【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

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第3章《試験》編

第93話 泉の魔石と紫の魔石とルギニアスと

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 食事を終え片付けると、結界魔石はあるが用心のために見張りを交代して行うことに決め、私は野営が不慣れだからということで、一番目の見張りとなった。ディノとイーザンは警戒はしたままだが、寝袋に入り寝息を立て始めた。

 フェスラーデの森は鬱蒼とした森だが、ここアシェリアンの泉はぽっかり穴が開くように、木々がなく空が開けている。空を見上げると満天の星空。穏やかな風が吹き、葉擦れの音や泉の水が揺らぐ微かな音だけが響く。

 不思議だわ。周りには魔獣や魔蟲が蠢いた森だというのに、ここはとても静か。神聖な場所だと感じる。

「ねえ、ルーちゃん、起きてる?」

 ディノやイーザンを起こさないよう小声で話しかける。ルギニアスは私の寝袋でごろごろとしていた。

「なんだ」

「あの魔石……水底にあった魔石、それに私の持つ魔石、それが似た気配に感じたんだけど……ルーちゃんはなにか分かる?」

「…………」

「私の持つ魔石、あれの気配がルーちゃん、貴方からも感じる……」

「…………」

「貴方は本当に魔王……なの?」

「…………ずっとそう言っているだろ」

「…………じゃあこの魔石は魔王を封じた魔石? ルーちゃんはこの魔石の中にいるの? だとしたらなんでこの魔石を前世のお母さんが持っていたの? なんで私が持って生まれてきたの? …………ルーちゃんは人間を滅ぼすの……?」

 分からないことだらけだ。なんで? なんで? 分からない。

「ルーちゃ……」

 何も言わないルギニアスに声をかけようとそちらへと振り向くと、「ううん」と身動ぎしたディノにびくりとした。ま、まさか今の話、聞かれてないわよね……。

 身体を強張らせていると、そのままディノは再び動かなくなった。どうやら大丈夫そう? しかしなにやらイーザンも聞いていそうな気がして、これ以上なにも話せなくなってしまった。

 ルギニアスは不機嫌そうな顔のまま、なにも言葉にすることはなかった。

 その後お互い無言のまま時間は流れ、イーザンと見張りを交代した。イーザンは特になにも言わなかった。聞かれてはなかったってことかな……。そのまま私は寝袋で横になったが、色々と気になってしまい、なかなか寝付けなかった。



 翌朝、イーザンと交代したディノに起こされ、朝を迎える。暗いときには神秘的な雰囲気だったが、明るくなって泉を見渡すと朝靄が漂い幻想的だった。泉の水で顔を洗う。冷たい水に一気に目が覚める。
 朝は携帯食で済ませ、早々に準備。寝袋や食事のための道具などは置いていく。結界魔石を確認。問題なさそうなことを確認するとリュックを背負い出発よ!


「さて、今日はこの泉よりもう少し奥に行ってみるか?」
「そうだね」

 今いるアシェリアンの泉が森のほぼ中心地のようだった。そこから先は山の麓まであまり情報がない。奥へ行くにつれて魔獣も強力になっていく、とは聞いたことがある。しかし今までそこまで到達した人はいないらしく、このアシェリアンの泉まで来られた人たちの噂話程度でしか分からない。

「危険だと判断したらすぐに言ってね」
「あぁ」

 ディノもイーザンも表情を引き締めた。集中し神経を研ぎ澄まさせているのが分かる。ここまで来たときと同様にディノが先頭に私が続き、最後にイーザンが歩く。
 そうやって森の奥へと足を踏み入れて行った。

 奥へ進むにつれ、魔獣や魔蟲が増えて来る。次々に襲い来る魔獣たちに、魔石の採取よりも討伐が優先され、ディノもイーザンも回復薬を飲みつつ進んで行く。
 数多くの魔獣たちに襲われはするが、昨日採取した魔石より強力なものを採取出来ず、夕方になり撤収する。森にはどこまで行けたか、地図とその場の木に目印を付け、そうやって何度となく繰り返すうちに、どの辺りにどの魔獣がいるのかを把握していく。

 そうやって少しずつ奥へと進んで行くことを繰り返していたある日、いつもと同じようにアシェリアンの泉を出発ししばらくすると、木々の切れ間から叫び声が聞こえて来た。
 どうやら誰かが魔獣か魔蟲と戦闘しているようだった。声からするとどうも苦戦していそうだ。

「どうする?」
「行ってみよう! 助けられたら助けてあげて欲しい!」

 私たちだって他人を助けている余裕などないのだが、でも苦戦しているのが分かっていて見捨てていけない。ディノとイーザンには申し訳ない、と思ったのが分かったのか、二人とも私を見てニッと笑った。そしてディノは私の背を、イーザンは私の頭をポンと同時に叩き、「了解」と言葉にすると、声のほうへと走って行った。

 ディノたちに続くように私も後ろから走って付いて行く。そして声のする間近の木陰でディノとイーザンが止まると、同じように向こう側を確認した。

 そこで目にしたものは……

「ライ! リース!」

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