96 / 247
第3章《試験》編
第93話 泉の魔石と紫の魔石とルギニアスと
しおりを挟む
食事を終え片付けると、結界魔石はあるが用心のために見張りを交代して行うことに決め、私は野営が不慣れだからということで、一番目の見張りとなった。ディノとイーザンは警戒はしたままだが、寝袋に入り寝息を立て始めた。
フェスラーデの森は鬱蒼とした森だが、ここアシェリアンの泉はぽっかり穴が開くように、木々がなく空が開けている。空を見上げると満天の星空。穏やかな風が吹き、葉擦れの音や泉の水が揺らぐ微かな音だけが響く。
不思議だわ。周りには魔獣や魔蟲が蠢いた森だというのに、ここはとても静か。神聖な場所だと感じる。
「ねえ、ルーちゃん、起きてる?」
ディノやイーザンを起こさないよう小声で話しかける。ルギニアスは私の寝袋でごろごろとしていた。
「なんだ」
「あの魔石……水底にあった魔石、それに私の持つ魔石、それが似た気配に感じたんだけど……ルーちゃんはなにか分かる?」
「…………」
「私の持つ魔石、あれの気配がルーちゃん、貴方からも感じる……」
「…………」
「貴方は本当に魔王……なの?」
「…………ずっとそう言っているだろ」
「…………じゃあこの魔石は魔王を封じた魔石? ルーちゃんはこの魔石の中にいるの? だとしたらなんでこの魔石を前世のお母さんが持っていたの? なんで私が持って生まれてきたの? …………ルーちゃんは人間を滅ぼすの……?」
分からないことだらけだ。なんで? なんで? 分からない。
「ルーちゃ……」
何も言わないルギニアスに声をかけようとそちらへと振り向くと、「ううん」と身動ぎしたディノにびくりとした。ま、まさか今の話、聞かれてないわよね……。
身体を強張らせていると、そのままディノは再び動かなくなった。どうやら大丈夫そう? しかしなにやらイーザンも聞いていそうな気がして、これ以上なにも話せなくなってしまった。
ルギニアスは不機嫌そうな顔のまま、なにも言葉にすることはなかった。
その後お互い無言のまま時間は流れ、イーザンと見張りを交代した。イーザンは特になにも言わなかった。聞かれてはなかったってことかな……。そのまま私は寝袋で横になったが、色々と気になってしまい、なかなか寝付けなかった。
翌朝、イーザンと交代したディノに起こされ、朝を迎える。暗いときには神秘的な雰囲気だったが、明るくなって泉を見渡すと朝靄が漂い幻想的だった。泉の水で顔を洗う。冷たい水に一気に目が覚める。
朝は携帯食で済ませ、早々に準備。寝袋や食事のための道具などは置いていく。結界魔石を確認。問題なさそうなことを確認するとリュックを背負い出発よ!
「さて、今日はこの泉よりもう少し奥に行ってみるか?」
「そうだね」
今いるアシェリアンの泉が森のほぼ中心地のようだった。そこから先は山の麓まであまり情報がない。奥へ行くにつれて魔獣も強力になっていく、とは聞いたことがある。しかし今までそこまで到達した人はいないらしく、このアシェリアンの泉まで来られた人たちの噂話程度でしか分からない。
「危険だと判断したらすぐに言ってね」
「あぁ」
ディノもイーザンも表情を引き締めた。集中し神経を研ぎ澄まさせているのが分かる。ここまで来たときと同様にディノが先頭に私が続き、最後にイーザンが歩く。
そうやって森の奥へと足を踏み入れて行った。
奥へ進むにつれ、魔獣や魔蟲が増えて来る。次々に襲い来る魔獣たちに、魔石の採取よりも討伐が優先され、ディノもイーザンも回復薬を飲みつつ進んで行く。
数多くの魔獣たちに襲われはするが、昨日採取した魔石より強力なものを採取出来ず、夕方になり撤収する。森にはどこまで行けたか、地図とその場の木に目印を付け、そうやって何度となく繰り返すうちに、どの辺りにどの魔獣がいるのかを把握していく。
そうやって少しずつ奥へと進んで行くことを繰り返していたある日、いつもと同じようにアシェリアンの泉を出発ししばらくすると、木々の切れ間から叫び声が聞こえて来た。
どうやら誰かが魔獣か魔蟲と戦闘しているようだった。声からするとどうも苦戦していそうだ。
「どうする?」
「行ってみよう! 助けられたら助けてあげて欲しい!」
私たちだって他人を助けている余裕などないのだが、でも苦戦しているのが分かっていて見捨てていけない。ディノとイーザンには申し訳ない、と思ったのが分かったのか、二人とも私を見てニッと笑った。そしてディノは私の背を、イーザンは私の頭をポンと同時に叩き、「了解」と言葉にすると、声のほうへと走って行った。
ディノたちに続くように私も後ろから走って付いて行く。そして声のする間近の木陰でディノとイーザンが止まると、同じように向こう側を確認した。
そこで目にしたものは……
「ライ! リース!」
フェスラーデの森は鬱蒼とした森だが、ここアシェリアンの泉はぽっかり穴が開くように、木々がなく空が開けている。空を見上げると満天の星空。穏やかな風が吹き、葉擦れの音や泉の水が揺らぐ微かな音だけが響く。
不思議だわ。周りには魔獣や魔蟲が蠢いた森だというのに、ここはとても静か。神聖な場所だと感じる。
「ねえ、ルーちゃん、起きてる?」
ディノやイーザンを起こさないよう小声で話しかける。ルギニアスは私の寝袋でごろごろとしていた。
「なんだ」
「あの魔石……水底にあった魔石、それに私の持つ魔石、それが似た気配に感じたんだけど……ルーちゃんはなにか分かる?」
「…………」
「私の持つ魔石、あれの気配がルーちゃん、貴方からも感じる……」
「…………」
「貴方は本当に魔王……なの?」
「…………ずっとそう言っているだろ」
「…………じゃあこの魔石は魔王を封じた魔石? ルーちゃんはこの魔石の中にいるの? だとしたらなんでこの魔石を前世のお母さんが持っていたの? なんで私が持って生まれてきたの? …………ルーちゃんは人間を滅ぼすの……?」
分からないことだらけだ。なんで? なんで? 分からない。
「ルーちゃ……」
何も言わないルギニアスに声をかけようとそちらへと振り向くと、「ううん」と身動ぎしたディノにびくりとした。ま、まさか今の話、聞かれてないわよね……。
身体を強張らせていると、そのままディノは再び動かなくなった。どうやら大丈夫そう? しかしなにやらイーザンも聞いていそうな気がして、これ以上なにも話せなくなってしまった。
ルギニアスは不機嫌そうな顔のまま、なにも言葉にすることはなかった。
その後お互い無言のまま時間は流れ、イーザンと見張りを交代した。イーザンは特になにも言わなかった。聞かれてはなかったってことかな……。そのまま私は寝袋で横になったが、色々と気になってしまい、なかなか寝付けなかった。
翌朝、イーザンと交代したディノに起こされ、朝を迎える。暗いときには神秘的な雰囲気だったが、明るくなって泉を見渡すと朝靄が漂い幻想的だった。泉の水で顔を洗う。冷たい水に一気に目が覚める。
朝は携帯食で済ませ、早々に準備。寝袋や食事のための道具などは置いていく。結界魔石を確認。問題なさそうなことを確認するとリュックを背負い出発よ!
「さて、今日はこの泉よりもう少し奥に行ってみるか?」
「そうだね」
今いるアシェリアンの泉が森のほぼ中心地のようだった。そこから先は山の麓まであまり情報がない。奥へ行くにつれて魔獣も強力になっていく、とは聞いたことがある。しかし今までそこまで到達した人はいないらしく、このアシェリアンの泉まで来られた人たちの噂話程度でしか分からない。
「危険だと判断したらすぐに言ってね」
「あぁ」
ディノもイーザンも表情を引き締めた。集中し神経を研ぎ澄まさせているのが分かる。ここまで来たときと同様にディノが先頭に私が続き、最後にイーザンが歩く。
そうやって森の奥へと足を踏み入れて行った。
奥へ進むにつれ、魔獣や魔蟲が増えて来る。次々に襲い来る魔獣たちに、魔石の採取よりも討伐が優先され、ディノもイーザンも回復薬を飲みつつ進んで行く。
数多くの魔獣たちに襲われはするが、昨日採取した魔石より強力なものを採取出来ず、夕方になり撤収する。森にはどこまで行けたか、地図とその場の木に目印を付け、そうやって何度となく繰り返すうちに、どの辺りにどの魔獣がいるのかを把握していく。
そうやって少しずつ奥へと進んで行くことを繰り返していたある日、いつもと同じようにアシェリアンの泉を出発ししばらくすると、木々の切れ間から叫び声が聞こえて来た。
どうやら誰かが魔獣か魔蟲と戦闘しているようだった。声からするとどうも苦戦していそうだ。
「どうする?」
「行ってみよう! 助けられたら助けてあげて欲しい!」
私たちだって他人を助けている余裕などないのだが、でも苦戦しているのが分かっていて見捨てていけない。ディノとイーザンには申し訳ない、と思ったのが分かったのか、二人とも私を見てニッと笑った。そしてディノは私の背を、イーザンは私の頭をポンと同時に叩き、「了解」と言葉にすると、声のほうへと走って行った。
ディノたちに続くように私も後ろから走って付いて行く。そして声のする間近の木陰でディノとイーザンが止まると、同じように向こう側を確認した。
そこで目にしたものは……
「ライ! リース!」
0
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる