【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第3章《試験》編

第115話 監禁

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「お待たせしました」

 しばらくしてからおじいさんが戻って来た。ルギニアスは再び鞄のなかに引っ込み、私は立ち上がりおじいさんの元へと歩み寄る。

「あの……どうでしたか?」

 おずおずと聞いてみると、おじいさんはにこりと微笑み促した。

「こちらへどうぞ」

 そう言いながらすぐに踵を返したおじいさんは先程の暗い廊下へと歩みを進める。

 転移の魔法陣ではないのかしら?

 以前神殿へ行ったときには転移の魔法陣で移動を行った。確か聖女像の前で転移を行ったはず。特殊なインクで描かれていると聞いていたが、今は見当たらない。洗礼式のときにだけ描くのだろうか。

 そんなことを考えながら、おじいさんの後へと続く。奥へと続く暗い廊下へ入ると、いくつもの扉が見えた。この大聖堂で従事する人々の部屋だろうか。おじいさんはそのなかの一つの扉を開けると、なかへと促した。
 部屋のなかはなんの変哲もない普通の部屋だった。机と椅子、ベッドとクローゼット。窓はないが部屋は魔導ランプが灯され明るかった。やはり従事者か司祭様たちの部屋なのかしら。

「申し訳ございませんが、やはり神殿へは赴くことは叶わないとのことでした。しかし、こちらでしばらくお待ちいただくようにと仰せつかっておりますので、どうぞこの部屋でお待ちください」
「……そうですか。分かりました」

 おじいさんは申し訳なさそうな笑顔で、お辞儀をすると部屋の外へと出て扉を閉めた。

 こんな部屋で待てと言われてもいつまで待てば良いのかしら……、そう思った瞬間、扉の外で『ガチャリ』と音がした。

「!? な、なに!?」

 鍵のような音がした。ルギニアスが鞄からひょこっと顔を見せると呟く。

「嵌められたな」
「え!?」

 慌てて扉に駆け寄り、ノブに手を掛ける。ガチャガチャとノブを回してみても動く気配がない。鍵を掛けられた!! 部屋のなかから動かせるような鍵は見えない。な、なんで!?

「あ、あの!! どういうことですか!? なんで鍵を!?」

 ドアノブをガチャガチャと回しながら、扉をドンドンと叩きながら訴える。まだ外に気配がする。

「申し訳ございません。大司教様からのご指示で……理由は私には……。ここに留めておくようにと、そう仰せつかっておりますので……ご容赦を……」

 扉の向こう側でそう答えたおじいさんの声は、本当に理由を知らないといった雰囲気だった。ただただ申し訳ない、といった感情だけが伝わる。
 おじいさんはそれだけ伝えると「失礼致します」と呟き去ってしまった。

「待って!!」

 そう叫んでも、もう扉の外にはなんの気配もなかった。



 鞄から飛び出たルギニアスがふわりと風を巻き上げ大きくなった。

「はぁぁ、こんな簡単に嵌められるとはな」

 呆れたように呟いたルギニアスにイラッとする。

「そんなこと言われても、まさか監禁されるなんて思わないじゃない! そもそもなんで私なんかを監禁する必要があるのよ……」

 理由が全く分からない。害をなす人物だと思われた? ただ話をしたいだけなのに? こんな小娘一人なのに? いや、自分で言うのもなんだけど、私みたいになんの力もない小娘を警戒する理由が分からない。

「まああの婆さんは最初からなんか胡散臭かったけどな」
「あの婆さん? 大司教様のこと?」
「あぁ」

 椅子にドカッと腰掛けルギニアスが吐き捨てるように言った。

 大司教様といえばあの洗礼式のときに神託を行ってくれた人よね。確かお父様が『大司教様』と呼んでいた。なぜルギニアスがあのおばあさんのことを知っているのか疑問だったけれど、そうか、あの神託のときにも私は紫の魔石は常に身に付けていた。だからルギニアスもあの場にいたも同然な訳なのか。

「胡散臭いって、なにか感じたの?」
「…………お前が神託を受けたときのあの婆さんの気配…………」

 ルギニアスは言い辛そうな、忌々しいといったような、なんだか微妙な表情となった。

「お前に憎しみのような気配を向けていた……」
「憎しみ!? なんで!?」

 大司教様から憎まれる覚えなんて全然ないんですけど!? なんでそんな感情を向けられないといけないの!?

「さあな。しかし舐めた真似をしてくれる。建物ごと吹っ飛ばしてやろうか」

 ニヤッとめちゃくちゃ悪い顔で笑ったルギニアス。

「い、いやいやいや! 吹っ飛ばしちゃ駄目!」
「じゃあどうするんだ。このままここにいるつもりか?」

 呆れたように鼻で笑われ、どうしようか悩む。脱出はしたい。したいけれど、あまり大事にしたくない。きっとダラスさんにも迷惑がかかる。
 でももう陽も暮れる時間帯だ。このままここにいたらきっとリラーナもダラスさんも心配する。何日も監禁されてしまうと、ディノとイーザンとの待ち合わせにも間に合わなくなってしまう。

 どうしようか悩んでいるとき、扉がノックされ、先程のおじいさんの声がした。

「夕食をお持ちしました」

 そう言って小さく扉を開ける。その瞬間逃げられないのか、と扉を大きく開けようと歩み寄ると、なにか見えない壁に阻まれ、見事に『ゴンッ!』と音がして頭を抱えるはめになった。

「あぁ、気を付けてくださいね。お食事を運ぶときは障壁結界を張らせていただいております」

 く、なんなのよ、念入りね!

 おじいさんは扉すぐのところに食事を置くと、そのまま再び扉に鍵を掛け去ってしまった。

「な、なんか腹立ってきた」

 なんで理由も分からないまま監禁されないといけないのよ。

「ブッ」

 背後で小さくなり隠れていたルギニアスが噴き出した。ムッとし振り向くと、机の上に座りながら笑いを堪えている。

「ちょっとなんで笑うのよ」
「いや?」

 そう言いながらもクックックと笑いを堪え切れていない。

「さて、どうやって脱出する?」

 笑いを堪え切れていないまま、ルギニアスが楽しそうに聞いた。

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