【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
上 下
75 / 247
第2章《修行》編

第73話 喧嘩

しおりを挟む
「うん! ありがとう!」

 両手を前に突き出し意識を集中させる。チチルの身体から流れ出る体液に集中し、両手に結晶化の魔力を込める。それに反応するように、チチルの体液はゆらゆらと動き出した。
 黄色い体液は宙を舞い、流れる川のように徐々にこちらへ向かって流れてくる。

「おぉ、凄い……」
「あぁ、これが魔石になるのか……」

 ディノもイーザンも唖然としたまま、宙を舞う体液を見詰めている。

 流れる体液はこちらに流れまいという意思があるかのように抵抗を感じる。こちらの魔力が吸い取られるような感覚に、いつも通りだという手応えを感じた。
 よし。きっと大丈夫。このまま集中!

 引っ張られないように魔力を繋ぎ止め、手繰り寄せるようにチチルの体液を操る。手繰り寄せた体液は空を舞い、私の掌へと集まっていく。魔力が混じった体液はキラキラと煌めき、澄んだ色となっていく。そして私の目の前で渦巻き出し、圧縮されていった。

 圧縮されていく体液は渦を巻いたまま、小さく丸くなってコロンと私の手の上に収まった。

 私の手に乗る黄色い魔石。鮮やかな黄色は美しく輝いていたが、中心部分では濃い色をして歪に蠢く渦が見えた。
 それと同時にチチルの身体がさらさらと砂のように崩れ去り、風に煽られ消えて行った。


「おぉ、凄いな!! 滅茶苦茶綺麗だな!」

 ディノが興奮しながら駆け寄って来る。イーザンも魔導剣を鞘におさめ、ゆっくりとこちらへと歩いて来る。

「あー、無事に出来て良かったぁ……」

 緊張と疲れでその場へとへたり込んでしまう。イーザンがそんな私の顔を覗き込むようにしゃがんだ。

「魔力回復薬はいるか?」
「ありがとう、とりあえずはまだ大丈夫」
「分かった……出来上がった魔石を見せてもらってもいいか?」

 イーザンは私の前に膝をついたまま聞いた。頷き、イーザンの前に手を差し出すと、私の掌に乗る魔石をイーザンは手に取った。

 イーザンの掌に収まるほどの大きさの魔石。今回はそれほど大きくはない。イーザンはその魔石をじっくり観察するように、太陽へと翳した。

「魔石というものはああやって出来るのだな。面白い」

 イーザンがワクワクしている? なんだか目を輝かせていそうに見える。初めて見る表情で、私はイーザンを観察してしまった。それに気付いたのか、ふいっと私を見たイーザンと目が合い、心臓が跳ねた。び、びっくりした……見詰めていたのがバレた!? あわあわと誤魔化すように視線を外す。

 それを見ていたのかなんなのか、いきなりディノが私とイーザンの間に割り込み、イーザンから魔石を奪った。

「おい、まだ私が観察している。勝手に取るな」
「いいだろ! 俺にも見せろ!」
「私が見た後にしろ」
「いやだね! 俺も今見たいんだよ!」

「ちょ、ちょっと!」

 喧嘩なのか言い合いが始まってしまった。イーザンは取り返そうとディノの腕を掴むが、ディノは負けじと魔石を持った手を高く遠ざける。

「お前は……」

 イーザンから低い声が響き、ビクッとする。あわわ、な、なんか怒ってる……? イーザンはディノの胸倉を掴み、物凄い顔で睨んでいる。

「ちょっと! 喧嘩するくらいなら返してー!!」

 ディノとイーザンの間に割り込み、喧嘩を止めようとすると、私の肩からふわっと浮かび上がったルギニアスがディノの手から魔石を取り上げた。

「「「あっ」」」

 全員がルギニアスを見た。しれっとした顔のルギニアスは魔石を抱えたまま、手を伸ばしても届かない高さにまで浮かんだ。
 ルギニアスが抱えると滅茶苦茶大きく見える……。

「プッ。ルーちゃん可愛い」

「は? せっかく仲裁してやったのにその言い草はなんだ」
「え、あ、ごめん」

 クスクスと笑っていると、不機嫌になったルギニアスが私の元に降りて来た。そして手を差し出すとその上に魔石を置き、フンと再び肩の上へ。

 唖然としたままの二人はばつが悪そうに視線を逸らした。

「ルーちゃん、ありがとうね」

 肩に乗るルギニアスのほうが不機嫌になってしまったため、宥めるように頭を撫でた。相変わらず「フン」と鼻を鳴らしていたけど……。

 そして掌に魔石を乗せ、二人のほうへ差し出した。

「二人で一緒にどうぞ」

 差し出された魔石をちらりと横目に、二人は「ぐぬぬ」といった顔をしながらも、小さく溜め息を吐きながら、大人しく私の言葉に従ったのでした。
 年上なんだから喧嘩しないでもらいたいわねー。フフフ。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...