【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
105 / 247
第3章《試験》編

第102話 傍にいて

しおりを挟む
「じゃあ撤収するか!」

 朝食を終え、片付けが終わり、ディノが声高らかに言った。特殊魔石の試験の日数にはまだもう一日余裕がある。
 しかしドラゴンの魔石という、超大物魔石の採取が出来たのだ。これ以上無理をする必要はない。きっと大丈夫なはず。

「うん、帰ろう!」

 荷物を全て片付け、私たちはアシェリアンの泉を後にした。もう魔石採取する必要もないため、一気に森を駆け抜ける。無駄な戦いはしない。回復薬も底をついているため、回避出来る戦闘は全て回避する。休憩をしつつ、そうやって駆け抜けて行くと、昼くらいには森を抜ける事が出来た。

 残り少なくなってきた携帯食を齧りつつ、乗り合い馬車が通らないかと待つ。その間、ディノとイーザンは手合わせをしている。元気だなぁ。

 ルギニアスはというと、どうも昨晩から元気がない気がする。どうしたのかしら。
 ハッ! もしかしてずっと封印されていたせいで、まだ体力が戻ってないのかしら!? 慌ててルギニアスの元に駆け寄る。

「ルーちゃ……んぐっ」

 違う、また思わず「ルーちゃん」呼びに戻るところだった。

「ルギニアス、どうしたの? 大丈夫?」

 声を掛けるとチラリとこちらを見たが、じっと見詰められたじろぐ。

「な、なに?」

「…………いや」

「身体は大丈夫なの?」

「身体?」

 怪訝な顔のルギニアス。

「だ、だって長い間、魔石に封印されていたんでしょ? だから身体は大丈夫なのかな?と思って」

 ディノたちが聞いていないかチラリと背後を確認しつつ小声で聞いた。

「お前は俺が魔王だと知っていて聞くのがそれなのか?」

 鼻で笑うかのように苦笑したルギニアス。

「え? なんで?」
「なんでってお前……馬鹿か?」
「はあ!? いきなりなによ! 失礼ね!」
「他に聞くことがあるだろうが」
「他ってなによ!」

 はぁぁ、と深い溜め息を吐いたルギニアス。な、なんかめちゃくちゃ馬鹿にされている気がする……。
 呆れたような馬鹿な子を見るような、そんな目を向けられた。ぐぬぅ、なんか屈辱。

「俺は魔王だぞ?」
「分かってるわよ。今さらもう否定しないわよ」
「封印から解けたんだぞ?」
「だからそれも分かってるわよ! 私が解いたんだから!」
「じゃあ俺は魔王として自由に好きにしていいんだな?」

「…………ハッ!!」

 再び深い溜め息を吐いたルギニアス。そして顎をグイッと掴まれ、顔を寄せられた。
 ルギニアスの綺麗な顔に思わずドキリとする。真紅の綺麗な瞳は不思議な色が揺らいでいた。

「魔王である俺は好きにしていいんだな?」

 念を押すように再び聞いたルギニアス。

 好きにしていい? また人間を滅ぼそうとするの? 人間を攻撃するの?

 私の傍からいなくなるの?


「駄目!!」


 思わず叫んだ。叫んだ瞬間、ディノたちに聞かれていないか慌てて振り向いたが、手合わせに夢中で気付いていないようだ。良かった。ホッと胸を撫で下ろし、再びルギニアスに向き直る。

「駄目」

「ハッ、駄目って……お前らなんか簡単に殺せる。お前らを殺して、結界を壊し、魔物らを呼び寄せることなんか簡単だぞ?」

 乾いた笑いで私を見下ろすルギニアス。

 ドラゴンとの戦闘を見ていたから分かる。私たちにルギニアスは倒せない。力の差があり過ぎる。それは分かってる……でも今言いたいことはそういうことじゃない。

「違う! そういうのはどうでもいい! いや、違うか、どうでもよくはない。いや、でも、今言いたいことはそんなことではなく……」

 あわあわと自分で混乱してしまった。違うのよ! 魔物がどうとか、結界がどうとか、それも大事だけれど……そうじゃなくて……それよりも……今、この瞬間の私の想いはひとつしかないのよ。

「私の傍からいなくなったら駄目ってこと! 傍にいて!」

 今の私にはそれが一番必要なのよ! なんだか懐かしい気がする。前世のお母さんの想い出がある。もちろんそれを失くしたくないから、という想いもある。でも……なんというかもっと単純に……

『ただ傍にいて欲しい』それだけなのよ。


 鼻息荒く勢いに任せ、言い切ったはいいけど……言い切ってからすぐに冷静になった。

 傍にいて、って! なに言ってんの!? な、なんかめちゃくちゃ恥ずかしい台詞のような……ひぃぃ!!

 一気に顔が火照り、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。チラリとルギニアスを見ると、呆れたような顔だったが、フッと鼻で笑った。

「やっぱりお前は馬鹿だな」

 その一言にカチンと来た。

「さっきから馬鹿馬鹿ばっかり言わないでよ! 失礼な!」
「馬鹿だからだろうが。普通魔王に傍にいろとか言うか? お前らを殺せるって言ってんのに」

「…………でも、ルーちゃ……じゃない、ルギニアスはそんなことしないでしょ?」

「…………なぜそう言い切れる」

 眉間に皺を寄せ不思議そうな顔をする。

「え? だってルギニアスがそんなことをするとは思わないから」
「いや、だから!」

 食い気味にルギニアスが私の言葉を遮り、なにかを言いかけて止めた。そして物凄い大きな溜め息を吐いた。

「はぁぁあ…………やっぱり馬鹿だな」

「だから! 馬鹿馬鹿言うなって言ってるでしょうが!」

「馬鹿だから馬鹿と言ったんだ」

 ムキーっと怒りをぶつけようとしたが、なんだか少し嬉しそうなルギニアスに、私自身もなんだか気が抜けてしまい、まあ良いか、となってしまったのだった。

「仕方ないからしばらくは傍にいてやる」

 そう呟いたルギニアスは力任せに私の頭をガシガシと豪快に撫でた。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...