【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
103 / 247
第3章《試験》編

第100話 お母さんと紫の魔石

しおりを挟む
「ルギニアスのあの妙な気配と同じ気配を感じる」

「おい、妙な気配とはなんだ」

 イーザンの言葉に失礼な奴だな、とムッとしたルギニアス。

 あぁぁあ、ど、どうしよう!? どう言うのが正解!? ルギニアスだとバレて大丈夫!? いや、でも魔王とバレるよりは余程良いか……、いやいや! でも魔傀儡がいきなり大きくなる!? 魔傀儡自体どんなものか見たことないんだけどさ。皆知らないんだから大きくなることも出来る魔傀儡だって言っちゃう!?

 ジィィ、とこちらを見詰める二人。ルギニアスは「どうするんだ、お前」といったジトッとした目。

 あぁぁぁあ!! ええい!! ままよ!!

「そ、そうなの……この人、ルギニアスなの……」

 しどろもどろになりながら口にした。チラリと二人を見ると、イーザンは表情は変わらずだが、ディノは目を見開いていた。

「まじか!! スゲーな!! 魔傀儡ってこんなデカくもなれるのか!!」

「え、あ、あー、うん……」

 イーザンは呆れた顔でディノを見ていたが、特に肯定も否定もしなかった。ルギニアスはまたしても魔傀儡扱いされたことが不満だったのか、私を睨んだ。いや、睨まれても……仕方ないじゃない……。

「それにしても本当に人間そっくりだな!」

 ディノが近付きルギニアスを見上げる。ディノも背は高いほうだと思うが、それよりもさらに背の高いルギニアス。じろじろと上から下から眺められ、不機嫌な顔のルギニアスはおもむろにディノの頭に手刀を振り下ろした。ビシッと音でもしそうなくらいの勢いで頭を叩かれたディノはしゃがみ込み頭を抱えた。

「痛ってー!! なにしやがる!!」

 若干涙目になりながら顔を上げたディノはルギニアスを睨む。

「お前が人のことをじろじろと見るからだ。失礼な奴だな」

「人って……」

「あ、あー!! 魔傀儡って言ってもほぼ人と同じように感情があるから!!」

 ディノとルギニアスの間に割り込み、慌てて取り繕う。イーザンはやれやれと言った顔。き、きっとイーザンは魔王とは思わないにしても、魔傀儡ではない、とはバレているわよね……。

「まあ魔傀儡とかはどうでもいい。ドラゴンはどうした?」

「あぁ、そういえば」

 イーザンが溜め息を吐きながら言った。ディノも思い出したかのように頷く。

「えっと……ルギニアスが……」

 これまたどう言ったらいいのやら……。あぁ、胃が痛い……。

「俺が倒しておいてやった、感謝しろ」

 ドヤ顔で腕を組むルギニアス。ディノだけでなく、さすがのイーザンも少し驚いた顔をした。

「倒した!? あのドラゴンを!? ルギニアス一人でか!?」

「あぁ。俺が助けなければお前たちは死んでいたぞ」

「あ、あぁ、そうだな、助かった」

 ディノは素直に感謝を口にしたが、イーザンは怪訝な顔。

「あんた何者だ?」

 ちょ、ちょっと!! またそこに戻るの!? 魔傀儡で落ち着いたじゃないの!! そう叫びそうになったがグッと堪え、どうしたものかとあわあわしていると、ルギニアスが鼻で笑った。

「何者かと聞かれてもな」

 チラリとこちらを見たルギニアスに釣られて二人も私を見る。あぁぁ、また!!

「異様な魔力を感じるな」
「そうなのか?」

 イーザンは再びルギニアスを見て言った。ディノは気付いていないのかしら。魔力感知を出来ない人でもルギニアスの魔力は人に威圧感を与えそうだけど。

「ルーサの保護者みたいなものか」

「「「保護者!?」」」

 は? なに言ってんの!? 慌ててルギニアスの腕を引っ張り小声で問い詰める。

「ちょっと! 保護者ってなによ!」
「保護者みたいなもんだろうが。俺は前世からお前を知っている」
「前世……」

 そうか、紫の魔石は前世のお母さんの形見。そのなかに封印されていたルギニアス。ということは、前世のときからルギニアスはずっと紫の魔石のなかにいたということ。
 ルギニアスの声を最初聞いたとき、なんだか懐かしい気がした。それは……

「前世でもお母さんと喋ってた?」

「ん? あー、そんなこともあったかもな」

「そうなんだ……」

 だから聞いたことがある気がしたんだ。懐かしい気がしたんだ。私はルギニアスの声を知っていた……。

「そ、そうだね。私のお母さんのものだから保護者みたいなものかな」

 嘘は言ってない。前世のお母さんが持っていた魔石のなかにいたルギニアス。だから保護者かどうかは置いておいたとしても、身内のような立場かもしれない。魔王だけど……。

 そういえばなんで前世のお母さんが魔王の封印された魔石を……。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...