【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第3章《試験》編

第104話 ルーちゃん復活!?

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「ただいま!!」

 魔石屋の扉を開けるとカランコロンと鐘の音が鳴り響く。店番をしていたリラーナがガタッと立ち上がった。

「おかえり、ルーサ!!」

 駆け寄って来たリラーナは力一杯私を抱き締めた。心配をしてくれていたのが分かり嬉しくなる。リラーナの柔らかい髪に顔を埋め、私も力一杯抱き締め返す。

 奥の作業場からはダラスさんも顔を出す。

「おかえり」

「ただいま帰りました!」

 ダラスさんはこちらに歩み寄ると、私の頭を撫でた。そして、二人とも私の背後を見て固まった。

「誰だ、お前?」

 リラーナは「ひっ」と小さく叫ぶと、私を庇うように後ろに引っ張り、ダラスさんの背後に隠れた。

 あ、しまった! ルギニアス!! あぁぁあ、またこのパターン……ぐふぅ。

「あ、あの! 二人とも! この人は大丈夫だから!!」

 背の高いルギニアスが店内に入るとなんだか狭く感じるのは気のせいだろうか。威圧感のせいか、余計になんだか店内が狭く感じる。

 ルギニアスはフンとふてぶてしい態度。もうちょっと穏やかな雰囲気を出してくれませんかね。いや、魔王にそれは無理か……。と、脳内で一人突っ込みをしながらどうしたものかと考える。しかしいつものごとく考えても無駄! もうさすがに慣れたわよ! この際このまま魔傀儡で通してやる!

「師匠は一度見たことがあると思うんですけど……あの……えっと、魔傀儡が大きくなりまして……」

 開き直った割にはしどろもどろになってしまった……あぁ、私ってヘタレ……。

「魔傀儡!?」

 リラーナは驚き目を見開く。そういえばリラーナは初めて見るんだった。

 そして目を輝かせルギニアスに近付いて来る。ま、まずい。これ、リラーナが調べたら色々バレちゃうんじゃ……。

「あ、いや、ちょっと……」

 なんとかリラーナを止めようとすると、ダラスさんがリラーナの肩を掴んだ。

「やめておけ。あいつに興味を持つな」

 ダラスさんはルギニアスをじっと見据えながら言った。その言葉にルギニアスは逸らしていた視線をダラスさんに寄越し、ニヤッと笑った。だ、大丈夫なの……これ。

 ダラスさんはまさか何か知っているのかしら……。ウルバさんにバレそうになったときも庇ってくれた。もしかしたらダラスさんは魔傀儡でない、ということだけじゃなく、私の魔石と関係していることも知っている……?

「えー、なんで調べたら駄目なの?」

 そんなことを考えている場合じゃなかった! リラーナの追求からどうやって逃れるか!

「そいつはルーサの両親のものだ。勝手に触るな」

「あ、そっか……ごめん、ルーサ!!」

 リラーナはダラスさんの言葉を信じ、申し訳なさそうな顔をする。そんなリラーナに私自身が申し訳なくなってしまうが、チラリとダラスさんを見ると目が合った。なにかを知っていそうな、なにかを言いたそうなそんな目に見えたが、しかしなにも言わない。

「とりあえずしっかり飯を食って休め」

 そう言ってダラスさんは作業場へと戻って行った。

「そうね、ご飯をしっかり食べてゆっくり休まないと! えっと……その魔傀儡さんはどうしたらいいのかしら……ルーサの部屋?」

 見るからに人間そっくりな姿の男を女性の部屋に入れるのか、という葛藤からか、リラーナは少し躊躇いながら言った。

 そ、そういえばそうじゃない! ルギニアスを私の部屋!? 一緒に寝るの!? えぇ!? ここに来て問題発生!! そりゃ、野営では一緒に寝たけれど、あれは外だし、ディノやイーザンもいたし! 野営と部屋のベッドでは訳が違う!

 どうするのが正解なのか分からずあわあわしていると、『ポン』とルギニアスが縮んだ。

「きゃぁあ!! なにこれ! 可愛い!!」

 魔石に封印されていたときと同じ姿。ぷくぷくほっぺの可愛い姿に戻ったルギニアスは私の頭の上に乗った。

 ぐいっと顔を寄せ、ルギニアスを見詰めたリラーナは目を輝かせていた。そうよね! そうよね! この姿はめちゃくちゃ可愛いわよね!! まるで自分が褒められたかのように嬉しくなってしまった。

「凄いわね! 小さくもなれるなんて」

 ツンツンと触ろうとしたリラーナの指をビシッとルギニアスが叩き落とした。くっ、そういうところは可愛くないのよね。

「ご、ごめん、リラーナ」
「アハハ、良いよ。こんなちっこいのがなにやっても可愛いしかないわ。アハハ」

 さすが、リラーナ!

「さて、店も閉めるからご飯にしましょう! 色々話も聞かないとだしね!」
「うん」

 そう言ってリラーナは店の片付け準備に入った。
 私は作業場へと向かいつつ、こそっとルギニアスに話しかける。

「もう大きいままなのかと思ってたのに、小さくもなれるのね」
「魔石に封印されていたときは、あの姿は幻影みたいなものだな。本体は魔石のままだったからあんな姿しか表へ出すことが出来なかった。だから力もほとんど使えなかった。今は魔力を自身で抑えた」
「魔力を抑えたらちんちくりんになるの?」
「ちんちくりんとか言うな!」

 ゴスッと頭を殴られた。痛い。

「自分自身で魔力を封印したような状態にすると、この姿になるようだ」
「なるようだ?」
「そもそも今まで魔力を抑えるなんて必要なかったからな」

 それはそうか……魔王としてなら魔力を抑える必要なんてないものね。

「こんな可愛い姿を魔物たちに晒せないわよねー」

 笑いながら言ったら、再びゴスッと頭を殴られた。なんでよ。

 でも小さくなれるなら有難い。普段からあんな威圧的な雰囲気を醸し出した男を連れて歩くなんて、面倒なことになりそうな気がしてならないし、なんせこっちのほうが可愛いしね!

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