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第3章《試験》編

第92話 アシェリアンの魔石

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 あ、駄目だ、もう息が続かない! 慌ててディノとルギニアスに合図を送り、水面へと急ぐ。ザバァッと水面に浮き上がると大きく息を吸い込んだ。

「ブハァア!! はぁはぁ、苦しかった……」

「はぁはぁ、ルーサ……なんか分かったのか?」

 ディノも大きく息を吸いながら聞いて来た。ルギニアスはなんともないかのように、すでに水面から浮き上がりふわふわと空中へ浮いている。しかも濡れてない! なんで!?

「と、とりあえずイーザンのところへ戻ろう……」

 ディノは頷くと、陸地に向かって泳ぎ進んだ。足が届くようになると歩いて進む。うっ。服が重い……。たっぷりと水を含んだ服が重りのように身体に纏わり付く。

 びっしょりと濡れた服をイーザンが風魔法で乾かしてくれる。その間、ディノはなぜかずっと私に背を向けていた。

「で、なにか分かったのか?」

 乾かし終えると服を着終えたイーザンが聞く。ディノも服を着ながら同様に耳を傾けていた。

「うーん、あれは……」

 なにか知っているような気がする気配だった。あれは……胸にあるあの魔石をぎゅっと握った。

「紫の魔石……」

「「?」」

 思わず口に出てしまったけれど、私が持つあの紫の魔石と同じ気配のような気がする。紫の魔石は人には見せてはいけないとずっと言われていた。だからディノやイーザンにも説明のしようがない。

 人が精製した魔石とは違う、不思議な魔石……私の持つ魔石と泉の底の魔石、さらにルギニアスの纏う気配……それらが似た気配を放つ……それは一体どういうこと?

「アシェリアンの泉……」

 アシェリアンの泉と呼ばれる泉にある魔石……不思議な力を発する魔石。

「あの水底にある石が結界を創っているのは確かだと思う。なにか不思議な力を感じる魔石だった……」
「そうか、ではやはりあの石はアシェリアンの加護のある石なのかもしれないな」

 イーザンが水底の石をそう結論付けた。

 アシェリアンの加護……ということは私の持つ魔石やルギニアスの纏う気配もアシェリアンと関わりがあるということ?

 アシェリアンと関わりのある魔石……ルギニアス……それはやはり……ルギニアスは魔王ということ……?

 チラリとルギニアスを見ると一瞬目が合ったが、「フン」とすぐさま視線を逸らし、なんだか不機嫌そう。


 なんだか色々モヤモヤとするけれど、とりあえず野営準備をし、夕食にしようということになった。

 野営にはテントでは荷物となるため、全員が寝袋だ。魔導ランプを灯し、辺りには結界魔石を置く。ここを拠点とするため、荷物は出来るだけ置いていくために、結界魔石で防護する。それは人間に対しても。
 今回持ってきた結界魔石は空間を歪めるように錯覚させる結界を張ることが出来る。人間や魔獣などから視覚を狂わせ、気配を消し、何者かが侵入すると威嚇の魔法が発動し、所有者に発動を伝える、といった優れもの。かなりお高い代物だけど、野営には危険が伴うため必需品なのだ。

 今回アシェリアンの泉のおかげで、魔獣や魔蟲を心配する必要はなさそうだが、人間に盗まれる、ということもないわけではない。
 フェスラーデの森に入る物好きはなかなかいないが、今回魔石精製師の受験者がおそらく数名は来ているはず。その受験者たちが盗んだり、とかは考えたくはないが、用心するに越したことはない。


 魔導ランプに結界魔石、寝袋の準備が整うと、今回は日程が長いため、携帯食では辛いということで簡単な食事を作る道具を持って来たのだ。その準備に入る。
 持ち運び出来る小さめの魔導コンロ、何個も重ねて入れられる鍋にスプーンやフォークも。食材は干し肉と、野菜はすでに切ったものを水分だけ飛ばした乾燥野菜。それらを鍋に入れ、魔導水筒から水を出す。

 魔導コンロに鍋を置き、ぐつぐつと煮込んでいく。味付けは持って来た調味料で味見をしながら付けていく。リラーナに教わって料理を始めてからもう七年も経ってますからね、私だってそれなりな腕前になってきたのよ。鍋からは湯気が立ち上り、良い香りが漂ってくる。

 持ってきていたパンの素。これは保存食専門店のサイラスさんに教えてもらった食材。一口サイズくらいの固いパンの素を少量の水と共に鍋に入れ、それをコンロにかけて熱を入れると、大きく膨らみ焼き立てのようなパンが出来上がるという優れもの!

 そのパンもどうやら焼き上がったようで、こちらも香ばしい良い香りが漂ってくる。出来上がった野菜スープを皿に取り分け、そこに焼き立てパンも添える。

「おぉ、豪華だな! うまそうだ!! いただきます!!」

 ディノは勢い良く食べ始める。イーザンも静かに「いただきます」と口にする。私も同様にいただきます、と食べ始めた。

 はぁあ、温かい食事って美味しいわぁ。疲れた身体に沁みる……ほっこりしながら野菜たっぷりのスープを口にし、焼き立てパンを頬張った。
 ほかほかの焼き立てパンはあんなに固い素だったとは思えないほど、ふっくらして美味しかった。

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