」
「なるほど、それで少しの間、他人から認識されなくなる訳か」
イーザンが納得したようだ。姿を消すことが出来るなんて凄いわね。
「へぇ、面白いな! ひと瓶もらっていくか!」
ディノは完全に面白半分といった感じだったが、しかし確かになにかに役立つかもしれない。ディノは店主に料金を支払い、他にも回復薬などを購入し薬屋を後にした。
その後、保存食屋にも行ってみるか、ということで店に入ったとき、まさかの人物に出逢うこととなった。
店の扉を開け、なかへと入った私たちを接客してくれようと店員が近付いて来た。それに振り向き顔を見ると、そこには見覚えのある顔が……。遠い記憶、それはまだ私が伯爵令嬢だった頃、ずっと私の傍にいてくれた……
「…………エ、エナ?」
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