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第2章《修行》編
第71話 失敗
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ルギニアスが声を上げたと同時に地響きのようなものを感じた。思わずよろけるとイーザンが腕を掴み支えてくれる。
そして私を背後に庇うと、魔導剣を抜いた。同様にディノも剣を抜き身構える。
《ゴゴゴゴゴゴゴォォォ》
地響きと共に砂が盛り上がって行ったかと思うと大きな山となり、そしてザザァッと砂をまき散らしながら、姿を現したのはサソリ型の魔蟲だった。
「うっぷ」
昨晩のピスプスの唐揚げを思い出しちゃった……うぅ。
巨大なサソリは私たちの身長よりも遥かに高く、そして尻尾までを含めた胴体の長さは私たちの身長を三倍くらいにしたほどの大きさだった。
「おでましだな、キルギだ」
ニッと笑ったディノはそれなりに余裕そうだ。何度か戦ったことがあるのだろうか。
「お前は下がれ」
肩に乗るルギニアスが小さく言った。
「そ、そうだね」
近くにいて巻き込まれたら足手纏いになっちゃう。
「離れていても油断するな、他にも出るかもしれない」
イーザンは私の気配が遠ざかったことに気付いたらしく、振り向くことなく言った。
そ、そっか、この一匹だけとは限らないもんね。気を付けないと。
キルギは背後に伸びる長く大きな尻尾を思い切り振り上げると、ディノに向かって振り下ろした。ディノは背後に大きく飛び退き、鋭く尖った尻尾の先端が針のように地面を突き刺す。
素早く尻尾をまた振り上げたかと思うと、今度は大きな爪を振り回し、横へ空を切る。
ディノは高く飛び退き、キルギの背後へと飛び降りた。真正面にはイーザンが魔導剣を構える。イーザンがなにかを呟くと、魔導剣は炎に包まれた。炎の剣。
「凄い」
紅く揺らめく炎が剣を包む。それを振り上げイーザンはキルギと間合いを詰める。キルギは再び大きな爪を振り回すが、イーザンはそれを難なく躱していき、一気にキルギに近付いた。
そして大きく振り下ろした魔導剣はキルギの爪を切り落とす。
切り落とされた爪の付け根からは体液が流れ出る。痛みからかキルギは暴れ回り、尻尾を振り回す。ディノはそんな背後から大きく飛び上がったかと思うと、キルギの背に乗った。
「うおぉぉぉおお!!」
ディノは大きく剣を振り翳し、キルギの硬い背に力の限り剣を突き刺した。
『グギイィィィイイイイイ!!』
けたたましい鳴き声のような音を発し、キルギはのたうち回る。剣は背に突き刺さったまま、ディノを振り落とそうと必死にもがいている。
しかしディノは予想していたのか、剣をさらに深く突き刺していく。振り落とされるような素振りは全くない。
「ディノ!」
「おう!」
イーザンがディノに向かって叫ぶと、ディノはそれに反応するように剣を突き刺したまま、キルギの背から飛び降りた。
そしてイーザンは掌を前に突き出し、再びなにかを呟く。イーザンの掌からは激しい雷が飛び出した。雷は一直線にディノの剣まで伸びる。そして剣身を伝いキルギの身体を貫いた。
『グギイィィィィィ……』
ビクンと一瞬跳ねたキルギはドスンと地面に砂煙を上げながら倒れ込んだ。
「あー、俺の剣……」
プスプスと煙を上げているディノの剣。ディノは動かなくなったキルギの背に再び飛び乗ると、剣を引き抜き体液を振り払うように大きく振った。そして自分の剣が無事かどうか確認する。そのときハッとした顔でこちらに勢い良く振り向いた。
「ルーサ!! 魔石!!」
ボーッと二人の戦いを感心しながら見ていて、すっかり忘れていた! しまった!!
慌てて手を突き出し集中する。結晶化の魔力を!
キルギの体液はゆるゆると集まって来る……でも、なにか違う……駄目だ、いつものように抵抗感がない。どろりとしたものが集まってくるような感覚。いつものようにお互いの魔力が引っ張り合うかのような感覚がない。
目の前に体液が川のように舞うのは一緒なのに……違う。はっきりと分かる。これは駄目だ。
ゆっくりと魔力を送ることをやめていく。すると先程まで空を舞っていた体液はどろりと地面へと落ちていく。
「? どうなったんだ?」
ディノは小首を傾げながらキルギの背から飛び降りる。剣を鞘へとおさめ、こちらへと向かってくる。イーザンも魔導剣を大きく振り払うと、纏っていた炎が消え、そのまま鞘へとおさめた。
「ルーサ、どうした? 失敗か?」
「うん。ごめん、タイミングが遅れちゃった……せっかく倒してくれたのにごめんね」
「ディノが倒したときに声を掛けなかったからだな」
イーザンもこちらに近寄りつつ言った。
「い、いやいや! お前も気付いてたなら言えよ!」
「ディノが言うかと思っていたからだ」
「くっ」
ディノは悔しそうな顔。ぐりんと私に振り向くと、ガッと私の肩を掴んだ。ルギニアスがビクッとしたのに気付く。
「すまん! 次はちゃんと声かけるから!」
「え、あ、いや、私もボーッと二人の戦いに見惚れちゃってたし。次は気を付けるよ!」
「見惚れてた?」
「え、あ、うん。かっこよかったよ、二人とも」
「フッ。だろ?」
キリッとドヤ顔になったディノに、イーザンとルギニアスの溜め息が重なった……アハハ。
そして私を背後に庇うと、魔導剣を抜いた。同様にディノも剣を抜き身構える。
《ゴゴゴゴゴゴゴォォォ》
地響きと共に砂が盛り上がって行ったかと思うと大きな山となり、そしてザザァッと砂をまき散らしながら、姿を現したのはサソリ型の魔蟲だった。
「うっぷ」
昨晩のピスプスの唐揚げを思い出しちゃった……うぅ。
巨大なサソリは私たちの身長よりも遥かに高く、そして尻尾までを含めた胴体の長さは私たちの身長を三倍くらいにしたほどの大きさだった。
「おでましだな、キルギだ」
ニッと笑ったディノはそれなりに余裕そうだ。何度か戦ったことがあるのだろうか。
「お前は下がれ」
肩に乗るルギニアスが小さく言った。
「そ、そうだね」
近くにいて巻き込まれたら足手纏いになっちゃう。
「離れていても油断するな、他にも出るかもしれない」
イーザンは私の気配が遠ざかったことに気付いたらしく、振り向くことなく言った。
そ、そっか、この一匹だけとは限らないもんね。気を付けないと。
キルギは背後に伸びる長く大きな尻尾を思い切り振り上げると、ディノに向かって振り下ろした。ディノは背後に大きく飛び退き、鋭く尖った尻尾の先端が針のように地面を突き刺す。
素早く尻尾をまた振り上げたかと思うと、今度は大きな爪を振り回し、横へ空を切る。
ディノは高く飛び退き、キルギの背後へと飛び降りた。真正面にはイーザンが魔導剣を構える。イーザンがなにかを呟くと、魔導剣は炎に包まれた。炎の剣。
「凄い」
紅く揺らめく炎が剣を包む。それを振り上げイーザンはキルギと間合いを詰める。キルギは再び大きな爪を振り回すが、イーザンはそれを難なく躱していき、一気にキルギに近付いた。
そして大きく振り下ろした魔導剣はキルギの爪を切り落とす。
切り落とされた爪の付け根からは体液が流れ出る。痛みからかキルギは暴れ回り、尻尾を振り回す。ディノはそんな背後から大きく飛び上がったかと思うと、キルギの背に乗った。
「うおぉぉぉおお!!」
ディノは大きく剣を振り翳し、キルギの硬い背に力の限り剣を突き刺した。
『グギイィィィイイイイイ!!』
けたたましい鳴き声のような音を発し、キルギはのたうち回る。剣は背に突き刺さったまま、ディノを振り落とそうと必死にもがいている。
しかしディノは予想していたのか、剣をさらに深く突き刺していく。振り落とされるような素振りは全くない。
「ディノ!」
「おう!」
イーザンがディノに向かって叫ぶと、ディノはそれに反応するように剣を突き刺したまま、キルギの背から飛び降りた。
そしてイーザンは掌を前に突き出し、再びなにかを呟く。イーザンの掌からは激しい雷が飛び出した。雷は一直線にディノの剣まで伸びる。そして剣身を伝いキルギの身体を貫いた。
『グギイィィィィィ……』
ビクンと一瞬跳ねたキルギはドスンと地面に砂煙を上げながら倒れ込んだ。
「あー、俺の剣……」
プスプスと煙を上げているディノの剣。ディノは動かなくなったキルギの背に再び飛び乗ると、剣を引き抜き体液を振り払うように大きく振った。そして自分の剣が無事かどうか確認する。そのときハッとした顔でこちらに勢い良く振り向いた。
「ルーサ!! 魔石!!」
ボーッと二人の戦いを感心しながら見ていて、すっかり忘れていた! しまった!!
慌てて手を突き出し集中する。結晶化の魔力を!
キルギの体液はゆるゆると集まって来る……でも、なにか違う……駄目だ、いつものように抵抗感がない。どろりとしたものが集まってくるような感覚。いつものようにお互いの魔力が引っ張り合うかのような感覚がない。
目の前に体液が川のように舞うのは一緒なのに……違う。はっきりと分かる。これは駄目だ。
ゆっくりと魔力を送ることをやめていく。すると先程まで空を舞っていた体液はどろりと地面へと落ちていく。
「? どうなったんだ?」
ディノは小首を傾げながらキルギの背から飛び降りる。剣を鞘へとおさめ、こちらへと向かってくる。イーザンも魔導剣を大きく振り払うと、纏っていた炎が消え、そのまま鞘へとおさめた。
「ルーサ、どうした? 失敗か?」
「うん。ごめん、タイミングが遅れちゃった……せっかく倒してくれたのにごめんね」
「ディノが倒したときに声を掛けなかったからだな」
イーザンもこちらに近寄りつつ言った。
「い、いやいや! お前も気付いてたなら言えよ!」
「ディノが言うかと思っていたからだ」
「くっ」
ディノは悔しそうな顔。ぐりんと私に振り向くと、ガッと私の肩を掴んだ。ルギニアスがビクッとしたのに気付く。
「すまん! 次はちゃんと声かけるから!」
「え、あ、いや、私もボーッと二人の戦いに見惚れちゃってたし。次は気を付けるよ!」
「見惚れてた?」
「え、あ、うん。かっこよかったよ、二人とも」
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