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第3章《試験》編

第88話 野営地

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 ざわざわと葉擦れの音が聞こえるなか、辺りの気配を探りながら慎重に歩を進めて行く。フェスラーデの森は踏破した人間はいないそうだが、しかし、過去に足を踏み入れた人たちが残してくれた大まかな地図がある。それによると森のなかにはいくつか泉があるらしく、その泉の傍ならば魔獣や魔蟲に襲われないのだとか。

「野営地としてアシェリアンの泉を目指すぞ」

 ディノの発言に、私もイーザンも頷く。

 フェスラーデの森にある泉。その泉は魔獣や魔蟲を寄せ付けない。泉が神聖なものなのか、周りになにかあるのか、誰も理由は分からないのだが、森で魔獣に襲われた人物がたまたま泉の傍に逃げ行った途端、魔獣は後を追って来ず、姿を消したらしい。

 過去に足を踏み入れた人が書き残した地図と覚書、それらのことからその泉は『アシェリアンの泉』と呼ばれるようになった。きっとアシェリアンのご加護があるのだろう、と言われていた。

「アシェリアンの泉は三ヶ所よね。ここからだと森の中心地が一番近いかしら」
「そうだな、活動もしやすいから、この中心地を目指そう」

 もしかしたらライたちや他の受験者の人とも遭遇するかもしれないわね。そんなことを考えながら、方位計を確認しつつ進んで行く。

「今のところ、周りに気配はないな」
「うん」

 ディノが先頭を歩き、私を挟むように後ろにはイーザンが。そしてポンッと飛び出たルギニアスが私の頭の上に乗った。

「ルーちゃん」

 周りを警戒していた二人は私の声に反応するように振り向くと、頭の上に乗ったルギニアスに笑った。

「ハハ、今日は連れてないのかと思った」
「あー……ハハ、鞄のなかにいたの……」

 違う、突然出て来たのよ。もう! 突然出て来られると心臓に悪い!

「離れてはいるが数匹いるぞ。まだこちらには気付いていないようだがな」
「え、そうなの!?」

 ルギニアスのその言葉はディノとイーザンにも届いていたらしく、剣の柄に手をやると警戒態勢に入った。

「ルギニアスってそんなことも分かるんだな。スゲーなそいつ」
「アハハ……」

 そんな遠くの気配まで察知出来るなんて私も知らなかったよ。でもそっか、いつも誰かに見張られている気配の距離は近かったけれど、いつもルギニアスに教えてもらっていた。さすがにフェスラーデの森までは付いて来ていないのか、今は見張りの気配はない。その代わりに魔獣や魔蟲の気配があるわけだけど。

 私やディノ、イーザンには近くにまだ魔獣の気配を感じることが出来ない。魔力感知して探れる気配というのも限界がある。精々半径二十メートルくらいかしら。もっと集中すればもう少し範囲を広げられるかもしれないけれど、そうすると集中力をかなり要する。歩きながら、何かをしながら、ということは不可能だ。立ち止まりその場で集中し感知する、といったときには有効だが、移動しながらでは不向きなのだ。

「ルーちゃん凄いね」
「は?」

 せっかく褒めたのに、なにを今さらといった顔のルギニアスに苦笑しながらも、辺りを警戒しつつ進んで行く。

 進むにつれ、私たちでも感知出来るほど近くなってきたのが分かった。

「隠れろ」

 ディノの合図と共に木々に身を隠し、先にいるであろう気配を探る。木々の合間から覗き見ると、そこにはウルーと似た獣がいた。でもなにやら少し違うような……。

「あれってウルーじゃないの?」

 小声でディノに聞いた。

「あれはウルーと同じく狼の魔獣だが違うやつだな。あれはフォルー。ウルーよりもデカくて強い」

 確かにウルーよりも大きい。鋭い爪の生えた四肢は太く強靭そう。尻尾も長く、まるで鞭のように畝っている。
 さらになにか違うと思ったのは毛色が違うようだ。ウルーは漆黒の毛並みだったが、今目の前に見えるフォルーは黒いながらも少し赤みを帯びている気がする。

「あいつは単独行動をするから一匹だけだとは思うが、戦闘の気配を感じ、他の魔獣も寄ってくるかもしれない。どうする?」
「倒せそう? 危険がなさそうならお願いしたい」
「分かった」

 ニッと笑ったディノはイーザンと顔を見合わせ頷き合った。そして私に「周りに警戒しながら待機しておけ」とその場に残し、二人は移動して行った。私は木陰に身を隠し、フォルーを見詰める。

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