93 / 247
第3章《試験》編
第90話 アシェリアンの泉
しおりを挟む
しばらく歩くうちに何度か魔蟲の姿も見かけた。しかし、先程の戦闘で疲労していることもあり、さらにはフォルーよりは劣るであろう魔蟲の魔石ならば採取する必要もないだろうと見送った。
見付からないよう、気配を殺しながら先へと進む。次第に陽も沈み出し、辺りが暗くなっていく。
「急ごう」
夜になると魔獣や魔蟲の活動も活発になる。昼間もそれなりには活動しているが、昼間動かない魔獣や魔蟲が夜に動き出す。それらは昼間の魔獣たちよりも強いものたちだったりする。
だから基本的に夜には私たちも活動はしない。それだけ危険になるからだ。
今回は強い魔石を求めての採取だが、しかし命に関わるような採取はしたくない。自分だけでなく二人の命を危険に晒してまで行うつもりはない。それはやはり魔石精製師としての責任だと思う。
他人の命を懸けてまで行うものではない。
途中、魔蟲に見付かり、走って逃げる。魔蟲は追いかけて来るため、必死に走る。ディノとイーザンはさすがに早い。足手纏いにならないよう付いて行くのに必死だ。二人は私を気にしつつ、ディノは方向を確認しながら進み、イーザンは私の後ろを護ってくれていた。
フォルーの魔石採取や、半日歩き続けた疲労のせいで、走ることが限界を迎えそうになったとき、急に開けた場所に出た。
目の前にはキラキラと月の光が水面に反射し、煌めく泉が目の前に広がった。
「おぉ、ここがアシェリアンの泉か!」
ディノが泉の前で足を止めると、素早く後ろを振り向き、剣を構えた。私はというと疲労困憊で息も絶え絶えになっていたため、急に止まることが叶わず、思わずディノに激突してしまった。
「「わぁっ!!」」
ディノが驚いた顔をし、剣片手に私を抱き止めた。その後ろでイーザンが振り向き魔導剣を素早く抜き後ろに振り向く。
追って来ていた魔蟲は木々の切れ間で急に止まったかと思うと、まるで壁でもあるかのようにその場からこちらには入って来なかった。いや、正確には入ろうとしているのに、なにかが阻んでいる、といった感じかしら。まるで結界……。
「アシェリアンの泉と呼ばれているのが理解出来たな。まるで結界でもあるかのようだ」
私が思ったことと同じことを考えたイーザンが魔導剣を鞘に収め、こちらを向いた。
「…………いつまで抱き合っているつもりだ?」
イーザンが冷めた目でこちらを見て言った。
「「!?」」
ディノに抱き締められたままになってた!!
慌てて身体を離す。
「ご、ごめん!! 止まれなかった!!」
「い、いや、俺も急に止まって悪かった!!」
二人してあわあわしていると、イーザンがそそくさと泉の傍へと歩き出す。
「野営の準備をするぞ」
「「あ、はい」」
ディノは剣を鞘に収めると、チラリとこちらを見たがすぐさま視線をイーザンのほうへと向けると行ってしまった。
私はというと……なんだか顔が熱い気がするのは気のせいよね……うん。
ディノの後ろ姿にチラリと目をやると、なにやらビクッとしたディノが辺りをキョロキョロと見回していた。ん? どうしたのかしら。
「早くお前も用意をしろ」
頭をビシッと叩かれた。
「ル、ルーちゃん……痛い」
「ふん」
ルギニアスに促され、なんとなく心がそわそわしていたのを落ち着け、二人の元へと駆け寄った。
「なにしてるの?」
イーザンは泉の傍で膝を付き、泉を眺めていた。そして手を伸ばすと泉の水を掬い取る。
「いや、この泉になにか魔力でもあるのかと思ったんだが……」
掬った水を眺め、そして少し口に含んだイーザン。
「なにか普通の水と違うの?」
ディノと一緒にイーザンの掬った水を覗き見る。
「見た感じ普通だけどな」
イーザンはおもむろに立ち上がると、マントを脱いだ。そしてなぜか上着を脱ぎだす。
「ちょ、ちょ、ちょっと!! イーザン、なにしてるの!?」
「お、お前、なにしてんだ!!」
いきなり上半身裸になったかと思うと、靴を脱ぎ泉に足を付けた。細いかと思っていた身体は引き締まり、魔導師よりも騎士が似合いそうなほど、均整の取れた筋肉質な背中。綺麗な肌が月明りでやたらと艶めかしく感じる……め、目のやり場に困るんだけど!!
ディノと私の疑問に答えることなく、イーザンは泉の中心に向かってしまった。
ざぶざぶと進んで行き、次第に腰まで水に浸かったイーザンはなんだか水の精霊のように美しかった。
い、いやいや、そんなこと考えて見惚れている場合ではない。イーザンはなにをしようとしているの?
胸の辺りまで水に浸かると、そのまま潜ってしまった。姿の見えなくなったイーザン。
「な、なにやってんだ、あいつ……」
「なにか感じるな、この泉……」
ルギニアスが私の頭の上で呟いた。
見付からないよう、気配を殺しながら先へと進む。次第に陽も沈み出し、辺りが暗くなっていく。
「急ごう」
夜になると魔獣や魔蟲の活動も活発になる。昼間もそれなりには活動しているが、昼間動かない魔獣や魔蟲が夜に動き出す。それらは昼間の魔獣たちよりも強いものたちだったりする。
だから基本的に夜には私たちも活動はしない。それだけ危険になるからだ。
今回は強い魔石を求めての採取だが、しかし命に関わるような採取はしたくない。自分だけでなく二人の命を危険に晒してまで行うつもりはない。それはやはり魔石精製師としての責任だと思う。
他人の命を懸けてまで行うものではない。
途中、魔蟲に見付かり、走って逃げる。魔蟲は追いかけて来るため、必死に走る。ディノとイーザンはさすがに早い。足手纏いにならないよう付いて行くのに必死だ。二人は私を気にしつつ、ディノは方向を確認しながら進み、イーザンは私の後ろを護ってくれていた。
フォルーの魔石採取や、半日歩き続けた疲労のせいで、走ることが限界を迎えそうになったとき、急に開けた場所に出た。
目の前にはキラキラと月の光が水面に反射し、煌めく泉が目の前に広がった。
「おぉ、ここがアシェリアンの泉か!」
ディノが泉の前で足を止めると、素早く後ろを振り向き、剣を構えた。私はというと疲労困憊で息も絶え絶えになっていたため、急に止まることが叶わず、思わずディノに激突してしまった。
「「わぁっ!!」」
ディノが驚いた顔をし、剣片手に私を抱き止めた。その後ろでイーザンが振り向き魔導剣を素早く抜き後ろに振り向く。
追って来ていた魔蟲は木々の切れ間で急に止まったかと思うと、まるで壁でもあるかのようにその場からこちらには入って来なかった。いや、正確には入ろうとしているのに、なにかが阻んでいる、といった感じかしら。まるで結界……。
「アシェリアンの泉と呼ばれているのが理解出来たな。まるで結界でもあるかのようだ」
私が思ったことと同じことを考えたイーザンが魔導剣を鞘に収め、こちらを向いた。
「…………いつまで抱き合っているつもりだ?」
イーザンが冷めた目でこちらを見て言った。
「「!?」」
ディノに抱き締められたままになってた!!
慌てて身体を離す。
「ご、ごめん!! 止まれなかった!!」
「い、いや、俺も急に止まって悪かった!!」
二人してあわあわしていると、イーザンがそそくさと泉の傍へと歩き出す。
「野営の準備をするぞ」
「「あ、はい」」
ディノは剣を鞘に収めると、チラリとこちらを見たがすぐさま視線をイーザンのほうへと向けると行ってしまった。
私はというと……なんだか顔が熱い気がするのは気のせいよね……うん。
ディノの後ろ姿にチラリと目をやると、なにやらビクッとしたディノが辺りをキョロキョロと見回していた。ん? どうしたのかしら。
「早くお前も用意をしろ」
頭をビシッと叩かれた。
「ル、ルーちゃん……痛い」
「ふん」
ルギニアスに促され、なんとなく心がそわそわしていたのを落ち着け、二人の元へと駆け寄った。
「なにしてるの?」
イーザンは泉の傍で膝を付き、泉を眺めていた。そして手を伸ばすと泉の水を掬い取る。
「いや、この泉になにか魔力でもあるのかと思ったんだが……」
掬った水を眺め、そして少し口に含んだイーザン。
「なにか普通の水と違うの?」
ディノと一緒にイーザンの掬った水を覗き見る。
「見た感じ普通だけどな」
イーザンはおもむろに立ち上がると、マントを脱いだ。そしてなぜか上着を脱ぎだす。
「ちょ、ちょ、ちょっと!! イーザン、なにしてるの!?」
「お、お前、なにしてんだ!!」
いきなり上半身裸になったかと思うと、靴を脱ぎ泉に足を付けた。細いかと思っていた身体は引き締まり、魔導師よりも騎士が似合いそうなほど、均整の取れた筋肉質な背中。綺麗な肌が月明りでやたらと艶めかしく感じる……め、目のやり場に困るんだけど!!
ディノと私の疑問に答えることなく、イーザンは泉の中心に向かってしまった。
ざぶざぶと進んで行き、次第に腰まで水に浸かったイーザンはなんだか水の精霊のように美しかった。
い、いやいや、そんなこと考えて見惚れている場合ではない。イーザンはなにをしようとしているの?
胸の辺りまで水に浸かると、そのまま潜ってしまった。姿の見えなくなったイーザン。
「な、なにやってんだ、あいつ……」
「なにか感じるな、この泉……」
ルギニアスが私の頭の上で呟いた。
0
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる