85 / 247
第3章《試験》編
第82話 試験開始!
しおりを挟む
配られた手元の試験用紙を見る。内容は……
『魔石の基礎知識、精製魔石について、市場の価格について』
ダラスさんが教えてくれた通りの内容だ。
魔石の基礎知識はどんな種類の魔石があるか、魔石はなにから出来ているか、どのような付与が行えるか、など。それらが細かく分かれた問題となっていた。
精製魔石については精製の工程、魔力の種類、出来上がった魔石の様子、特殊魔石の精製方法、など。段階を追って書いていくような問題。
市場価格については、最近の魔石の価値や価格、どのような流通が行われ、魔導師の付与価格、どのような魔導具として使用されるのか、魔導具としての価格、など、主にお金に関する問題。
うん、筆記試験は今までずっとやってきたことばかり。大丈夫! 見落とさないようしっかりと読み、記入していく。
静かな部屋のなか、カリカリとペンを走らせる音が響く。皆、集中し書き込んでいく。途中、どうやって書いたら良いものか、と思うような質問もあったりしたが、自分の思い付く範囲で必死に書いていった。
窓が開け放され穏やかな風がふんわりと流れる部屋。次第に書き終えたと思われる人たちが、溜め息を吐いたり、伸びをしたりと、少しずつ部屋にペンの音以外が響いてくる。
私もなんとか全ての解答を書き終えると、ホッと息を吐くのと同時に緊張からドッと疲れが押し寄せる。
椅子の背凭れに身体を預け、ボーッと部屋を眺めていると、なんだか不思議な気分にもなった。
私はローグ伯爵家の一人娘だった。十歳のときのあの神託がなければ、今こうしてこの場にいることもなかった。魔石は昔から大好きだが、だからといって仕事にしているとは思えなかった。伯爵家の人間として生きていくものだと思っていた。
それがなんの因果か、魔石精製師を目指し、しかも両親は行方不明となり……領地まで失った……。ダラスさんの弟子になれたことは運が良いのだろう。私はこうなる運命だったのか、全ては神託から始まった……偶然だったのか、必然だったのか……。
そんなことを考えている間に、終わりの合図が響き渡った。試験官は懐中時計で確かめながら、声を張り上げる。
「終了だ! 一番後ろの者! 自分の列、全員分の解答用紙を回収して持って来てくれ」
一番後ろ……私だわ! 慌てて立ち上がり、順に解答用紙を受け取っていく。メルはニッと笑っていた。
全員分の用紙を試験官に提出し、席へと戻る。
試験官が用紙をまとめている間に、試験官と同じような服装の人が二人、カチャカチャと音を立てながら、大きな荷物を抱え入って来た。
「次は精製魔石だ。各自、前から器材を取っていけ」
入って来た二人が抱えていたものは、箱に入った精製魔石に使用する器材。乳鉢に清水、ろ紙にろうとにビーカー、それに加熱用の魔導具と魔石原石のかけら。それらが一つの箱に収まっていてそれを受け取っていく。
「まずはろ過、蒸留の精製魔石。そのあとに魔力練り上げの精製魔石だ。どちらも付与魔力対応は自由だ。それらを受験番号と名前の付いた箱に入れて提出」
全員に器材が渡ると、皆ガチャガチャと箱から取り出し準備をする。
「これも二時間だ。では、開始!」
よし! と、気合いを入れ、腕まくりしつつ原石と乳鉢に手を伸ばす。そしていつものごとく、ゴリゴリと……。あちこちからゴリゴリと音が響き渡り、思わず笑いそうになってしまう。それは皆、同じだったようで、先程の筆記試験のときよりかは空気が柔らかかった。
ゴリゴリとすり潰した石を清水と混ぜ合わせろ過していく。ろ紙を広げ、ろうとに装着させる。そしてビーカーにろ過させていく。
これで、ある程度の不純物を取り除くことが出来て魔素が含まれるものだけが残るのよね。
そこからさらに蒸留し、ビーカーに溜まった魔石水を魔導具で加熱していく。加熱されると魔石水は不純物と純水とに分けられ、魔素の純度も上がっていく。その出来上がった純魔石水を魔力で結晶化させるのだ。
別のビーカーに溜まった純魔石水。それを持ち上げクルクルと動かしながら、結晶化の魔力と、付与魔力に合わせた魔力を送っていく。次第に純魔石水は粘りを持つかのような鈍い動きになってくる。透明だった色も次第に赤く色付いてきた。
粘りがあった純魔石水はスライムほどの固さとなり、今度はビーカーから取り出す。両手にそれを持ち、掌で包み込む。そしてさらに魔力を送りこんでいく。
柔らかかったスライム状の純魔石水は宝石の固さとなり、小さな丸い結晶となった。
「よし、まずは一個完成ね」
『魔石の基礎知識、精製魔石について、市場の価格について』
ダラスさんが教えてくれた通りの内容だ。
魔石の基礎知識はどんな種類の魔石があるか、魔石はなにから出来ているか、どのような付与が行えるか、など。それらが細かく分かれた問題となっていた。
精製魔石については精製の工程、魔力の種類、出来上がった魔石の様子、特殊魔石の精製方法、など。段階を追って書いていくような問題。
市場価格については、最近の魔石の価値や価格、どのような流通が行われ、魔導師の付与価格、どのような魔導具として使用されるのか、魔導具としての価格、など、主にお金に関する問題。
うん、筆記試験は今までずっとやってきたことばかり。大丈夫! 見落とさないようしっかりと読み、記入していく。
静かな部屋のなか、カリカリとペンを走らせる音が響く。皆、集中し書き込んでいく。途中、どうやって書いたら良いものか、と思うような質問もあったりしたが、自分の思い付く範囲で必死に書いていった。
窓が開け放され穏やかな風がふんわりと流れる部屋。次第に書き終えたと思われる人たちが、溜め息を吐いたり、伸びをしたりと、少しずつ部屋にペンの音以外が響いてくる。
私もなんとか全ての解答を書き終えると、ホッと息を吐くのと同時に緊張からドッと疲れが押し寄せる。
椅子の背凭れに身体を預け、ボーッと部屋を眺めていると、なんだか不思議な気分にもなった。
私はローグ伯爵家の一人娘だった。十歳のときのあの神託がなければ、今こうしてこの場にいることもなかった。魔石は昔から大好きだが、だからといって仕事にしているとは思えなかった。伯爵家の人間として生きていくものだと思っていた。
それがなんの因果か、魔石精製師を目指し、しかも両親は行方不明となり……領地まで失った……。ダラスさんの弟子になれたことは運が良いのだろう。私はこうなる運命だったのか、全ては神託から始まった……偶然だったのか、必然だったのか……。
そんなことを考えている間に、終わりの合図が響き渡った。試験官は懐中時計で確かめながら、声を張り上げる。
「終了だ! 一番後ろの者! 自分の列、全員分の解答用紙を回収して持って来てくれ」
一番後ろ……私だわ! 慌てて立ち上がり、順に解答用紙を受け取っていく。メルはニッと笑っていた。
全員分の用紙を試験官に提出し、席へと戻る。
試験官が用紙をまとめている間に、試験官と同じような服装の人が二人、カチャカチャと音を立てながら、大きな荷物を抱え入って来た。
「次は精製魔石だ。各自、前から器材を取っていけ」
入って来た二人が抱えていたものは、箱に入った精製魔石に使用する器材。乳鉢に清水、ろ紙にろうとにビーカー、それに加熱用の魔導具と魔石原石のかけら。それらが一つの箱に収まっていてそれを受け取っていく。
「まずはろ過、蒸留の精製魔石。そのあとに魔力練り上げの精製魔石だ。どちらも付与魔力対応は自由だ。それらを受験番号と名前の付いた箱に入れて提出」
全員に器材が渡ると、皆ガチャガチャと箱から取り出し準備をする。
「これも二時間だ。では、開始!」
よし! と、気合いを入れ、腕まくりしつつ原石と乳鉢に手を伸ばす。そしていつものごとく、ゴリゴリと……。あちこちからゴリゴリと音が響き渡り、思わず笑いそうになってしまう。それは皆、同じだったようで、先程の筆記試験のときよりかは空気が柔らかかった。
ゴリゴリとすり潰した石を清水と混ぜ合わせろ過していく。ろ紙を広げ、ろうとに装着させる。そしてビーカーにろ過させていく。
これで、ある程度の不純物を取り除くことが出来て魔素が含まれるものだけが残るのよね。
そこからさらに蒸留し、ビーカーに溜まった魔石水を魔導具で加熱していく。加熱されると魔石水は不純物と純水とに分けられ、魔素の純度も上がっていく。その出来上がった純魔石水を魔力で結晶化させるのだ。
別のビーカーに溜まった純魔石水。それを持ち上げクルクルと動かしながら、結晶化の魔力と、付与魔力に合わせた魔力を送っていく。次第に純魔石水は粘りを持つかのような鈍い動きになってくる。透明だった色も次第に赤く色付いてきた。
粘りがあった純魔石水はスライムほどの固さとなり、今度はビーカーから取り出す。両手にそれを持ち、掌で包み込む。そしてさらに魔力を送りこんでいく。
柔らかかったスライム状の純魔石水は宝石の固さとなり、小さな丸い結晶となった。
「よし、まずは一個完成ね」
0
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる