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第3章《試験》編
第116話 脱出
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ど、どうしよう……どうやって脱出……きっとルギニアスに扉を壊してもらったらすぐに脱出は出来るよね。でもあまり派手に逃げ出して追いかけられたりしたら、明らかにダラスさんに迷惑がかかる。
「夜、寝静まってからこっそりと抜け出す……?」
そのために静かに扉を壊せないか、とルギニアスに振り向くと、入り口に置いてあったはずの夕食を机の上に置いてすでに一人で食べていた。
「ちょっと!! なに一人で食べてんのよ!!」
「ん?」
私だってお腹空いたんだから!! って、いや、違う、いや、違わないけど、今はそれどころじゃない。
仕方がないので椅子に座り、一人分の夕食を分け合った。パンとスープだけの質素な夕食は二人で分けるとあっという間に終わり、余計にお腹が空きそうだった。
「で、どうするって?」
ちんちくりんのままベッドに寝そべったルギニアスはそのまま寝てしまいそうな勢いであくびをしながら聞いた。
「夜、大聖堂にいる人たちが寝静まったときに、静かに扉を壊せない? それで脱出を」
「静かに……」
「派手にはやめてね」
「…………」
「返事は?」
明らかに不服そうな顔のルギニアスに念を押す。絶対「めんどくさい」とか言い出して、建物ごと吹っ飛ばしそうだから、ここはなんとか止めないと。
ちんちくりんな身体を鷲掴みし、目の前に持ち上げ、じぃっと目を合わせ、圧を掛けた。
「へ、ん、じ、は!?」
「チッ、分かった」
めちゃくちゃ嫌そうな顔のルギニアスに笑いそうになるが、心を落ち着けにこりと微笑む。
「ありがとう」
窓もなにもない部屋、時計すらないため時間が分からない。しかし、遠くに聞こえていた喧騒が次第に聞こえなくなって来る。大聖堂のなかも一時人の気配を多く感じたかと思うと、時間と共に静まり返って来た。
扉に耳をあて外の気配を探ってみても、人が歩いている気配は感じない。もうそろそろ大丈夫かしら。
きっとダラスさんもリラーナも心配しているだろうなぁ、と焦る気持ちを抑えつつ、ルギニアスに頼もうと振り向く。
「ルギニアス、そろそろお願い……」
振り向くとちんちくりんルギニアスはベッドの上で気持ち良さそうに眠っていた……。
「ちょっと!! 私だって眠いんだからね!! ちょっとくらい我慢しなさいよ!!」
むんずと掴んだルギニアスをぶんぶんと前後に揺らした。
首をがっくんがっくんしながら、ハッと起きたルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。掴んでいたはずの物体が突然大きくなったものだから、慌てて手を離すと後ろにひっくり返りそうになり、大きくなったルギニアスに抱き止められた。
大きな手で背中をしっかりと支えられドキリとしたが、その瞬間のルギニアスの発言にそんなドキリは消し飛んだ。
「お前な!! 振り回すな!! 酔うだろうが!!」
「…………台無し」
「は!?」
せっかくかっこいい仕草だと思ったのに。かっこいい男性に颯爽と背中を支えられ助けられるなんて、まるで物語の王子様みたいじゃない、とか思ったのに。
ルギニアスは「なに言ってんだ!?」といった顔。ま、今はそれどころではない。
「寝てないで、扉開けて」
なにか魔導具でも持ち合わせていたら自力でも開けられたかもしれないのにな、と普段からなにか道具を持ち歩いておこうと誓ったのでした。
あまりに冷静な顔で言ったからか、ルギニアスは一瞬たじろぎ、小さく溜め息を吐くと扉に近付いた。
ルギニアスは扉のノブに手を掛ける。
「どうするの? し、静かにね!」
「分かっている」
ルギニアスはノブを掴んだまま動かない。その様子を背後からじっと見詰めていると……
「!?」
ルギニアスの手がぼんやり揺らいだかと思うと、小さく光っていた。そして掴んでいたノブを一瞬にして溶かしたのだった。
ルギニアスが手を離すと、ノブがあった位置にはぽっかりと穴が開いていた。
「す、凄い……溶かしたの?」
「あぁ」
ノブを失った扉は手で押すと簡単に開いた。キィッと音を立てながら開いた扉に若干ビクッとしながら、扉の隙間から外の様子を確認する。予想通り誰もいない。暗い廊下にひと気はなく、他の扉内には人がいそうな気配を感じはするが、皆眠っているのか静寂が広がっていた。
「よし、大丈夫そう……行こう」
物音を立てないよう息を潜めつつ廊下を歩く。礼拝堂のランプはすでに落とされ、暗く月の光だけが窓から差し込む。見回りの司祭だろうか、ランプを持った人影が見える。柱の陰に隠れ、息を潜める。
「蹴散らせば良いものを」
「しっ!!」
背後でふんぞり返っているルギニアスにイラッとする。出来るだけ目立たず抜け出したいって言ってるでしょうが! と怒鳴りそうになるが我慢だ。
幸い扉はルギニアスのおかげで、一見何事もなかったかのように見えるはず。ノブのところに穴が開いているだけ。しばらくは気付かれないはず。
気配がなくなると急いで大聖堂を抜け出た。良かったと安堵したと同時に、なにやら大聖堂のなかが騒がしくなってきた。ガヤガヤと人の声がする。
え、もう気付かれた!? さっきの見回りの司祭が扉を見付けたのかしら……いや、今はそんなことはどうでもいい! 早く逃げないと!
大聖堂から抜け出したは良いものの、城の周りには城壁がある。門には門兵が……どうやって門兵に言い訳を……と考えていると、ルギニアスがおもむろに私の腰を両手で掴んだかと思うと肩に担ぎ上げた。
「夜、寝静まってからこっそりと抜け出す……?」
そのために静かに扉を壊せないか、とルギニアスに振り向くと、入り口に置いてあったはずの夕食を机の上に置いてすでに一人で食べていた。
「ちょっと!! なに一人で食べてんのよ!!」
「ん?」
私だってお腹空いたんだから!! って、いや、違う、いや、違わないけど、今はそれどころじゃない。
仕方がないので椅子に座り、一人分の夕食を分け合った。パンとスープだけの質素な夕食は二人で分けるとあっという間に終わり、余計にお腹が空きそうだった。
「で、どうするって?」
ちんちくりんのままベッドに寝そべったルギニアスはそのまま寝てしまいそうな勢いであくびをしながら聞いた。
「夜、大聖堂にいる人たちが寝静まったときに、静かに扉を壊せない? それで脱出を」
「静かに……」
「派手にはやめてね」
「…………」
「返事は?」
明らかに不服そうな顔のルギニアスに念を押す。絶対「めんどくさい」とか言い出して、建物ごと吹っ飛ばしそうだから、ここはなんとか止めないと。
ちんちくりんな身体を鷲掴みし、目の前に持ち上げ、じぃっと目を合わせ、圧を掛けた。
「へ、ん、じ、は!?」
「チッ、分かった」
めちゃくちゃ嫌そうな顔のルギニアスに笑いそうになるが、心を落ち着けにこりと微笑む。
「ありがとう」
窓もなにもない部屋、時計すらないため時間が分からない。しかし、遠くに聞こえていた喧騒が次第に聞こえなくなって来る。大聖堂のなかも一時人の気配を多く感じたかと思うと、時間と共に静まり返って来た。
扉に耳をあて外の気配を探ってみても、人が歩いている気配は感じない。もうそろそろ大丈夫かしら。
きっとダラスさんもリラーナも心配しているだろうなぁ、と焦る気持ちを抑えつつ、ルギニアスに頼もうと振り向く。
「ルギニアス、そろそろお願い……」
振り向くとちんちくりんルギニアスはベッドの上で気持ち良さそうに眠っていた……。
「ちょっと!! 私だって眠いんだからね!! ちょっとくらい我慢しなさいよ!!」
むんずと掴んだルギニアスをぶんぶんと前後に揺らした。
首をがっくんがっくんしながら、ハッと起きたルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。掴んでいたはずの物体が突然大きくなったものだから、慌てて手を離すと後ろにひっくり返りそうになり、大きくなったルギニアスに抱き止められた。
大きな手で背中をしっかりと支えられドキリとしたが、その瞬間のルギニアスの発言にそんなドキリは消し飛んだ。
「お前な!! 振り回すな!! 酔うだろうが!!」
「…………台無し」
「は!?」
せっかくかっこいい仕草だと思ったのに。かっこいい男性に颯爽と背中を支えられ助けられるなんて、まるで物語の王子様みたいじゃない、とか思ったのに。
ルギニアスは「なに言ってんだ!?」といった顔。ま、今はそれどころではない。
「寝てないで、扉開けて」
なにか魔導具でも持ち合わせていたら自力でも開けられたかもしれないのにな、と普段からなにか道具を持ち歩いておこうと誓ったのでした。
あまりに冷静な顔で言ったからか、ルギニアスは一瞬たじろぎ、小さく溜め息を吐くと扉に近付いた。
ルギニアスは扉のノブに手を掛ける。
「どうするの? し、静かにね!」
「分かっている」
ルギニアスはノブを掴んだまま動かない。その様子を背後からじっと見詰めていると……
「!?」
ルギニアスの手がぼんやり揺らいだかと思うと、小さく光っていた。そして掴んでいたノブを一瞬にして溶かしたのだった。
ルギニアスが手を離すと、ノブがあった位置にはぽっかりと穴が開いていた。
「す、凄い……溶かしたの?」
「あぁ」
ノブを失った扉は手で押すと簡単に開いた。キィッと音を立てながら開いた扉に若干ビクッとしながら、扉の隙間から外の様子を確認する。予想通り誰もいない。暗い廊下にひと気はなく、他の扉内には人がいそうな気配を感じはするが、皆眠っているのか静寂が広がっていた。
「よし、大丈夫そう……行こう」
物音を立てないよう息を潜めつつ廊下を歩く。礼拝堂のランプはすでに落とされ、暗く月の光だけが窓から差し込む。見回りの司祭だろうか、ランプを持った人影が見える。柱の陰に隠れ、息を潜める。
「蹴散らせば良いものを」
「しっ!!」
背後でふんぞり返っているルギニアスにイラッとする。出来るだけ目立たず抜け出したいって言ってるでしょうが! と怒鳴りそうになるが我慢だ。
幸い扉はルギニアスのおかげで、一見何事もなかったかのように見えるはず。ノブのところに穴が開いているだけ。しばらくは気付かれないはず。
気配がなくなると急いで大聖堂を抜け出た。良かったと安堵したと同時に、なにやら大聖堂のなかが騒がしくなってきた。ガヤガヤと人の声がする。
え、もう気付かれた!? さっきの見回りの司祭が扉を見付けたのかしら……いや、今はそんなことはどうでもいい! 早く逃げないと!
大聖堂から抜け出したは良いものの、城の周りには城壁がある。門には門兵が……どうやって門兵に言い訳を……と考えていると、ルギニアスがおもむろに私の腰を両手で掴んだかと思うと肩に担ぎ上げた。
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